『STAR WARS: 遂げられた指令』 第1部 12章 消えない炎
十二 消えない炎
「それで、君はバラカ艦長に自白剤を投与されて、電流を流されながらすべてを供述したというわけかな?」
ムソック提督は香ばしく焼けた水鳥の肉を頬張りながら、いたずらっぽく尋ねた。
「その時は、実際に僕もそうなると思ったのです。」テジュンが笑いながら答える。「帝国軍の人間でも実態を知らないあんな尋問ドロイドを見せられてはね。でも帝国の施設から持ち出されたそれは、暴力的な機能のためではなくて単に捕虜の健康状態や供述の真偽を測るために使われていたわけです。僕が注射されたのは、なんのことはない、ただの栄養剤でした。全身は痛んでいたし、よほどみじめな姿だったんでしょうね。兵士の案内でシャワー室に連れていかれ、体を洗ってから艦長の事情聴取を受けました。」
「バラカ艦長はあなたの供述を信用したのですか?」TI-134が尋ねた。
「そのことに関してはあまり心配は要らなかったのです。僕はその時点では知らなかったけれど、ダイアディーマも自分から〈ジャヴェリン〉に乗り込んでいて、すでに艦長に全ての成り行きを報告していました。艦長は自分たちが実際に見ていた状況と僕ら二人の話を照らし合わせて、十分に信用してくれたのでした。」
テジュンが話を終え、皆がステーキを食べ終えると、TI-134は四人分のカフを用意してテーブルに並べた。
給仕ドロイドが食器を片付けるのを目端で追いながら、ムソック提督はさりげなくテジュンに尋ねた。「ところで、私の見る限り君はだいぶ緊張しているようだな。」
「わかりますか。」テジュンはやや気まずそうに頷いた。「実を言えば、どうしても眠れないでいるのです。」
「あんたから、これから殺されるのを待ってる人間特有の臭いがするよ。」シスバがなんとも不吉なことを言った。
「この戦いは恐らく反乱同盟の存亡をかけたものになるだろう。」ムソックが穏やかに言った。「不安を感じるのも当然だ。」
「僕の名誉のためにもひとつ言わせていただければ、」テジュンは顔を上げた。「死ぬのが怖いのではありません。この戦いに命をかける価値があるとも思っています。ただ、失敗することを思うと……。」
「私たちが負けることを案じているのかな?」
「僕たちの奮闘も力及ばず、銀河に残された希望がついえる。その後のことをつい考えてしまうと……たまらない気持ちになりますよ。」
ムソックは自らの感情を吐露した若者をしばらく見つめていたが、やがてテーブルの上で両手を組み合わせると、ゆっくりと口を開いた。
「私たちの拠り所たる、希望。その最大の強さは何だと思う? それは、決して消え去らないことだ。たとえ何が起ころうとも。私は今、そのことを心から実感しているのだよ。」
提督の力強い言葉に、テジュンは背筋を伸ばした。ムソックは語りつづける。
「君が言ったように我々のこの作戦が失敗する可能性は十分にある。というよりむしろ、成功する確率の方が低いのだ。これは私がこれまでに経験してきた数多くの軍事作戦と比べても特に無謀なものだと、私は自信をもって言える。だが、たとえ我々皆がここで倒れても、希望だけは残り続けるだろう。それは追い込まれれば追い込まれるだけ、正義の執行を渇望してやまない燃え盛る炎となって熱と光を増してゆくのだ。事実、私も昔完全に敗れたことがあり、一度は希望も意欲も将来もすべてを失ったと感じた。だがそうではなかった。希望は決して消えない熾火として残り続けていた。希望の火は闇に沈んだ目を輝かせ、垂れた腕に力を与える。私はそれを知り、そして再び炎を燃え上がらせるためにここにいるのだ。それが私の戦う理由だ。」
リラックスした、気さくな態度を崩さなかったムソック提督の口調に急に力がこもり、彼の丸い目が火のように輝いた。テジュンはやや圧倒されながらも尋ねた。
「それでは提督は、ずいぶん長く戦ってこられたのですね。」
「そうなのだ。ただし反乱同盟に加わったのは比較的最近だ。実際、君たちと大差ないだろう。あのヤヴィンにおける戦いでデス・スターが破壊された後、帝国の"狩り"が激しさを増していたときだ。偶然の巡りあわせから、窮地に陥ったライカン将軍を助けることになり、そのまま彼に誘われたというわけだな。」
ムソックは舌を湿らすようにカフを少しすすり、つづけた。
「この反乱同盟には、君たち二人と同じく帝国軍からの離反を選んだ将兵も多い。中にはドドンナ将軍やライカン将軍のように共和国時代から軍に仕えていた人たちもいる。モスマ指導者を筆頭に、帝国の不正を果敢に告発した政治家たちもいる。またプリンセス・レイアやシンドゥーラ将軍はまさに反乱者や独立主義者たちの中で生まれ育った。さらに、デス・スターにとどめを刺したコマンダー・スカイウォーカーは巨大な圧政の前に立ち上がった無名の民衆の代表とでも言えるだろうな。こうして挙げてみても、この組織には実にさまざまな出自の者たちが集っているが、この私ほどに、長きに渡ってあのパルパティーンと戦ってきた者はほとんどいないだろう。私も、このキャプテン・シスバも、ずっとその日を待っている。ついに宿敵を打ち倒す日をだ。」
ムソックは拳を強く握り、歯を剥き出した。
「私たちはパルパティーンの軍勢の前に一度は破れ、何もかも失った。だが希望は消えていなかったのだ。そして、その昔私たちに下された指令はまだ果たされていない。たとえこの度も再び破れるとしても、いずれ成し遂げて見せるとも。私たちはパルパティーンと彼の操るものを、必ず打ち倒すのだ。」
ムソックは熱に浮かされるように、彼の断固とした決意を強く言い表した。シスバも唸り声を発して頷いている。
「もしムソック提督やキャプテン・シスバが命を落とされるなら」TI-134が補給物資目録でも読み上げるような無感動な調子で口をはさんだ。「私がそのあとを継ぎます。指令は必ず果たされなければなりません。」
「僕たちが経験をお話ししたように、あなたたちの過去についても教えていただけますか?」この謎めいた者たちに、テジュンは今やすっかり興味を覚えていた。ダイアディーマは何も言わなかったが、カフにも手を付けずテーブルに身を乗り出して聞いているところを見るに、彼女も同じ気持ちらしい。
「それは構わないが……しかし長い話になるぞ。」ムソックは目玉を回した。
「いいのです。どうせ僕も寝付けずに困っているのですから。提督さえよろしければ。」
「では私たちの見てきた戦いについて、聞いてもらうとしようか。この船は集結地点に直行するのではない。帝国軍の追跡を防ぐため幾度かのジャンプを繰り返す。それに──すでに司令部にも了解を得ているのだが──作戦に万全を期すため、途中で寄りたい場所もあるのだ。話をする時間はある。さて……。」
ムソック提督は記憶を絞り出すように頭蓋を撫でながら、ゆっくりと語り出した。
「あれはもう、二十標準年以上も前のことだ……。その頃はもう、銀河共和国の社会状勢はすっかり行き詰まっていた。元老院は適切な機能を果たなくなっていた。アウター・リム領域や影響力の小さな星系は忘れ去られ、主権を奪われながらコア・ワールドを肥やすために搾取されつづけているような状況だった。鎖に繋がれたまま養分を吸われていたのだな。パルパティーンは元老院最高議長だった。そして私やシスバは、アウター・リム領域に本拠を置く、ある警備会社で働いていたのだった……。」
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