オザラの戦い ~最初の大会戦~
神々や地の子らが2つの陣営に分かれて戦った暗闇の大戦。この記事では、その中でも両陣営最初の大衝突であり、五大会戦のひとつに数えられるオザラの戦いについて解説する。(※)
オザラの戦いは大戦初期に起こったが、竜や天使の多くが傷ついた激戦であり、闇の陣営の勝利により壮絶な戦乱期の幕開けとなった凶事である。
【マバールコンと天使たち】
神々の主アーマバの子らの中でも際立った存在であったマバールコン神は、アーマバの考えを体現し、その目的の遂行のために全身全霊を尽くさんとしたがために「アーマバの声」とも呼ばれた。
アーマバが地を拓くために竜たちを創造したのに倣い、マバールコンは天使という種族を造った。
天使は、地に知恵を行き渡らせるための助言者として、また善と正義、すなわちアーマバの意志の擁護者として造られたのだった。彼らは並外れて強力ではあったが、竜たちと同じく純粋な地の子らであり肉体を持つ者たちであった。
天使はきらめく鍛鉄のごとき体をもち、陽光、月光、火炎をまとい、それらを翼として自由に飛翔した。その長い尾がしなやかに波打つたび、美しく穏やかな楽の音が響きわたったと言われる。
平和と繁栄のために仕えた天使たちではあったが、後述のようにエンシ神の反乱によって暗闇の大戦が勃発すると、正義の怒りに燃え、おのおの剣をとって戦いに赴いた。
【エルフの地での争い】
アーマバの子らによる地の子らの創造が次々に行われ、多彩な種族と文明が地を覆い尽くすのを見て、闇の司エンシはそれらよりも優れた種族を造ろうと試み、エルフを創造した。
エルフは力強く、思慮深く、長命で、エンシの子らにふさわしく光を必要としなかった。そして極めて高慢で、自負心が強かった。
エルフが都市を築き、住処を広げると、エンシは彼らの国を昼夜問わず深い闇で覆うようになった。エルフたちは常闇の中で父の保護を感じ、大いに権勢をふるった。
しかし、闇はあくまで夜を横たえるためのものであり、月光をも拒絶する常闇で地を覆うことはアーマバの意思への挑戦であると考えた多くの神々は、エンシの行いを糾弾するようになった。太陽神サーフォーカ、月の王ティラ、火を司る竜神グ・レヴアルの3柱は、特に強くエンシを非難した。
しかしエンシはこの訴えを無視し、エルフの国の拡大と共に常闇の天幕を広げていった。
エンシは神々の間で厄介者と見なされるようになったが、鉱道の司オベタル、嵐の神イェンマなどはエンシに賛同し、アーマバの子らの分断は癒し得ないものとなっていった。
神々の間での、また地の子らの間での緊張感が高まる中で、ついに直接的な争いが生じた。
エルフたちが大森林の果樹に目を留め、木々が常闇に覆われはじめると、森の狩人バンク神の子らであるナガたちがこれに抵抗し、小競り合いが起こったのだ。
【戦火の拡大】
これを皮切りに、各地で散発的な戦いが生じはじめた。地の子らは次々に武具を取り、軍団を組織し、砦を築いた。神々も化身の姿をとって戦の長となり、地の子らを導くようになった。
エンシに味方した兄弟たちは4柱だけであったから、その反乱はすぐに鎮圧されるであろうと神々は考えた。だが、ほとんどの竜がエンシの側についたことで勢力は拮抗するようになる。
【闇の竜と光の竜】
竜は、アーマバ自らが地を拓くために創造した種族で、肉体をもつ地の子らの中では最も強大な者たちだった。彼らにしてみれば同じアーマバの子であるはずの神々が、自分たちの切り拓いた地の支配者として振舞っていることに少なからぬ反発があったのであろう。
エンシは竜たちの誇りを傷つけぬよう同盟を請い、彼らの好意を勝ち得た。こうして大半の竜がエンシの陣営に与し、闇の竜と呼ばれた。彼らは暗闇の大戦においてその生来の力強さと狡猾さを遺憾なく発揮し、敵を大いに苦しめた。
一方、わずかながら光の神々の陣営に味方した竜たちもいた。
竜神グ・レヴアルの娘であるロウルとゼウル、また大飛竜ニグスや石の雨タナガウスなどである。
光の竜たちは、神々に対して優位性を主張するよりもその権威を認めることを選んだ者たちであったから、すすんで神の威力と権能を求めた。そのため、光の竜は並外れた膂力のみならず術をも行使する存在であり、戦場においてはおしなべて闇の竜を凌いだ。
【戦のための創造物】
当初の小規模な戦闘において戦力として働いたのは、化身をまとった神々と、地の子らの軍勢であった。強大な竜や天使たちは各々の拠点を守護することに専念しており、派手な衝突は起きなかった。
戦いが徐々に規模を増すにつれて、闇の陣営の神々は地の子らよりも強力な兵を投入することを考えた。彼らは動物をより大きく作り替えた戦獣や、術によって強化した魔獣を軍勢に加え始めた。
騎乗や運搬のために用いられていた馬や牛や狼は敵を蹴散らすため巨大にされ、ついには動植物のみならず死骸や岩石や泥濘に至るまでが術によって凶暴な兵士へと変えられた。
またイェンマの巨人や、アヴォッムの手になるクラーケンなど、戦いのために造られた種族も現れるようになる。
これらの創造物は総じて凶暴、無慈悲であり、多くの場合殺戮を渇望するのみで理知を持ち合わせていなかった。
こうして闇の神々が地の子らよりも強力な兵士を戦線に送り込むようになると、光の神々もこれに呼応して戦獣や魔獣を造った。
慈しみの雨リナーリルの巨大なカニや、銀の翼マイーズルのグリフォン、雷神マイージャクの雷馬などがそれである。
【威光の塔】
争いが長引く中、光の陣営の神々は化身をまとって各地に散らばり、おのおの地の子らを導いていた。だがマバールコンは地における全軍の本拠地を設定し、結束のための旗印を掲げるべきだと考えた。
マバールコンは冠雪山脈の最高峰であるオザラ山に目をつけ、その頂上に塔を建てた。その高い砦は「威光の塔」「天標」「オザラの剣」などと呼ばれ、最上層には太陽神サーフォーカ、月神ティラ、火神グ・レヴアルが協働して造った「神の松明」が置かれた。それはまばゆい光を放射し、塔を守るマバールコンの天使たちにさらなる力を与えた。
さらに威光の塔の周辺には他の砦や野営地も築かれるようになり、オザラ山を中心とした地域全体がオザラと呼ばれた。そこは今や最大の軍事拠点であった。
威光の塔の建造は光の陣営の者たちに勇気と誇りを与えた一方、闇の神々の敵意をオザラに集中させるものとなった。
威光の塔に掲げられた神の松明には闇を払う強い力があり、放たれる光線が常闇の天幕をたびたび侵したため、エンシたちはオザラを野放しにしておくことができなくなり、ついに衝撃的な軍事作戦が開始されることとなった。
【オザラの戦い】
闇の軍勢の者たちが各地で砦に篭って守勢に回り、竜たちが領地を置いて一斉に飛び立つのを見て、神々は事態の急変を知った。
そのころエルフの全軍は秘密裏に大森林を抜けて冠雪山脈に達し、オザラの敵陣を奇襲した。光の軍勢はエルフたちを迎え討たんとして剣をとったが、そこに闇の竜たちが舞い降りた。こうしてオザラは一夜にして激戦の場となった。両陣営が次々に援軍を送り込み、戦いは日に日に激しさを増した。
神々、地の子ら、竜、天使、戦獣、魔獣、兵器。総力戦が繰り広げられ、両陣営に甚大な被害が出た。
戦いはすさまじく、竜のみならず、神ですら斃れる者があった。両陣営の者たちがオザラに進軍する途上でもいくつかの衝突があり、ギラマンデの反乱や、五大会戦の1つに数えられる緑海の戦いなどもこの時に起こっている。
地の利のある光の軍は初めこそ優勢であったが、闇の軍勢の苛烈な攻撃に徐々に押され、戦線の後退を余儀なくされていった。
神の松明に焼かれ瀕死となった竜エディラグルスの肉体を、オベタル神が金属と宝石で蘇らせ機械竜として戦いに復帰させるなど、闇の軍勢の執念は並々ならぬものがあった。
【闇の太陽】
ついに、威光の塔は陥落する。
光の本陣は潰走して山を下り、麓で抵抗をつづけたが、闇の神々が塔を占拠して神の松明を破壊すると、その劣勢は覆せぬものとなった。
決定的であったのは闇の太陽の設置である。
闇の太陽は、闇の司エンシ、鉱道の司オベタル、水底の目アヴォッムの3柱が造り出した巨大な宝玉、果てなき闇を投射する魔具であった。
これは神の松明に対する嘲り、そして光の陣営の筆頭者である太陽神サーフォーカを辱める意図をもった闇の陣営の旗印であった。
闇の太陽が抗いがたい闇を放ち始めると、エンシの常闇の天幕は勢いを増し、天使たちは翼を失って次々と地に落ち、竜の顎の餌食となった。
【オザラ以後】
光の軍勢はオザラから撤退し、各地に散らばった。
闇の軍勢はオザラの戦いに勝利したとはいえ、被った被害も重かった。
こうしてオザラの戦い以降、小規模な小競り合いを除いて両軍の衝突はほとんどなくなり、先の見えぬ緊張状態が続くようになる。
そしてこの両軍のにらみ合いが後に、少人数で闇の地に侵入して数々の戦績を残し、ついに最終決戦において光の軍勢を率いて常闇の地にわたった英雄「光の執行者たち」の活躍の土壌となったのである。