ドブ記9:1 スターウォーズ:ビジョンズ感想 『村の花嫁』がやばすぎる
※ネタバレ注意 内容の細かい点に触れています
※あくまで個人の感想であり、考察などは個人の偏った知識に依存しており正確性は保証しません
『スターウォーズ:ビジョンズ』という作品が数日前、ディズニープラスで配信されました。日本の7つのアニメスタジオが作る、9編からなるスターウォーズの短編アニメアンソロジーです。
僕は元来スターウォーズの大ファンですが、アニメの方は疎くて、公開前の情報とかをチラッと見る感じでは「大丈夫か......?」という不安ばかり先行していました。
なんか変な侍みたいなのいるし... スターウォーズのルーツに日本的なものやクロサワがあるとはいえ......という。せっかくなので観るのは観るとして、なんだか胃が痛くなるような感覚で配信を待っていました。
で、視聴しまして。
結論から言うと、めちゃくちゃ面白かったです。それぞれのスタジオが思い思いに作品を作っているため、非常にバリエーションがあり、いろいろな視点や表現、何をもってスターウォーズとするかという考えなど、まさに十人十色で飽きませんでした。
僕のようにスターウォーズの世界観や設定の知識がある程度あるファンと、例えばスターウォーズは未見だがひいきのアニメスタジオや監督が関わっているから見てみようという人だと、見方がガラリと変わると思いますし、そのあたりも含めて自分にヒットする作品が1つは見つかると思います。スターウォーズファンにも、そうでない人にもぜひ見てほしいです。
結局、企画の面白さにやられて9本続けて観てしまい、Twitterには実況的に感想を並べたのですが、細かく言いたいこともあるのでnoteに記録しておきます。
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ということで、取り急ぎキネマシトラスによる『村の花嫁』の感想をまとめたいと思います。この作品が9作品の中でも突出して「やばすぎた」ので。
まず、ビジョンズの各作品は、スターウォーズ世界の歴史における時系列などがバラバラです。というか、ものによって正史に組み込めるような明確な時系列があるものから、パラレルワールドやオリジナル設定のような、本編とは無関係と思われるものまであります。
『村の花嫁』は前者で、正史に沿った明確な時系列が存在していると思われます。
舞台は帝国時代の初期、主人公はジェダイ粛清を逃れたジェダイ・パダワンでしょう。彼女はマスターを殺されていると思われます。
回想シーンがあまりちゃんと読み取れなかったのですが、一瞬映る赤いライトセイバーの光刃のカットなどから、オーダー66によるクローン兵の反逆ではなくヴェイダーや尋問官などによるジェダイ狩りでやられたと思われます。
この作品は、こうした背景情報が本当にさりげなく織り込まれており、知識があるとかなり詳細な情報が読み取れるようになっています。説明くさくないので、知らなければ特に気にもなりません(ならないはずです。僕は知りすぎているので、未見の人の感覚はもうわかりません...)。
『村の花嫁』には短編ながら非常に多くの小ネタが詰め込まれており、特にニヤリとした点などを以下に挙げます。
●分離主義勢力の残したバトル・ドロイド
クローン戦争で銀河共和国と戦った独立星系連合(分離主義勢力)はドロイドによる軍隊を保有していましたが、戦争終結時にすべてが機能停止しました。
そうして残されたドロイドや兵器、基地が再起動されたり、再プログラムされて誰かが活用する、というのはスターウォーズのスピンオフ小説などでかなりよく見る展開なのです。
この作品でも、ならず者たちが分離主義勢力の残存バトル・ドロイドを使用しています。しかも、司令船を破壊することですべて無力化するという例のアレをやっていて笑いました。
●マギナという名で呼ばれるフォース
スターウォーズ世界でおなじみのフォースは、ジェダイやシスだけが持つ超能力ではなく、いわば自然・世界がもつエネルギーのようなものです。ジェダイは、そのエネルギーを研究し利用している一つの派閥にすぎません。
銀河にはジェダイ以外にもフォースに親しみ、利用する種族や集団が古来から存在します。そうしたグループでは、フォースはそれぞれ別の名で呼ばれています。
これもスピンオフではおなじみの描写ですが、この作中の惑星では「マギナ」と呼ばれています。
主人公が「マギナよ、立ち昇りたまえ」と言ったシーン、これは彼女がこの惑星に渦巻くフォースと調和する感覚を掴んだことを示しているのでしょうか。
パダワンの象徴である編み髪を切り落とすシーンと合わせて考えると、ジェダイ・オーダーの消滅した今、この惑星の「マギナ」とのかかわりでフォースに対する目が一段階開け、組織による承認を経ずして自ら「ジェダイに成る」ことを良しとしたのかもしれない、とも思いました。
●黄色い光刃のライトセイバー
ビジョンズの全体的な特徴として、ライトセイバーや光刃の表現がけっこう自由なところがあります。この作品でも平たい刃でしたが、まぁそれ自体にはデザイン以上の大した意味はないのかなと思います。
ただ、黄色い光刃に関しては、彼女がジェダイ・テンプルにおいてガードなど特殊な任務についていた可能性を示唆している気がしました。
昨今は光刃の色の設定が見直されたり、そのあたりかなり自由になっているので色だけでは何とも言えませんが。
●「地の利」
「こっちには地の利がある」みたいな、EP3の例のアレのパロディと思われるセリフが出てきたので笑ってしまいました。
●マニアックすぎる機体
ビジョンズの各作品ではいろいろな宇宙船が出てきます。帝国のわかりやすい象徴であるインペリアル級スターデストロイヤーが特に多いのですが、その他、XウィングやBウィング、TIEリーパーなどいろいろと登場しています。
さて、これがとくに『村の花嫁』の異常なところなのですが、とんでもなくマニアックな機体が登場します。
まず、ならず者が使っている宇宙船です。
これが、コレリアのXSストック軽貨物船という、非常にマイナーな機体なのです。もちろんスターウォーズ本編の映画には出てきません。
最初観た時はYT-1300(ミレニアムファルコンの機体)を改造したものかと思ってよく見なかったのですが、見返したらびっくりしました。こんな変なもの誰がわかるのでしょうか...
そして、ラストシーンに登場する主人公のスターファイターですが、クローンZ95ヘッドハンターという機体です。Xウィングの前身みたいな戦闘機ですね。
で、これはクローン戦争中に共和国クローン軍で使われていたものなので、共和国側のジェダイであった(パダワンだと、クローン軍ではジェダイ・コマンダーという将校の階級になります)彼女がそのまま使っているのも自然です。このあたりもよく設定されています。
彼女か、マスターがくすねて逃げてきたのでしょうか。想像が膨らみます。
この異様にマニアックなチョイスの宇宙船が、これ見よがしではなくて、チラッと映る程度に散りばめられているのが怖すぎます。本気です。
その他、ちらっと登場するドロイドなどもいろいろ出てますのでじっくり楽しめます。
というわけでこの作品はファンから見るとあまりにも情報量が多く、唖然としてしまいました。相当スターウォーズに脳を侵された人が作っているとしか思えません。
そしてその情報量をさりげない描写で表現し、神秘的な世界観と美しい画面を邪魔せずスマートに描く手腕、恐ろしいです。
ここまでひたすらオタクの早口みたいなことを書いてきましたが、そういう要素を抜きにしても、作画、音楽含めて本当に透明感があって素敵な作品なのです。
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以上、『村の花嫁』の感想でした。ビジョンズの他の作品についても色々思うところがあるのでまた書いていきたいと思います。