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夢の中の完全犯罪 【短編小説】

僕は、変な夢をよく見る。
変な夢といっても、人の見る夢は、ほとんどが遠い過去から最近までの記憶や想像、強い思いの断片の繋ぎ合わせであり、変なのは当然ではある。
変なのが普通であり、筋の通る話が変なのは、なんと奇妙なことだろう。

今回(も)、そんな変な夢の話である。
僕は、寝床に入りながら、小説のネタになる完全犯罪を思い付いた。
犯罪状況、アリバイを含め、完璧であり、警察にバレることはない。
よく思い付いたものだと自分を褒めてやり、ベッド前にあるノートにしっかりと書き込んだ。
そのことが間違いなく、影響したのだろう。
夢の中で、その完全犯罪を犯し、一流ホテルのスイートルームで椅子に座り、くつろいでいた。
そこへ「コン、コン」と、ノックがして、こちらが返答する間もなく、誰かが入り込んできた。鍵をかけているにも関わらず。

「こんばんは。初めまして、ですね」
登場したのは、「相棒」の水谷豊とその相棒(そのときの相棒は誰だったかは覚えていない)だった。水谷豊は、テレビで見ていた「相棒」そのままの姿、かたちで、杉下右京だ。
内心、しまった。まずい展開だと思った。それでも、おくびに出さずに挨拶、雑談に応じる。いつのまにか僕の犯した犯罪に変わっていく。焦りで冷や汗が出てくる(気がした)。
話は、どんどんと核心に迫ってくる。
もう少しすれば、矛盾をはっきりとさせ、僕を犯人と名指しするだろう。いや、こちらが自白するまで待っているのか。いずれにせよ、テレビでいえば、あと五分といったところだろうか。

僕は逃げられない、と思った。杉下右京の発する言葉こそ、無駄はなく、真実そのものだ。
ふたりに背を向けて、スイートルームから見える高層の夜景を見る。
考えた。このまま窓を突き破って、自殺をしようか。
死んでも構わないが、この窓を突き破るのは可能だろうか。いや、不可能だろう。そう簡単に割れるものではない。
僕は、そう、不可能なことを可能だと思った大ばか野郎の間抜けだ。
母よ、ごめんなさい、ごめんなさい。姉、その娘たちに迷惑をかけてしまう。愚かな自分のせいで……。夢なら覚めてくれ……。

と、涙したところで、目が覚めた。夢なら覚めてくれ、が現実となった。
神様ありがとうございました。と感謝をした。
ベッド近くにあった完全犯罪のメモには、ペンで大きく Xと書いた。

Xと書いたところで、なんだこれは? と我に返った。
寝る前は、完璧なまでの完全犯罪だったはず。それで眠りについた。
夢の中で、思わぬ盲点を次々と付かれて、看破された。
看破したのは、誰だ? ということになる。
杉下右京。確かにそうだが、作り出したのは、自分の頭の中にある。
「完璧なまでの完全犯罪」を「信じられないような盲点で看破」する。
これを一人で行った。夢は奇妙だと書いたが、これこそが真骨頂であろう。
数年前に見た夢であるが、今でもこの謎は解けないでいる。(実話なので)

僕は、その夢を見たをあと、よろよろと立ち上がった。
台所には、母が居る。何気に聞いてみた。
「身内で、テレビニュースになるような事件を起こしたときはどう思う?」
信じられない、嘆き悲しむ、被害者、被害者の関係者に申し訳ない。
そういったところだろうか。返答するにもありきたりすぎて、質問になっていない。
ところが母は、「引っ越しが大変やと思うわ。ご近所さんとうまくやってて残念やし、費用がかさむ。急いで場所も探さなあかんやん」
は? 「そこ、かーい!!」
と激しく、突っ込んだのは言うまでもない。これまた実話というのが恐ろしい。
夢に限らず、現実も、また奇妙なものなのだ。



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