ベトナム人の女たち【技能実習生との日々⑧】
女子あるあるかもしれんけど
「ねぇキクさん、小耳に入れときたいんだけど」と私のデスクに来たのは同僚で日本人社員のNさん。Nさんは実習生を現場で取りまとめている女性で、雰囲気は【親方】そのもの。そして鋭い感覚で実習生の変化を感じ取り、私に教えてくれるありがたい存在でもある。
「リンとチャンが仲悪いね、注意した方がいいよ」とのこと。
私はこれにびっくりした。リンとチャンは同期の実習生で寮も同室なのだ。ついこの間まで二人して仲良く歩いているのを見ていた。
Nさんからその話を聞いたのと同時に、私は朝のタイムカードを打刻する時の二人に時間差があることを思い出した。
問題の根底は深いかもしれない
実習生は全員がそろって同時に出社する訳ではない。朝の当番(寮の掃除やゴミ出し)もあり、時間差が生まれるのは自然なこと。そして仲のいい2~3人でいつも出社してくる。私の出社時間は実習生より早いので彼女達がタイムカードを打刻する姿を自然と見ることとなっている。その時に大まかな相関関係(誰と誰が仲がいいか)をつかむことにもなっていた。
確かにリンとチャンが別々で出社するのだ。これは【何か】あったことに間違いない。しかしその【何か】が分からなかった。深刻な問題なのか、同じ寮に住む者同士の一時の仲違いなのか。
実は根が深い問題だった
「なぁリン、なんでチャンと一緒じゃないの?喧嘩した?」私は年上のリンの方にまずは聞いてみた。
「コロナ」とリンが一言。意味が分からないので更に聞くと。
「コロナで仕事がない時、私はそれでも仕事があった。でもチャンは仕事が少なくて本当に給料が少なかった。それからちょっと仲悪い」とのこと。
リンの部署は2020年春以降の絶望的に作業量が少ない時でも、チャンの部署よりは仕事が多かった。
しかも間の悪いことに2019年の後半、チャンの残業時間が36協定にほんの少し抵触しそうになったため、実習生の中でも彼女だけ残業をさせることなく定時で帰らせていたのだ。それこそ【ほんの少し】だけのために一人でアパートに帰っていた。つまりほかの実習生より稼ぎが少なかった。それらの鬱憤が積み重なったことがあるかもしれない。
未だ問題未解決
私としても情けないことにこの問題について未だに解決策を見つけられていない。工場全体の仕事量が回復することで解決することでもないような気がする。そもそも以前からの鬱憤が溜まっていたことを私が見過ごしてしまったこともあるからだ。