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思っているよりも、少し先へ。モーション・デザイナー、アーティスト Olivier Escher オリヴィエ・エッシャー

今回は、パリでモーション・グラフィックス・デザイナーとして活躍しているオリヴィエに話を聞きました。仕事の傍ら、アーティストとしても日々、絵の制作に励んでいます。フリーランスで働く心構え、制作活動とのバランスの取り方、たくさんのTip(コツ、アドバイス)を語ってくれました。

メル氏:オリヴィエは、アニメーションを作る仕事をしているんだよね。

オリヴィエ:うん、モーション・グラフィックス・デザイナー(以下モーション・デザイナー)としてCMやジングルとして使われるアニメーション作っているよ。 最終的に納品するのは映像(ビデオ)なんだけれど、アニメーター、グラフィック・デザイナー、イラストレーター、動画編集、色々な役割が一度に必要とされる仕事なんだ。

メル氏:大変そう。どうしてモーション・デザイナー になったの?

オリヴィエ:6歳の時に映画「トイ・ストーリー」見て感激して、「おもちゃが生きている!」「おもちゃに命を与える人って誰?!」って思ったんだ。その時にアニメーターっていう仕事を意識し始めたことが今の職業に就くきっかけかな。

メル氏:モーション・デザインの仕事で、好きなことって何?

オリヴィエ:僕はアイデアを探すことが好きなんだ。プロジェクト全体に関わるコンセプトはもちろん、キャラクターがどうやって動くかとか(まばたき、手足の動かし方など。)、その気になれば、あらゆることで想像力を働かせることができるんだよ。
仕事によって僕の役割の幅も変わるけれど、アニメーションや編集だけを頼まれたようにするよりも、ストーリーボード、イラストレーション、アニメーション、全部、最初から最後まで自分でてきるプロジェクトの方がやり甲斐があって好きだな。

あと、僕は難しい依頼が来ると、やる気が出るんだ。最初は「どうしよう、自分にできるかな?」って、ちょっとパニックになるんだけど、、、そういうプロジェクトの方が、新しい方法やテクニックを学べて向上できる。

メル氏:オリヴィエはフリーランスだけれど、自分の働き方をどう思っている?

オリヴィエ:若い時はみんな、有名なデザイン事務所やクリエーションスタジオに入って最新の表現やプロジェクトに関わりたいと思っているものだけど、、、とにかく僕は自分の専門を生かせるなら何でもするんだ。変な仕事からも、クールなプロジェクトからも、何かしら学ぶことがある。

専門技術を生かして仕事ができれば、働き方は正社員でも契約社員何でもよかったんだ。
結局フリーランスで仕事をもらうことが大半だったから結果的にフリーランスになっただけかな。今は特に正社員になりたいとは思っていないよ。

メル氏:何で正社員になりたくないの?

オリヴィエ:フリーランスは自分で仕事、料金や時間の使い方を決められる。
特に時間。フリーランスの自分にとっては、お金を稼ぐのは自由な時間を買うことなんだ。僕らには有給休暇が無いから、「バカンスは貰うんじゃなくて、自分たちで買うもの。」なんだ。自由な時間を得るために、短い時間でなるべく多く稼ぐことが理想だね。

仕事を取る時の「三角形」っていうのがあって、「時間の有無」、「質の追求」、「お金」、その3つ揃っていることは現実ありえないから、その3つのうちから2つを選ばなければならない。この三角形を意識しながら自分の立ち位置を日々変えて行くんだ。

メル氏:フリーランスで仕事をして買った”自由な時間”は何に使うの?

オリヴィエ:仕事も大事だけど、実は僕が一番情熱を注いでいるのは絵を描くことなんだ。
モーション・デザイナーになるために18歳でデザインの学校へ入って、デッサンの勉強を始めたんだ。でも、もともと写実的に描くことは得意じゃなかった。同級生と比べても上手い方では無かったな。でも望む仕事に就く為には、苦手でもやるしかないと思って頑張ったんだ。
やる気と努力だね。ちょっとクサいけど!笑
そうしたらいつの間にか絵を描くのが苦手どころか、大好きになって、自分にとって一番大切なことになったんだよ。

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メル氏:オリヴィエの絵は、とても独特なスタイルを持っているけれど、仕事の基礎として学び始めた絵を描く技術が、いつから自分の世界観を表現する手段になったの?

オリヴィエ:実は、技術が足りないせいで実際に作る段階まで到達していなかっただけで、世界観はもともと頭にあったんだよね。
絵を描くことに出会って、技術が自分の書きたいものに追いついて来てからは、楽しくて常に絵を描いているよ。
描く時は自分を何も制限しせずに湧き出るアイデアを全部紙に描く。
自分自身じゃなくてイマジネーションが僕の手を動かして描いているんだ。まるでプリンターみたいに。

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メル氏:クライアントから色々と指定されるモーション・デザイナーとしての仕事と、自分のに絵を描くこと、両立するのは頭が混乱しない?

オリヴィエ:自分の中でははっきり分かれているんだ
仕事は他の人と作ったり、条件や制約があるからこそ新しいスタイルに挑戦できて刺激的だよ。
絵を描くことは、自分のルールだけに従って、自分の好きなものを好きな方法で好きなだけ時間をかけてする。

現時点では、 自分個人の制作を仕事に持ち込むことはしたくないんだ。自分の
表現は純粋に自分の表現にしておきたい。依頼者が居る時点で必然的に影響を受けるからね。
いつかは自分の表現活動で生活して行けるようになればいいけど。
そうしたら今度は自身の表現活動が仕事になるよね。

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メル氏:アーティストとして有名になりたいって言うこと?

オリヴィエ:有名になることに興味をもったことはないけれど、より多くの人と作品を通じたコミュニケーションが取れるなら素晴らしいことだと思う。表現活動は受け手が居ること前提だし、見た人が僕の作品をどう解釈するか、とても興味がある。
自分が何気なく描いた部分にも、 人によっては 興味を持って想像を膨らませてくれるんだ。そうして自分が描いた物語に、新しいバージョンができていく。どの物語も本物(オリジナル)だよ!

冒険、新しい世界、、、、話しているうちに描きたくなってきた!

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メル氏:いいねいいね!

オリヴィエ:それともうひとつ、自分には絵を描くことへの大きなモチーベーションがあるんだ。
自分の父親は、少し年齢が高くて現在91歳なんだ。ずっーと一緒に居られる訳じゃない。まず何より今居てくれることに感謝している。
自分が今まで描いた絵を、全部見ているのは父親だけなんだ。両親に、自分の創るものを出来る限り見てほしい。
それもあって、今は絵を描く事のほうが大切かな。 モーションデザインの仕事はいつになっても訓練できるから。

メル氏:仕事や絵を描くこと以外に好きなことはある?

オリヴィエ:食べることが好き!
それに、数年前からよく自分でも料理をするようになったんだ。
最近は絵を描くことと同じぐらいハマっているかもしれない。
食材や調味料の組み合わせや、調理方法を試すんだ。
料理もデザインも、繊細でクリエイティブな点がとても共通していると思う。

最近、Septeme(セプティム)って言う、パリで有名なレストランに行く機会があって、そこで出された料理を食べた時に、今まで苦手だと思っていた食材まで美味しく感じられて、「自分は食材が嫌いだったんじゃない!今まで自分に合った方法で食べていなかっただけなんだ!」と気づいたんだよ。

「正しい方法で向き合っていない」ことって、仕事や人間関係でもあるからね。とても学ぶことが多いんだよ。

制作も仕事も料理も、 コミュニケーション、分かち合うことが大事。何をやっていても本質は変わらない。

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メル氏:コミュニケーションと分かち合い。そんなオリヴィエも、他人に嫌な思いを持ったりすることあるの?

オリヴィエ:もちろんあるある!
でも、もし自分が誰かに嫉妬したら、まずは嫉妬していることを認めるんだ。自分勝手な振る舞いをしたり、他人を思い通りにしようとしたときはそれを認める。
何か問題が起こる時、他の誰かが悪い訳じゃない。結局自分の物事の捉え方が問題を生み出しているんだよ。

人それぞれ、人間関係の哲学は違うと思うけど、僕にはこの考え方が結構気に入っている。自分のことだけ考えていても、僕は幸せじゃないから。
シンプルではないけど、そんなに複雑なことでも無いと思うよ。
精神が安定すると大切なことに集中することができるしね。

メル氏:これからの目標は?

オリヴィエ:今やっているバンド・デシネ( *フランス式の、大人も読める芸術性の高い漫画。)のプロジェクトをやりきる!
僕は期限が決まっていない自分の為の仕事だと最後までやり切るのに結構苦労するんだけど、このプロジェクトには思入れがあって、今年中に形にしたいんだ。

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僕は今27歳だけど、27歳でも72歳でも自分の生き方は変わらない。何かつくりたければ時間はいつも足りないんだ、今しかない。
自分はちょっと怠け者のところがあるって分かってるから、前進できるように、いつも全部のことに思っているよりも少しプラスして努力するようにしているんだよ。
作品が沢山出来たら、そのうち展覧会をしたいと思っているんだ。

メル氏:ありがとう、オリヴィエ!作品を観るの、楽しみにしているね!

オリヴィエの作品、仕事が見られるリンク
ホームページ
http://olivierescher.com/monstrarium
Vimeo
https://vimeo.com/olivierescher
Instagram
https://www.instagram.com/olivieresch.er/

インタビュー後記
オリヴィエは、エネルギッシュですが、いつも他の人を気遣うことを忘れません。そして落ち着いていますが、変化を恐れません。
そんな彼に惹かれて、友人やクライアント、たくさんの人達が彼の周りに集まってくるのが、インタビューをしながらも伝わって来ました。
親しみやすい人物のオリヴィエですが、 彼の描く世界はちょっと尖っていて独特です。自身から湧き出る世界観をもっていることは、アーティストとして生きて行く時に何よりも大切です。それをしっかりと自覚している彼の人生は、今も未来も豊かだな、と眩(まぶ)しく思いました。
先へ先へ努力する、これからのオリヴィエの仕事や作品がとても楽しみです。ありがとう、オリヴィエ!Merci Beaucoup, Oliver!

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