見出し画像

佐藤勝利のすべて(千秋楽公演 配信視聴感想)

コントライブ「佐藤勝利のすべて」。
ずっと興味はあったし、会場チケットの申し込みもした。でも、外れた。
そうしたらなんだか意気消沈してしまって、配信ねえ…どうしようかな…という気持ちになっていた。
そんな私を動かしたのが、配信チケット購入期日の11/24朝に目に入った1つのポストだった。

「"佐藤勝利のすべて"であの脚本書く蓮見さん、勝利くんへの愛がかなり濃いな」

もともとほんのちょっとだけ勝利くんのオタクをしていたことのある現・ダウ90000のオタク。そして、蓮見さんの脚本や言葉選び、その感性にものすごく興味がある私だ。
このたった1つのポストが、直球ド真ん中、ドストライクにぶっ刺さった。

ふーん、そこまで言われちゃったら観るしかないじゃんね?
 
そうして私は、ギリギリの、滑り込みセーフの状態で「佐藤勝利のすべて」の配信チケットを購入するに至ったのである。


※目次について
各コントの正式名称がどこかで出ているかもしれないが、私の方では把握できなかったため、便宜上、ここでは全てのコントに内容が連想できる程度のそれっぽい名前をつけている。
これで配信映像のどこかに出ているとかだったらごめんなさい。ただただ私の目が節穴です。その辺は大目に見てもらえると嬉しい。というか、出典あれば出てたよ〜、これが正式みたいだよ〜って教えてほしい、ちゃんと知っておきたい。心優しいオタクの皆さん、どうかよろしくお願いします。


1.三国志

蓮見さんと勝利くんの2人コント。 
勝利くんが後輩、蓮見さんが先輩という形で、舞台は会社。
後輩(勝利くん)が残業しているところに、隣のデスクの先輩(蓮見さん)が入ってきて、デスクに忘れたと思しき読みかけの本を探すというもの。
三国志が題材となっているらしいその本について、後輩が「どんな本なんですか?」と聞くところからだんだんと歯車が狂っていくさまがおもしろかった。

後輩:困ったことがあったら言いましょうね、お互いに
先輩:俺は手伝わねえよ?
後輩:バレたか
先輩:なんだ、バレたかって

まずはじめに、歯車が狂う予兆として「後輩が変なヤツ」という提示があった。会話が掛け合いに変わった1発目が、たしかこんな感じだった気がする。

いきなり突飛な言動をするんじゃなくて、普通の動作で、「普通はこうじゃない?」みたいなところからほんのちょっとズレた言葉を使う。
てにをはくらいのほんのちょっとの違和感を皮切りに、普通からなめらかに外れていく感じの蓮見さんの脚本が、私はやっぱり大好きだなあと思った。

「どんな本」と聞きながら、見た目じゃなくて内容を聞き出そうとする、そういう後輩ってとっても変で。そこから「魏・呉・蜀の3つが戦う話」→「ギーゴと蜀でしょ、2つしかなくない?」「呉と蜀が組んだら誤植になっちゃうもんね」と派生させて、三国で言葉遊びしまくるのがすごくよかった。
そういえば、GIGOの話って前にハスマナでしてたよなあ。あの回のハスマナを経てこの話入れようってなったのかな。元ネタ的なものに思い当たるとなんかすごく嬉しい気持ちになるね。

2.香水

ここから男性ブランコのお二人が登場。登場人物は以下の通り。
・浦井さん:オーダーメイド香水店の店員
・蓮見さん:○○の匂いみたいっすね~を言いまくる客
・平井さん:別れた彼女の香りが忘れられず彼女の香りを再現した香水を作ろうとしている客
・勝利くん:彼女の分と自分の分の香水を作りに来た客
 
2本目のコントは、ダウ90000名物・修羅場コントのお時間。
ということで、惚れた腫れたの話になっているが、ダウ90000の公演と違い女子出演者がいないため、今回は1人の女の子が話題にのぼるのみとなっていた。
その女の子を取り合う形になるのが、平井さんと勝利くん。
まず前提として、平井さんの元カノが勝利くんの今カノである。
次に、平井さんは平井さんで存在を忘れられずに香りを再現しようとしていて、女の子は女の子で「この香水がなくなるまではあの人のこと忘れられないかも。だから使って」なんて言って勝利くんにこのお店で作った香水を使わせている。
つまり、「勝利くんが今使っている香水=平井さんが作りたい香水」なわけで、平井さんは元カノの今の彼氏の香水を欲しがっていたということになるのだ。文字にすると大変にややこしい。
まあ、勝利くんはこの香水をお店に来る前に捨ててきてしまったみたいなので、この香水はどう転んでも平井さんの手に渡ることはないのだけれど(さらにややこしい)。

このコントは基本、勝利くん VS 平井さんの図。
そこに蓮見さんと浦井さんがツッコミを入れていくという構図に見えた。
蓮見さんは最初変な客なのかなと思ったけど、最終的に平井さんをなだめる役になる。
先日まで公演の配信が行われていた「旅館じゃないんだからさ」の元カレ役(※)に近い雰囲気を感じた。

※「旅館じゃないんだからさ」はダウ90000の演劇公演。レンタルビデオ店が舞台となっており、蓮見さんはある店員の付き合いたての彼女の元彼という役どころだった。元カノのカードで借りた映画のDVDを返し忘れており、延滞料金が7万円にまで膨れ上がっていたが、「俺払いたくないんで返しません、コイツ(元カノ)のカードなんだからコイツが払えばいいでしょ」と言って延滞料金を踏み倒そうとする。そんな嫌な客だけど、他の人の修羅場に巻き込まれてしまい、後半はなだめる役に回ることが多くなっていた。

3.劇団員の講評

浦井さん、平井さん、勝利くんの劇団員3人が、先輩?の蓮見さんに練習の様子を見せ、講評してもらうというコント。

「小道具は使わない」と言いながら、小道具があると見立ててパントマイムみたいにネタが進んでいくというアクセントがすごくよかった。
見えないはずなのに定位置があって、ちゃんと形があって。5本のなかで1番ファンタジーなコントという印象だった。
小道具があるテイのパントマイム的動きを「筋書きありの台本」という軸に置くことで、小道具の有無による比較の図を作る。小道具やセットが出てきたあと、もう一度同じ流れを踏むことで、みるみるこちらの解像度が上がっていくのがおもしろかった。

あと、細かい話をするなら、「ジュラシックポリス」の前後がとにかく好きで。
3人が強盗するにあたり、それぞれどんな準備をしていたかが明らかになるみたいなところで、小気味よくアメリカンクラッカーを鳴らし始める平井さん。それによって次の展開の「何か聞こえるぞ!」が「アメリカンクラッカーだよ!さっきから鳴ってるだろずっと!」っていうミスリードのツッコミで引っ張られるのがおもしろすぎた。
そのあと話の本筋に入るけど、そこもやっぱりやっすい恐竜の鳴き声っていうボケになっていて。恐竜の鳴き声である苦し紛れの理由として「ジュラシックポリス」という言葉が生まれ、さらにロゴとかタイトルの出方にまで話が飛躍してしまうのがとにかく好きだった。
ここの勝利くん、浦井さんの言葉オウム返ししてたりして、ニコイチみたいになっててかわいかったな。


4.風呂待ち

男性陣3人(浦井さん、蓮見さん、勝利くん)がそれぞれ彼女の風呂上りを待っている。勝利くんの彼女が誕生日だから、0時ぴったりにサプライズしようかどうしようかみたいな話をしながら、そわそわと待っているところに、1人の女性(平井さん女装ver.)が現れ、「あんたたちの彼女、相当たまってるみたいよ。」と告げる。
彼女たちがどうやら風呂で愚痴りあっているらしい。でも、その女性からしたら誰の彼女かなんてわからない。
「自分かもしれない、いや自分じゃない」なんて思いながら、彼女たちの本心を聞き出そうとする、みたいなコント。

軽めにだけど匿名性”みたいなところに切り込んでいるのがちょっとリアリティ。
「気が利かない」みたいな内面的要素はある程度の情報量がないと特定できないけど、「眼鏡壊してやりたい」みたいな外面的要素があればすぐに特定できる。そして、最初に内面的要素を出されてしまうと、特定できたとき、”そういう人なんだ”って目で見てしまう。
なんかそういう、人間心理みたいなところを撫でられているようなコントだなと思った。ノンフィクションとフィクションの狭間を行くコント、大変に良。
あと、平井さんの女性キャラってほんとに雰囲気あるよなと思った。自分を捨てて女性になりきるよりも、地の平井さんが生きる形を取ってるのがおもしろい。1質問ごとにコーヒー牛乳を要求する女性、いそうだけど絶対にいないよね。大好き。



5.金持ちと貧乏

ラストの5本目はフードコートが舞台。主に勝利くんと蓮見さんの2人で進行するコントだった。

文字通り、本当にお金での対比だったのかもしれないし、"キラキラと日陰"みたいなものを定量的な表現で表したかったのかもしれない。
この題材が採用された本当の理由はわからないけど、これは蓮見さんが1番勝利くんに向けて書きたかった脚本のような気がした。

サウナで間違ってタオル捨てちゃう勝利くんの話とか、"殿を城下町に連れ出す感じ"みたいなお話とか、どうしてもそういうものを思い出しながら観てしまう。
以前のハスマナで「あの人、たぶんなんも知らないぜ?」と言いながら笑っていた蓮見さんの声が頭をよぎった。

こういうお話だと、「金持ちが貧乏をバカにする」「貧乏が金持ちを妬む」という構図が発生しやすいものだけど、このコントについては、"そんなことも知らないの?"というような場面はひとつもない。
「まあ、あなたにはわからないでしょうね」という貧乏のスタンスを、純粋な興味と関心で超えてくる金持ちの図がよかった。
"電気がつかない"という経験はしたことないし想像もつかないけど、映画のワンシーンについて、「それ観てどう思いました?」と言われたら「なんか心が温かくなった」と答えることができる。貧乏ってこんなに惨めなんだって話を聞いてもなお、「エモいことしたいんだ!」と言える。
貧乏の"エモい"を知らないだけで、それを感じることも愛でることもできる金持ち。もとい、自分の知らない世界のことも興味を持って、等身大に知ろうとしてくれるアイドル。
蓮見さんにとって、勝利くんはそんなふうに見えているのかなと思ったりした。

あと、税金の督促封筒の色が無視し続けると黄色→赤→紫に変わっていくっていう話で「冠位十二階の制度が適用されてる」って言うのが好きだった。 
金持ちと貧乏の話だからって階級の話しないでいいんだよ。しかも税金督促で1番ヤバいはずの紫が冠位十二階だと1番雅な色なのおもしろすぎるだろ。
これだから蓮見翔のオタクって辞められないんだよな。あの人、ほんとどういう脳みそしてるんだろう。カニバブル代表・恐るべし。
  

6.おわりに

佐藤勝利、蓮見翔、男性ブランコ。この3組の共通点は何か?ということを考えたとき、やっぱり「演劇」なんだろうなと思った。
お笑い好きが根底にあって、演劇をプロのレベルでできる人たち。そのベースがそろっているからこその見やすさが、「佐藤勝利のすべて」にはあったように思う。
でもたぶん、それだけではただの演劇、喜劇の上演になってしまっていたはずで。
「コントかお芝居か」の話じゃないけど、演劇というベースに脚本が書ける蓮見さん、コントに秀でた男ブラさん、アイドルかつセンターの勝利くんというそれぞれの強みが加わることで、ちゃんとコントになっていたんだなと感じた。
もちろんそこには橋本さんの力もある。橋本さんがまとめ役としていてくれることで、異業種交流の図なのにもかかわらず、全然しょっぱくない公演になっていたと思う。
ありがとう橋本さん。あなたが「佐藤勝利のすべて」に関わってくれていてよかったです。

「佐藤勝利のすべて」
この記事でも幾度となく出してきたタイトルだ。
これが千秋楽公演後、「グラタングミ」に化けたのもおもしろい。
あれだけ大々的に”佐藤勝利”をタイトルとして押し出しておきながら、芸人さんたちのなかでもまれながらもがくアイドルを、変な立て方しないでいてくれることが私は嬉しかった。

なんでかゲストである平井さんの好物2つで構成されてしまったユニット名。
「途中で名前変わるパターンもあるしさ」という前提で仮決定かもしれないユニット名。
でもそれが、佐藤勝利さんの魅力を正しく、まっすぐに映しているような気がする。
グラタングミであって、グラタン組である彼らが、次はどんな座組を見せてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

いいなと思ったら応援しよう!