楽器としてのパターンシーケンサー pioneerdj TORAIZ SQUID レビュー
最近、モジュラーシンセやマシンライブが普及しつつある中、DAWではなく、単体ハードウェアとしてのシーケンサーにも注目が集まり始めています。
当方が所有する機材で、PIONEERDJ TORAIZ SQUIDというものがあります。
なかなか面白い機材ではあるのですが、使っている人が少なく、あまり話題になっていないので、レビューしたいと思います。
パターンシーケンスを、リアルタイムに楽器のようにコントロールすることに特化している非常に独特なシーケンサーです。
ドラムマシンのシーケンサー部分をパターンシーケンサーとして徹底的に使いやすくして、リアルタイムのパターン演奏に特化させたシーケンサーです。
以下はアイデアの元になったと思わしき、モジュラーシンセ用シーケンサーのMAKENOISEのRENEです。
なお、一般的な808タイプのシーケンサーだとステップを横に16個並べた機材が多いです。
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この機種はいわゆるMPCスタイルの4x4正方形でシーケンスを作ったり演奏します。
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こっちのほうがドラムパターンとか見やすいかもと思います。
利点・欠点
利点
階層が浅くて操作しやすいuiux
触るとわかるのですが、他の機材にはあまりないボタンがたくさんついていて、階層を浅くしようとする工夫が感じられます。システム設定メニューなど深いところもあるのですが、基本演奏に関するところは浅い階層にあります。
専用のピッチつまみやGATE、 VELOCITYつまみで、シーケンスのエディットが簡単にできます。
同時押し機能もほぼパネルに書かれているので実にわかりやすいです。(SHIFTは白抜き、同時押しは線で繋がっているという記号性がわかりやすい)
他の機種にはないボタンが大量に専用で用意されています。よく見るとボタンそのものや刻印されている自照式のボタンが多用されてるので、コストもかなりかかっているのでは(壊れたら部品の替えがきついかも)
背面端子がどこにあるのかを上面にプリントされているので、手探りでも結線しやすいです。これって結構重要なんですよね。機材にもよりますが、ELEKTRONとKORG、PIONEERDJがそうだったような。
ランニング・ダイレクション機能が超簡単で楽しい
作ったシーケンスの進行方向を変えたり、スピードを変えたりどんどんリアルタイムに変化することができます。makenoiseのreneが元になっているようで、元の機材を触ったことがないのでわからないのですが、それにしても操作がしやすいです。他にも16分や8分で連打できる機能があり、付点付きボタンも専用で用意されているので、付点付き8分連打とか楽しいことができます。
パッドの感触がとても良い
感触とか、タッチした時の感度とかとても良いですね。説明しづらいのですが、簡単な感触でたたいたり触ったりできます。
なでるだけでパッドの設定をかえることができます。
ある意味弦楽器のように触れるパッドなのかも?と思いました。
二種類の和音機能がとても音楽的で良くて素晴らしい
説明が難しいのですが、シーケンスそのものをメロディアスな和音にする機能と、簡単に和音のコード構成を作ってボタン一個で出す機能(ハーモナイズ)の二種類があります。
メロディアスな和音を演奏するコード演奏機能がとても良くて、誰でも素晴らしく音楽的なフレーズを奏でることができます。自動作曲機能に近いかもしれません。ちなみにmc-707にも、コード演奏機能はあるんですが、ここまでいい感じになりません。
各トラックのMIDIチャンネルや出力先を選ぶのが超簡単
各トラックをどこに出力するか(midi端子1の何chか、cvgateの1番か)という設定が、トラックを選んでダイヤル回すだけの階層が浅いところに設置されているので、とても簡単です。出力先の設定が機材によっては奥深い階層にあって設定がわからん!音が出ない!ってこともあるのですよね。
※でも気を付けないと出力先がすぐ変わってしまって音が出なくなるので気を付けましょう。音が出ない原因の大半はたいていこれです。まさにSQUID(イカ)のように、色々な機材に触手を増やすのが簡単にできるのですね。
シャープな液晶の質感
これも現物見ないとわかりずらいんですが、この機材はシャープで視認性のいい小さな液晶が二つついているんですよね。あまり他の機材では見ないUIデザインです。慣れるとなかなか使いやすいです。
COPY ボタンとPASTEボタンの存在
個人的にはこの利点が非常に素晴らしいと思います。コピペって結構多用する機材は多いと思うのですが、独立してコピペボタンをつけている機材は珍しいですね。
undoとdeleteのやりやすさ、timewarp機能の存在
undoとdeleteも多用しますが、同時押しがパネルに書かれているのでわかりやすいです。
time warp機能という、直前の操作を記憶して、どんどんパターンにする機能が付いています。色々な演奏機能でガンガン変えたパターンをどんどん記憶することができます。
CVGATEの設定がかなり豊富 コンバーターとしても使えるのでは
DECKSAVERがある。何気にすごく重要です。これがあるとないでは機材の扱いが変わります。
USB出力もmidiやCVGATEと同様に扱える 私は試しておりませんが、DAWやiPadの音源なんかもシンセのように扱えるかもしれません。
SPEED MODULATIONやGROOVE BENDといった、タイミングをコントロールするつまみやベンドレバー
使いこなすとかなり面白いことが出来そうです。ただ、欠点もありますね…(後述)
以下はTORAIZ SQUIDの商品紹介からの引用です。
CV GATE
2 CV OUT (V/Oct, Hz/V)
CV output range: 1V, 2V, 5V, 10V, ±5V (V/Oct) / 8V (Hz/V)2 GATE OUT (V-Trigger, S-Trigger)
GATE output range: 5V, 10V (V-Trigger)
CLOCK
1 CLOCK IN (Step, 1, 2, 4, 24, 48ppqn, Gate)
1 CLOCK OUT (1, 2, 4, 24, 48ppqn)
DIN SYNC
1 DIN OUT (24, 48ppqn)
1 DIN SYNC IN / OUT (24, 48ppqn)
欠点
中途半端な大きさと機能
モジュラーシンセやグルボも多数増えた機材戦国時代?に単体シーケンサーを出したのは凄くてありがたいですが、音の出ない機材でこの値段と佇まいは買う人限られそうです。この大きさならもう少し機能があってもいいかも?というところがあります。重さ2kgあるので軽いといえば軽いですが、重いといえば重いです。(このほかに軽いACアダプターが必要です)
ただ、この大きさのおかげで操作性はとても気持ちよく操作できるのも事実です。MIDIはIN OUT THRU(もしくはout2)しかなくて、DIN SYNC IN OUTがついているのが変わっているところです。人によっては非常に重宝しそうですが、808の現物とか持っている人でないとあまり使わなそうです。シンクのコンバーターやシンク母機としてもTORAIZ SQUIDは使えそうですが、あまり知られていないのかもしれません。
後述しますが、モジュラーシンセとこの機材で全部賄うのは難しいので、MIDI音源をあくまでも中心にシステム組んだ方が良さそうです。
私は以前ElektronのDIGITONEと一緒にセットを組んでおりました。
古いマルチティンバー音源なんかと使うのも楽しそうです。
最近は純粋なMIDI音源というのも減っていて、シーケンサー付きの音源だけなのでMIDI音源を中心として使うのは今の仕様だと弱いかも、、と感じました。
ちなみにMIDI端子は出力が2つになります。もう一個、TRS-MIDIとかあると色々楽だったかもしれません。PIONEERDJとのDJ機材との連動機能がない。
私は最近のDJ機材にあまり詳しくないのですが、最近のPIONEERDJのDJ機材との連携機能も特にないようです。
あくまでもパターンシーケンサーであって普通のシーケンサーでないので、人は物凄く選ぶかもしれません。パターンチェインとかもないので一般的な曲を作るのは難しいかもしれません。
モジュラーシンセの入出力が少ない。cvgateが2系統しかない。
SYNC IN OUTはついているのですが、CV GATEは2系統しかありません。
ドラムトラックもなく、ドラム用のGATEOUTもありません。SQ64やBeatstep proなど実装している機材も多いのですが。
ドラム用のゲートアウトがあると、モジュラーシンセでドラムを鳴らしたい時のステップシーケンサーが省けて便利です。この機材とモジュラーシンセをメインに使うには、他にモジュラーシンセのCVシーケンサーとかモジュレーションソース、ステップシーケンサーがないと厳しいので、この機材はどちらかというとMIDI機材も多用する人に向いているかもしれません。
最近はUNO SYNTH PRO XのようにCVGATE出力をつけてシーケンサーとしても使える機材が多いので、SQUIDのCVGATE 2系統は少しものたりないかもしれません。
ドラムトラックがない
ドラム専用のトラックがありません。そのため、10trackをバスドラに、11trackをSDに、、という風にトラックをつぶしてドラム音を作るのが一般的なつくり方になるかもです。(同じトラックで作ることもできなくはないですが難しいかも)そのため、トラック数不足になるかもしれません。
各トラック全体の一括トランスポーズ(転調)がない
各トラック全体を一気にトランスポーズ(転調)したり、全体を一気にコントロールする機能ってほとんどなくて、各トラックごとに細かくエディットしたり変化させる機能が中心になっている気がします。
SPEED MODULATIONやGROOVE BENDの使いこなしの難しさ
タイムトラックのGROOVE感(前後にずらしたりとか)をコントロールできるつまみがついています。使い勝手は簡単なのですが、いい感じにするのがなかなか難しい上級者用の機能に思えます。私も色々試したみたのですが、なかなか難しいです。LFOを利用して、前後タイミングをずらすなどのシャッフルとは違った効果を出すことも可能なのですが。ただ、ハマるとかなり良いフレーズができるかもです。
大昔のグルボ、ヤマハのRS7000にもMIDIそのものを操作するつまみがついていた気がしますが、またそれとも違った感じです。
アップデートが止まっている
ドラムトラックはやはりあったほうが良いかもしれません。
上記のSPEED MODULATIONやGROOVE BENDですが、せっかくつまみやベンドレバーがついているのでピットベンドとかモジュレーションにも生かしてほしいところです。
まとめ
大量のMIDI機材を簡単にシーケンスしながら、リアルタイムにフレーズを生き物のように変化するためのシーケンサーとしてはとても良いと思います。利点のところで書いた、各トラックをどこに指定するのかというのがとてもやりやすいのですよね。
ただ、CVGATEが2系統しかないため、モジュラーシンセで主力機として使うにはちょっと弱いかなと。
あくまでもメインはMIDI機器ということになるのかもしれません。
ただ、他にない機能が多数搭載されている、唯一無二の機種なので私は手放さずに時々使うかもしれません。たまに触るとすごく楽しい機材ですね。
これもハマる人はハマる機種ですね。