好きだのわからん男の前では酔えない私が見事に記憶を飛ばした話
お互いに好きだの嫌いだのがわからない間柄の男に「好きだ」とか「愛してる」とか絶対言いたくないし、ましてや酔った姿なんぞ見せたくない。
酔い姿を見せることは「私はあなたに心許しています!」という意味を持ち、なんなら「あなたといると心底楽しいのですー!!」と間抜けな顔して叫ぶことと同じなのだ。
だから私は(明らかに友達ではない)男の前で酔えない。ピシッと背筋伸ばし、「別にあなたといても特別気分が上がるわけではないのよ」という具合に平然を保つ。友人だったら絶対に「イェーーイ最高!!!!ウチらの愛しか勝たん!!!ハイ乾杯!!!!!」となる量の酒を飲んでも絶対に酔わない(フリをする)
しかし、ついにやらかしてしまった。その日はそこまで飲んでたわけではないが、2人で行ったお店がとても良かったし、常連さんとも話が盛り上がったし、帰りのスーパーで買った肉を袋に入れず手持ちで持っていたら「たまちゃんおかしいよ恥ずかしいよ」と言われ私は機嫌が良くなってしまった。(私は男にドン引きされると興奮するキモい女だから)
そのあといつも通り私の家で飲み直してたら「ねぇ誕生日だったでしょ」とプレゼントを出されそこで頭がポポポポーンである。
なんかこういった「若い」プレゼントは久しぶりだったから一段とはしゃいでしまった。ここ数年、指のサイズを前もって聞かれたり、デートの途中で似合うからと言って服を買ってもらったりばかりだった。それもとても嬉しいのだが、ぎこちなさがなくスマート。つまりロマンティックさに欠ける。
この彼は私にばれないようにプレゼントを持ってきて、いつ渡そうかとソワソワしてたんだと思うと、だいぶ嬉しく、愛おしくなってしまった。
(もしかしたら私、この人にだらしないところを見せても良いのかも~、というか見てもらいたいかも~)と気が緩み、ゆかいな気分になり、そこから記憶がフライアウェイ。
「やばいこれ記憶飛ぶやつだごめんごめんでも嬉しくて」と繰り返し言いながら、しこたま酒を飲み(「ほろ酔いを麦焼酎で割る人初めて見た…」とドン引きされた気がする)(しかしドン引きされるともっとドン引きしてもらいたくなる)(そう、私は男にドン引きされると興奮するキモい女だから)
ひたすらじゃれて(なぜか「上体起こしするから見て!」と何回も上体起こしを披露した気もする)あとはぐーすかぴーと勝手に寝たのである(多分)
まあ、酔ってるうちは最高にハッピーだが、朝起きたらもう羞恥心にまみれ死にたくなるのが我々酒カス。先に起きていったん冷静になろう、冷静になろうと唱えるも心は落ち着かない。冷静になるべきなのは今の私ではなく、昨日の私だ。確実に。
それでも彼は何事もなかったかのようにいつもどーり起きて、いつもどーり私に接してきてくれた。私は絶対に昨日のあれやこれやのことを言われたくなかったので得意の「別にあなたといても特別気分が上がるわけではないのよ」顔でテーブルの片付けに勤しんでいると「ねぇそれ覚えてる?」って聞かれ赤面しつつ焦ってしまう。(っち、こいつ覚えていやがったか)と思いながら「えーなんだろ~サンタさん来たのかな~」とふざける25歳女。「そうだよサンタさん来たんだよ」と答える男の子。
アホで平和でひどく情けない。何が情けないって私である。しかし大体男女が四角い部屋にいたら情けないことが起きるのだ。私たちは情けないから繋がっていられるのだ。情けない人類史の上に私たちは生まれたのだ。
この酔っ払い隠ぺい未遂事件日からも少し時間がたった今、
そういえばピチカートファイブの『3月生まれ』に
「少し飲み過ぎて酔いつぶれても 明日の朝は優しく起こして」
っていうフレーズがあったなと思い出す。
彼なら今後、私がいくら酔いつぶれても明日の朝、何事もなかったかのように起こしてくれそうだな。と甘い心地になる。
(だが好きだの愛してるだのとはこれまた違う話なんだよ)