作品の話 #2 Frantic Theater
2nd singleとして配信した1曲「Frantic Theater」
無き友人、Vxnellope / 狂気と制作した最初で最後の曲です。
制作に至るまで
1st EP For Your Informationを制作していた2022年の10月頃、「今アルバム作ってるんだよね。一緒に何かできたらいいね~」と久しぶりに連絡を取ったことがきっかけで製作が決まりました。
少し前から彼がHipHopをやっていることは知っていて、類まれな彼のワードセンスと声に僕の音楽が合わされば凄いものができるのではと考え、アルバムに入れようと考えました。
彼も気持ちは同じで、一緒に曲を作り上げることに賛同してくれました。
彼とは8年くらいの付き合いがあり、一緒に遊びに行く仲だったり音楽の趣味やプロレスが好きという共通点など様々なところで意気投合できる存在でした。
だからなのか制作している時には特に意見がすれ違うなどということはなく、スムーズに事が進んでいました。
もうひとつのきっかけ
曲を作るきっかけになったのが彼が活動している様子をYouTubeで見かけ、彼の訴えかけるような歌詞と歌い方が印象に残りました。
「彼なら僕の表現しようとしている世界観を描くことができる」
そう思い、彼の歌声に馴染む曲を制作しました。
こちらがその動画。
「旅路」という曲で、彼の作品では一番好きな曲です。
2:22~からの上り方が印象的で、Frantic Theaterでは後半にてその声の力強さを発揮してもらいました。
曲の世界観とテーマ
この曲を作ろうと思ったきっかけは彼との何気ない会話でしたが、曲のテーマを決めたきっかけは1st EPでもテーマにしている都会の情景です。
煌びやかなイメージの東京とは裏腹に浮き彫りになる孤独、蔓延る売春、それらをめぐる金のやり取り、そして巻き込まれた人間、関与しても何食わぬ顔で普通の暮らしを装う人間。
これらを「都会で日夜繰り返される行為は、まるで狂気の演劇」だと定義し制作しました。
詳しくは明言しませんが、実際僕も被害を受けた側の人間ですので、私怨を含んだ内容でもあります。
制作の話
…といったテーマを基に制作を始めました。
サンプリングを入れてHipHopらしく、でもオリジナリティは入れたいと考えて各所にボコーダーを入れることにしました。
僕は歌が下手なので、そのままの歌声を入れることは考えておらず1st singleのmeismで使用したボコーダーを入れてみようと思いついたわけです。
あまりボコーダーを使ったHipHopも普及していないとも思ったので…
曲の制作自体は2週間くらいで完成しました。
時間をかけないでその時のフィーリングで進めた方がいい曲を制作できるものですね。
僕はピアノが本業(?)なので、ピアノを入れることは必須。
ピアノで彼の歌を支え、ボコーダーで一緒に曲も歌う。
出来る限りキーボードプレイヤーとしても彼と作り上げたい気持ちで曲を組み上げていきました。
改めて聞くと、所々で入るエレピ等がなかなかいい音作りができてるのでなないかなぁと思います。
彼からも「お~!いいじゃ~ん!」とベタベタにお褒めの言葉を頂いてました。
ありがたや。
HipHopのパートでは3verse~4verseを力強く訴えかけるように表現してほしいとお願いしました。
お願いした通り、がなる様な声でRecすることができ、このパートがFrantic Theaterで一番の印象的な部分になっていると感じます。
歌詞の話
歌詞はボコーダー部分を僕が、HipHopのバースを彼が書きました。
先述したテーマで作りたいと伝え、彼はこれ以上ないくらいピッタリなバースを書いてきてくれました。
レコーディング直前にバースを変えた場所があり、それが2verseの
「少女が飲み込むピル 加害者飲み込むビール」というバース。
この部分は表現力、韻の踏み方、フロー、どれをとっても完璧なバースに出来上がっているなと感じています。
裏話
こんな素晴らしい作品ですが、実は配信前の審査に引っかかっており…
1度目はサンプリングの著作権。
2度目はジャケ写のデザイン。
3度目は歌詞の露骨な表現。
3度も配信目前にして審査が通らなかった曲でもあります。
歌詞は暴力的な表現を含むというチェックを入れればどうにかなるので良かったんですが、他の2つは差し替えが必須でしたので審査を通れるよう試行錯誤しました。おかげで配信が3週間遅れました。
そして配信
そんなことがありながら、無事審査を通り抜けることに成功。
2023年1月21日に配信を開始しました。
0時になった瞬間に全世界へ配信された作品を改めて聞き、二人で騒いでたのを覚えています。
彼と一緒に「今後二人で曲を作っていこう」と話をしたのはこの瞬間でした。
残された歌と声
配信が開始されてから1ヶ月半ほどたった日、彼は帰らぬ人となりました。
飲み会帰りに訃報を聞き、一気に酔いが覚めたのを今でも覚えています。
彼と僕の最初で最後の作品、そして彼自身の最後の作品となってしまいました。
「そのうちライブでやろう。こっちのライブにさ、よこさん呼ぶよ」という約束は叶わぬものになってしまい、一人残された感覚だけが続きました。
それでも彼とやっていこうと決意したことを止めるわけにはいかない。
そう考え、審査に通らず配信できなかったFrantic Theater(first edition.)を2023年5月23日に予定通り配信。
その後2023年9月3日に六本木で行った初のソロライブでも披露。
first editionと現在配信されているものを合わせたバージョンで演奏しました。
ステージには彼が制作した服を連れていき、僕のステージ衣装にも彼の着ていたコートを取り入れました。
彼は居ないけれども、彼の居るステージを作りたいと考えてライブを行いました。
おわりに
一緒に活動するということは叶わぬ夢にはなりましたが、彼の分まで表現することを辞めない。
そう決めて、現在は未完成だった作品の制作を続けています。
きっと彼なら「お~!いいじゃ~ん!」とか言いながらベタベタに褒めてくれるはず。
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