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バレーボール界を湧かし続けた小さな巨人 ~堀込奈央~

韓国リーグへの挑戦がまことしやかに囁かれる中、5/14のヴィクトリーナ姫路デーで、現役引退が発表された。誰しもがまだ現役を続行すると思っていた最中、コートを去る決断をしたのである。

バレーボールファンの間では、彼女が高校3年生の時、3冠を獲得したのは、記憶に新しい出来事ではないだろうか。
学生時代から華々しい成績を残し、素晴らしいバレーボール人生を歩んできた彼女だが、ヴィクトリーナ姫路入団後は苦悩の時代があったー。

鮮烈なデビューを飾った内定時代

2019年1月、内定選手としてチームに初めて合流した彼女は、どこかあどけなさが残っていた。

2019年1月 撮影

2019年1月20日、V.LEAGUE DIVISION2 WOMEN レギュラーラウンド。トヨタ自動車ヴァルキューレ戦で、鮮烈なデビューを飾った。
1セット目からピンチサーバーとして出場。3セットで計11本のサーブを放ち、1本のサービスエースを奪うという内定選手らしからぬ堂々とした活躍を魅せた。
(サーブ効果率が20.5と、ちょっと良く分からないくらいエグい数字も残している。参考:https://www.vleague.jp/form/b/24942)

その試合を皮切りに、2018-19シーズンは、2枚替えのセッターとして出場することが増えた。
内定選手のセッターは、かなり難しい立ち位置でプレーを強いられる。
チームに合流して日が浅いので、ミドルブロッカー(MB)始め、アタッカー陣とコンビを合わす時間も少ないため、セッター自身の技量が試されるからだ。
だがしかし、彼女は難なくアタッカーが打ちやすいトスを供給していく。その姿はまさに“センス”そのものだった。

確かに、センスの一言で片付けてしまうのは失礼かもしれない。もちろん、彼女の努力の成果であることは間違いないであろう。だが、彼女が上げるトスは思わず「センスだ」と言いたくなるくらい、綺麗な放物線を描いていた。

「勝ち」が遠かった2019-20シーズン

2018-19シーズンで見事V2優勝を果たした姫路は、2019-20シーズンよりV1リーグへと足を踏み入れた。
チーム・ファンが目標としていた舞台に立つことができ、全員がどこか胸を躍らせていた部分があったのかもしれない。
しかし、その期待はすぐに打ち砕かれる。
レギュラーラウンド全21試合のうち、わずか3勝しか出来なかったのだー。

そのシーズン、正セッターとして1人で上げ切ったのが、堀込奈央選手である。彼女と同じ2019年度の内定選手である櫻井美樹選手と2枚体制でV1に挑む準備をしていた最中、櫻井選手が負傷により戦線離脱を余儀なくされた。
1人で全試合を上げ切る大変さ・プレッシャー。とてつもないものが彼女にのしかかっていた。

特にV1は、コートに立っている6人全員が相手を上回るパフォーマンスをしないと勝てない舞台だ。当然「穴」があると、そこを狙ってくる。
抜群のバレーボールセンスを持ち合わせながらも、158cmのセッターということもあり、前衛の時はブロックが1枚低くなる。相手スパイカーがそこを狙ってくるのに対して、対策が出来ず、敗れる試合が多かった。

しかし、そんな彼女を活かしたのは、当時監督として指揮を取っていた竹下佳江氏だ。彼女が前衛時のブロックシステムを構築し、開幕7戦目でV1初勝利を挙げた。長い長いトンネルをやっと抜けたの時の彼女の表情は、どこか自信に満ち溢れていた。


背水の陣 〜チャレンジ4・入替戦〜

ヴィクトリーナ姫路は、3勝18敗と最下位でレギュラーラウンドを終えた。姫路はプレーオフをかけたファイナル8ではなく、入替戦をかけたチャレンジ4に回ることになった。

舞台は山口県宇部市ー。
初戦を落としたヴィクトリーナ姫路は、そこから巻き返せず、0勝3敗で入替戦行きが決まった。
現地で応援していて感じたが、控え選手が応援団席で一緒に応援したり、関西から応援団が駆けつけたりと、この3日間にチームが賭けていたのをヒシヒシと感じた。試合後、彼女はTwitterにこう綴っている。

どこのチームの音響を使った応援よりも迫力があってパワーになりました。
なのに、こういう結果になってしまって申し訳ない気持ちと本当に悔しい気持ちでいっぱいです。
1ヶ月後に向けて、下は向かずに、前だけ向いて頑張ります。

Twitter(@nao_horry)より

そして、迎えた入替戦。V1昇格後、間違いなく1番の正念場だったであろう。相手は、V2時代に唯一黒星を喫した群馬銀行グリーンウィングス。

大会1日目、堀込のトスワークが光る。
貞包・松本・イブナのサイド陣には満遍なくトスを配分し、攻撃の軸として、吉岡・佐々木をはじめとしたミドル陣を使う。サイドの平均打数は33本、その日決定率の高かった貞包にトスを寄せすぎず、トスを散らした。また吉岡が前衛時は、Aパスでなくとも積極的にミドルを使った。相手ブロックも対応できず、吉岡自身も8/12本、決定率66.7%と高い数字を出している。
まさに選手一人一人の特徴を把握し、その選手たちの最大値を引き出すトスワークだった。

大会2日目、1セット取れば残留が決まる中、1セット目から息を飲む展開が続く。
前日奮闘した貞包の決定率が思うように上がらない。イブナ・松本の両選手も苦戦する中、彼女は内定選手の佐々木を軸として攻撃を組み立てた。
佐々木の打数は、前日と比べ、6→21本と増加。佐々木の奮闘もあり、1セット目を31-29の接戦で制す。
そこからは姫路のリズムだった。そして、そのリズムを作っていたのは、間違いなく彼女のトスワークだった。

堀込奈央といえば、やはりこのトスではないだろうか。攻撃的なサーブがトレンドの近代バレーにおいては、レシーブが崩されることが多く、ミドルが使えないシーンが多い。しかし、コンビバレーにおけるミドルの重要性を知っていた(だろう)彼女は、どんな位置からでもミドルを使う。ミドルを軸とした攻撃を組み立てるのだ。
これが、158cmという決して高くない身長で戦えたひとつの理由ではないだろうか。

入替戦勝利後

セッターからリベロへ。プロ4年目の挑戦

彼女の転換期とも言えるのは、やはり2022-23シーズンではないだろうか。このシーズンより、セッターではなくリベロとして戦うことを決意した。後に海外挑戦のためだと発言しているが、このポジション転向はバレーボールファンをざわつかせた。
彼女の持ち味として、センス抜群のトスワークはもちろん、素早い反応でどんなボールでも拾うディグがあった。彼女のディグで助けられたシーンも多かった。その印象が強くあったので、「リベロでもチームの主力として活躍してくれる。」と、ファンの間ではそんな期待もあったのではないだろうか。
しかし、現実はそう甘くなかったー。

サマーリーグ、近畿総合ではリベロとして出番があったものの、リーグ戦でのリベロとしての出番はゼロ。ピンチサーバーやレシーバーとして出場することが多かった。

2022年9月 近畿総合にて

今まではほぼ全試合ベンチ入りしていたが、このシーズンはわずか15試合。彼女のリベロとしての挑戦は、なかなか思い通りにはいかなかった。

しかし、彼女の現役最後の試合となった黒鷲旗。ここで今までの彼女の努力が実を結ぶ。
大会4日目の岡山シーガルズ戦。拮抗した試合展開が続く中、落とすと負けが決まる、後がない3セット目にピンチサーバーとして登場。

2023年5月 撮影

強烈なサーブが何本も決まり、流れを引き寄せ、このセットをモノにしたのだ。試合には敗れたものの、デビュー戦の時のように、バレーボールファンに強烈な印象を残し、コートを後にした。

堀込奈央がいたから、今の姫路がある

ここまで駆け足で彼女の入団後から今までを綴ってきた。正直、まだ書きたいことはたくさんある。(またの機会に書いてみようかな)
ただ一つ言えることは、堀込奈央という選手がいたから、今のヴィクトリーナ姫路があるのは間違いない。挑戦の連続だった4年間。決して楽な道ではなかったはずだが、彼女はチームのために戦い続けてくれた。

彼女が入団してから、監督が3回も代わっている。(竹下佳江氏、中谷宏大氏、安保澄氏)
監督が変わればチームもガラッと代わる。しかし、彼女はどの監督の元でも必要とされた。そんな選手は、なかなかいない。

苦しい時も、ファンにはとびっきりの笑顔を見せてくれた彼女。この先も持ち前の明るさで活躍してくれるだろう。

2023年5月 撮影

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