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国道229号の旧道を行く【2】
前回の記事では、国道229号の起点側(小樽市)から旧道を進み、滝ノ間トンネルを抜けた先にある豊浜町までやって来ました。
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2020年6月7日撮影
ここからは国道229号の中でも特に重要な区間と言える。
それは1996年に発生した豊浜トンネル岩盤崩落事故(旧道)の現場がこの旧旧道の先にあるという事と、その旧道および旧旧道区間が200m級の断崖に阻まれた入り江にあり、陸地からの接近が事実上不可能であるからだ。
ドローンを駆使して旧道を撮影する私でもここの撮影は苦労した。
空を自在に飛び回れるドローンだが、操縦に不可欠な電波が200m級の断崖に遮断される為、岬を回り込んで撮影する事が不可能だったからである。
そこで今回は裏技とも言えるアイテムを持参して撮影に挑むことにした。
と…その前に、ここまでの区間で1つ紹介しなければいけないトンネルがあるので、この続きはその後に・・・。
まずはこちらの地形図をご覧ください。
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緑が仮定県道西海岸線で青が現在の国道229号
こちらは前回の記事でも出て来た仮定県道西海岸線を示した地形図です。
国道229号の祖先とも言える道ですが、山奥を通るそのルート上になんとトンネルの記号があるんです。場所は滝の澗トンネル(現道)のだいぶ山側に位置しており、存在自体を知らない人も多いんじゃないでしょうか。
トンネルマニアを自負する私も近年初めて知りました…
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調べてみると1957(昭和32)年の地形図にも記載されている。
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しかし、現在の地形図では道こそあるみたいだが、トンネル記号が無い。
かなり古いトンネルだから、埋没もしくは埋め戻されたとかでトンネル記号を記載しなかったんだろうか?
これは現地に行って確かめるしかない。
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2024年5月3日撮影(以下同日)
滝の澗トンネルの起点側に現道の下を通る道があるので、そこから潮見町の集落を抜けて旧旧道(仮定県道西海岸線)を目指す。
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思ってた以上に道跡がしっかり残っていた。
それは地主さんが分教場(小学校)跡地で畑を耕してるため定期的に車で行き来している事と、送電線の管理でもたまに通行があるからだった。
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しかしそれも手前の一部だけであり、奥に行けば行くほど道は荒れていた。
5月3日でこれだから真夏だと藪漕ぎが必要になる箇所もありそうだ。
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途中で道から逸れてしまうミスもあったが、1時間ほどで湯内隧道に到着。
自然に流れ込んだ土砂で半分ほど坑口が埋まっていたが、トンネルとしての機能は保たれていた。
湯内隧道(1908年竣工 / 延長116m)
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終点側も半分ほど埋まっていたが、人が通り抜ける分には問題なかった。
内部の状態は比較的良く、側面のモルタルが一部剥離してる箇所はあったものの、崩壊や変状は見受けられなかった。
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トンネルが目的だったのでここで引き返しましたが、この様子だと沖町まで歩いて行けるほどの道は残ってそうですね。
この時に撮影した動画はこちら
では、国道229号の豊浜町に戻ります。
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2020年6月7日撮影(以下同日)
現在の豊浜トンネルは、岩盤崩落事故が起きた旧豊浜トンネル(二代目)を途中から分岐させて既存のセタカムイトンネルと連結した三代目の豊浜トンネルであり、崩落現場の先に旧道が存在します。ちょっとややこしいですが、旧豊浜トンネルが完成するまで使われていた初代の豊浜トンネルが旧旧道という扱いになる訳です。
この区間の推移が分かる様に、3世代のトンネルが現役だった頃の地形図を並べたので順にご覧ください。(現在地は全て同じ)
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旧旧)豊浜トンネル(1964年竣工/延長746m)
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旧)豊浜トンネル(1984年竣工/延長1,086m)
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現)豊浜トンネル(2000年竣工/延長2,228m)
ご覧頂いた通り、この区間の旧道と旧旧道は、切り立った断崖である蛸穴ノ岬とセタカムイ岩に阻まれており、陸上からの接近や目視は不可能な状況となっています。そこを見て行きます。
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旧旧)豊浜トンネル(1964年竣工 / 延長746m)
あれ!?と思った人は鋭い観察眼をお持ちですね。
余市~古平間の国道229号(海岸道路)が開通したのは1958年なのに、それから6年後に竣工した事になってるのは何故か?
実はこの初代豊浜トンネルがある位置は、もともと4本の短いトンネルが連続する区間でしたが、1960(昭和35)年3月28日午前10時頃に見晴トンネル付近で崖崩れが発生。
明かり区間においては、度々小規模な落石や降雪による異常路面が問題視されていた事もあり、これを契機に全てのトンネルを連結する改良工事が施工された。
この様な経緯で初代の豊浜トンネルが1964年に完成しました。
※連結される事になった4本のトンネルは、1948(昭和23)年に工事着工となり、1951(昭和26)年に供用開始となっていた。
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しかし改良工事が施されとはいえ、トンネル内でカーブが連続する特異な線形が故に交通事故も多かったようで、小樽開発建設部が監修した「後志の国道」ではその事についてふれられている。
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改良工事は1960~1964年に行われたが1957(昭和32)年竣工となっていた
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2021年9月9日撮影
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2021年9月9日撮影
さて、次の湯内トンネルと蛸穴トンネルの連結部分?に行きたいが、冒頭でも書いた通り地上から行く事もドローンでの接近も不可能な場所。
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そこで用意した裏技アイテムがこちら
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2021年9月2日撮影
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そして無事に到着
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2021年9月2日撮影(以下同日)
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実に素晴らしい景色ですね。
ここは竜仙洞と呼ばれる自然に出来た海蝕洞で、湯内トンネルを抜けると20mほどの鋭角なカーブがあり、すぐさま蛸穴トンネルに入るという全国的に見ても非常に稀な構造をしていました。
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これらのトンネルは、セタカムイ岩がある沖村(現:沖町)を起点として1948(昭和23)年に海岸道路建設が始まり、3年後の1951(昭和26)年に湯内村(現:豊浜町)までが完成。これにより、古平町から豊浜町までは海岸道路を通り、そこから先は山側ルート(仮定県道西海岸線)に接続して余市町に至る形で段階的に開通させました。
※ややこしくなるので山側ルートは一貫して仮定県道西海岸線で表記
▼路線名の推移
仮定県道西海岸線(1907-1920)
準地方費道32号倶知安入舸線(1920-1957)
地方費道50号入舸余市線(1938-1957)
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供用開始(1951年)となった当初は、石積みされた護岸の上に駒止めブロックが並べられていた程度で、この明かり区間から海を見る事は可能だったようですが、先ほど述べた通り1960年に起きた崖崩れ(人的被害は無し)を受け、ここにコンクリート製の防波壁のようなものが設置されました。
ここを開通当初から知る方にお話しを聞く機会があり、その方の証言によると、旧セタカムイトンネルの覆道と似た明かり窓のある壁だったとの事でした。通常の覆道の様な構造ではなく、海側を塞ぐだけの壁だけだったようです。確かに言われてみると、道路の海側に何かの支柱らしき痕跡はありますが、天井や反対車線のほうには何の痕跡もありませんね。
覆道の半洞門みたいな構造だったんでしょうか?
当時の写真があれば見てみたいものです・・・
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こんな感じの壁で覆われていたんでしょうかね・・・
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そんな経緯で色々な資料を漁ってるうちに、蛸穴トンネルから見晴トンネルを撮影したと思われる写真を発見しました。
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よく観察すると見晴トンネルにも明かり窓がありますね。
更に道路が濡れてる(雨の可能性もある)ので、頻繁に波を被ってたのかもしれません。海面と道路の高低差があまり無いですし・・・
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こちらをよく見てみると、せり出した岩体の右側に明かり窓を塞いだ痕跡がありますね。1960年に崖崩れが起きた場所というのは、そのちょうど上辺りにあるピラミッドのような補強部分でしょうか。
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今回はここまでとなります。
次回は、次に位置するチャラセナイトンネルからスタート。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回の区間を特集した動画はこちら