【Loretta】へっぽこ人妻最強伝説
【どういうゲームか?】
時は1947年、いまよりもずっと女性の地位が低かったアメリカにて、ロレッタという女性が保険金目当てで夫の殺害を企てるサイコスリラーADV。
システムはポイントクリック+テキストアドベンチャーといった感じ。ロレッタの主観で語られる文章は独特の感性と比喩に満ちており、時系列を錯誤させる場面転換や、カットシーンの見せ方などが非常に文学的で、あらすじから読み解けないほど面白く、いつの間にか全ての結末を見ていた。
プレイ時間は3.5時間程度。全実績もやろうかと思ったが 初めからを選んだ瞬間チャプターとエンディングリストがリセットされたので一旦終わる。
とにかく面白かったため、おすすめレビューと感想がセットになった記事ができた。途中までは致命的なネタバレもなく読み進められるはずなので どうか購入の参考にしてほしい。
(一応2周目を高難易度モードとして楽しめる設計にはなっている)
【ここが面白い!】
もちろん演出やテキストが良いのがアドベンチャーの大前提なのだが、際立って面白い!と感じたのは以下の3要素
・誰を殺すか/生かすかで変化するシナリオ
・衝動殺人を繰り返す主人公
・物語の分岐の外にあるミステリー
これらを順に見ていきたい。
(1) 誰を殺すか/生かすかで変化するシナリオ
夫の殺害は、物語の始まりでしかない。30000ドルの保険金は、単純な死亡保険金ではなく、夫の職場に関わっているようで、単に行方不明の事実だけでは受け取ることが出来ない。よってロレッタは金を手に入れるため 夫の遺留品を手掛かりにあちこち奔走することになる…のだが、彼女の問題解決手段はほぼ殺人である。
通常モードにおいて、殺意のある選択肢は赤文字で表示されているため、選択肢の意味が分からないせいで人が死ぬことはない=白い選択肢を選んでいる限り殺害に及ぶことはないので安心してほしい。
赤選択肢を選んだ場合でも 殺害しようとして即失敗したり、殺害することによって展開が詰むこともあるが、誤ったルートの行き先を見せた後に 詰む前まで戻してくれる親切なゲームになっている。
安心して赤選択肢を選び、ロレッタの共犯となって 障害となる人物を殺害しよう。
(2) 衝動殺人を繰り返す主人公
このゲームの最も魅力的な点として、主人公のロレッタはプレイヤーの想像の3倍くらい殺意が高く、手当たり次第に人を殺そうとする点が挙げられる。
なぜこの人を殺害する必要が…?という人物相手にもバンバン殺意を向けていく。そして短絡的な殺害計画は当然すぐバレる。気付くとプレイヤーの操作外で凶器を構えているし、血の付いた凶器を平然と放置するし、周囲の目を気にせず死体を処分しようとする。家に来た、特にロレッタを疑ってない警官を殺してどうする気なんだよ。
本作はサイコスリラーで、恐怖を煽るような描写、ロレッタを操作するのが怖くなるようなパートもある。しかしそれ以上にロレッタの狂戦士っぷりが魅力的で、時にホラーギャグのような味わいを醸し出している。
(3) 物語の分岐の外にあるミステリー
夫の死をきっかけに明らかになっていくミステリーは、ほとんど分岐には絡まない(なぜなら、ロレッタには30000ドルしか見えてないから)。しかしこの分岐に絡まないミステリーがこれまた面白い。※
大金を手に入れるために夫の原稿が必要だ。家にある金庫を開ける必要がある。その過程で夫が怪しい人物と連絡を取っていたことが明らかになる。
夫の親から譲り受けた家に存在する開かずのドア、ロレッタらの住む畑が原因とされる土壌汚染、連絡してはいけない謎の電話番号…大金以外には目もくれず邁進するロレッタを尻目に 田舎の農園を舞台とした謎がプレイヤーを引き付ける。
果たしてロレッタはすべての障害を乗り越え、大金を手にし幸せな人生を手に入れることができるのか?本当にロレッタは短気な殺人鬼なのか?金のことしか考えてないのか?へっぽこ人妻は最強なのか?この記事は誇張しているのではないか?
ぜひとも君の目で確かめてほしい。
あとミニゲームがたまに難しい。
※※※以下内容に踏み込んだ感想
ロレッタは狂戦士要素を除いても変な女
女性蔑視の時代背景を色濃く描くが嫌味な感じはない。例えば銀行に融資を断られ「次は夫と来てください」と言われるシーン、身分を鳥類学者と言う選択肢があるのだが…。
「聡明な女性が、時代性から結婚を契機に学者の夢を諦めたのか」と思わせておいて、次のシーンで 別に元鳥類学者ではないし、鳥って疫病運ぶから嫌だよね~などと言い出しプレイヤーを裏切ってくるためかなり面白い。
そういう意味では、短絡的な殺人により当然追い詰められ「自分には思ったより能力がなかった」と独白し自殺する結末が好きだ。
夫は浮気に誘拐殺人とろくでもないのだが、ロレッタがおかしいのもまた事実であるため、双方の視点で説明に齟齬がある事象について解釈に迷う部分がある。
例えば子供の死因について、夫は妻が殺害したと言いふらし、ロレッタは夫に睡眠薬を仕込まれたせいだと主張する。ロレッタの言い分はいかにも被害妄想による事実の誤認に見えるが、夫の言い分もいかにも「他の女と結婚するために息子が邪魔になったので計画的に処分し、浮気相手には妻の悪口を吹き込む」ムーブに見える。
どちらの解釈を採用すべきか、「夫に謀られた」が割とロレッタが正気なルートで分かる情報であること、ロレッタが子を殺害する理由がない一方で夫にはあることから夫が関与したと捉えているが、でもロレッタは別に殺す意味がなくても殺すからな…。
(ロレッタが25ドルの調理機器を欲しがったが全く料理をしなかった、という情報が結構好き)
ジュエリーボックスに隠されていた診断書も、「ロレッタが不安定である根拠」と見ることも出来れば、時代性ゆえの偏見で「女性特有のヒステリー」の文言で片付けられた適当な診断と見ることも出来る。
回想を見る限り、ロレッタは元から良い妻・良い人間では無かったかもしれないが、夫は元妻と子供を捨ててロレッタを選んだわけだし、結婚生活早々浮気をしていることが伺える。全く無辜の存在ではないのだ。
客観的に見たロレッタを描くシーンは何度かあり、保安官の視点などはかなり参考にできるのだが、ロレッタの異常性を指摘する夫の姉の視点などは、どうも「冷静な第三者の視点」と純粋に判断することは難しい。
ロレッタはシンシアとほぼ面識がないようだったので、ウォルターからの又聞きによる判断だと思うのだが、どんなにロレッタの頭がおかしかったとしてもこんなこと書かないだろ。
被害者であるウォルターがとにかく信頼できない人物であることがこの作品の解釈を難しくさせていると思う。
ミニゲームがところどころ難しい。章冒頭のパズルは一度解けばそれきりなのだが、物語に組み込まれているミニゲームはそうはいかない。謎の男に捕らえられた後のピッキングは、都合3回該当ルートを通り何度もクリアしているのに解法が分かっておらず、かなり厳しかった。
銃を持っている相手に果敢に挑むロレッタは、おかしい女かもしれないが、決して腰抜けの人妻などではなく真の戦士である。
Subway Midnightもそうだったのだが、このフォントをバーンと出すのは面白いからやめてほしい。