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ゲーミング叙述トリック

タコピーの原罪という漫画作品が盛り上がっている

毎週すごい熱量の考察が出てくるため、目に入る文章を追っているだけでも楽しい。ハイパーインフレーションも好き(好きジャンル:偽札造り)なため、金曜0時がお楽しみタイムになっている。

さて、溢れる有象無象の考察に関わる話題として、「信頼できない語り手」を目にした。論旨は主に良し悪しについてだが、タコピーで初めて漫画における「信頼できない語り手」を意識した者としては、小説の手法でいうところの叙述トリックを、漫画で表現するとこういう感じになるのかな?と感じた。
主観によって物の見え方は異なるし、ましてや小学生の視点には強烈なバイアスがかかるだろう。その上で序盤から(しずかちゃんが輝いて見える等)主観に依るフィルターが表現されていたため、個人的にはすんなりと飲み込めた。
一方でこの「信頼できない語り手」の誠実さ/不誠実さに関するテキストを読んで、納得/共感したりもした。
漫画というプラットフォーム上で、絵のみで読み取ってもらおうとする場合、どのくらい説明するか、どの程度布石を打つかのバランスは難しそうである。

ゲームと「信頼できない語り手」

漫画でも小説でもなく、私の大好きなコンテンツである、ゲームにおける「信頼できない語り手」の話をしたい。

元々が小説畑発祥の概念であるため、サウンドノベル部門では(精神的な問題とセットで)よく見る手法になっている。かまいたちの夜2 妄想篇の主人公はビジュアル×テキストを最大限活用し「信頼できない語り手」を表現している。彼の認知がどのくらい歪んでいるのかが、エンディングムービーという形で解説される(丁寧)ほか、妄想篇が前作を下敷きとしているため、シリーズのプレイヤーは前作との比較やパラレルワールドとのギャップで彼の信用できなさを測ることができる。これはゲームだからこそ可能な「くどくない解説」だと思う。

同じくサウンドノベル作品である 街~運命の交差点~シュレディンガーの手主人公である市川もまた信頼できない語り手である。実写をベースにした「歪み」の表現が強烈な一方、タイトルから推察できる通り、語り手の信頼できなさも含めてシナリオとして仕上がっている(これは非常に誠実な表現だと思う)。
市川のシナリオに限らないが、本作は複数主人公による群像劇であるため、視点によってサブの人物や起こった出来事の印象が変わって見える、非常におもしろい。

映像メインの作品では、デトロイトの主人公のうち1人であるカーラが、「目にしたある情報に対し、敢えて気付かないフリをした」信頼できない語り手であることが終盤に発覚する。答え合わせは僅か数秒のムービーにまとまっているのが技巧的だ。
(デトロイトは映像作品に近いため、映像コンテンツにおける信頼できない語り手もこういう描写になるのかな?と思うが、ゲームだとプレイヤーが操作している分他のコンテンツよりも、より主人公を信頼する傾向にあり、結果として主人公の認知の歪みが発覚した時の驚きが大きいのでは、と思う。)

ところで、私が好きな語り手は、アドベンチャーゲーム作品 moonに登場するウイスパーというキャラクターだ。

ウイスパー(moon)の話をしたい

ウイスパーはホーンテッドハウスと呼ばれる豪邸に憑りついている幽霊で、記憶に欠陥を抱えているため成仏ができずにいる。主人公は彼から「僕の記憶の足りない部分を埋めて」と頼まれ、彼の少年期・青年期・壮年期の記憶がそれぞれ所望する食べ物を届けることになる。
実際プレイしてみると、豪邸に住んでいることや、彼の記憶にアクセスするアイテムがでっぷりとした壮年男性の肖像画であることから、ウイスパー=富豪の男性のワガママを聞いていくイベントだという認識が生まれる。

それぞれのイベントは以下のとおりで

① 少年期
母親を探している痩せた子供にクッキーを渡す
② 青年期
パンの耳を食べたがっている横柄な態度の青年に食パンを渡す
③ 壮年期
「高級珍味である黒キャビアを食べたい」と主張する太った美食家にオタマジャクシを渡す(※実際にゲーム内でオタマジャクシは黒キャビアとして提供されている)

そうしてプレイヤーが全てのイベントを終えた際に、ウィスパーは自分の記憶を取り戻す。

自分が何者かを思い出したウイスパーの独白が、あまり説明ったらしくなくて好きだ。

そうだ ボクは飢えていたんだ 何も食べられなくて…
ありがとう、思い出したよ

ウイスパーの正体は、親に捨てられ餓死した子供の幽霊であり、お腹いっぱいにものを食べることへの憧れから(或いはつらい記憶を封印するため?)、青年期~壮年期までの偽りの記憶を作り上げていたのだ。そのため彼の記憶は穴だらけであり、成仏することが出来ずにいた。
このイベントは「信頼できない語り手」をゲーム上で表現した、いいモデルケースだと思う。私は気持ちよく騙され、納得し、強く心に残った。
イベントの途中で「もしかして…?」となったプレイヤーもいるのだろうか?ウイスパーが多くを語らないがために、イベントの意味に気付いていないプレイヤーもいるかもしれない。
個人的には、プレイ時に引っかかりを覚えた部分が真相を経て、伏線だったんだな…とストンと落ちたのがよかった。
少年期から青年期・壮年期で別人になりすぎだろ、金持ちの美食家がパンを要求するか?など。いずれも想像力が貧相な子供が、肖像画の人物を見て作り上げた妄想だとすれば合点がいく。
逆に真相を知って以降の周回で、ウイスパー自体の口調が幼い(肖像画の人格と全く違う)のは彼の人格の根幹が幼いからなのか…という発見があったりもした。
ゲームのキャラクターに焦点を当てた、演出や展開の塩梅が本当にいいケースだと思う。

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