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【Sherlock Holmes Chapter One】でシャーロック・ホームズを知る【レビュー+感想】

君はシャーロック・ホームズを知っているか?

 筆者はあまり知らない。

動機:オープンワールド推理ゲームというレビューを見て
プレイ時間:30時間程度

 チャプターワン…日本語でいうところの「第一章」。つまり同じ会社が作っているホームズのシリーズ一作目か?と感じるかもしれないが、そうではない。20歳の未熟な青年だった頃のホームズを主人公とした、いわば「名探偵シャーロック・ホームズ」の人生の第一章といった設定だ。

 それはそれとしてこの会社がホームズのゲームを作りまくっている異常ホームズ愛ゲーム製作会社であることは事実なので要チェックだ!

↑ ホームズ専門店

 ちなみに筆者も以前、前作にあたる【Sherlock Holmes: Crimes & Punishments(以下 罪と罰)】を遊んだことがあった。

 なお書いている人間は特にホームズのファンではなく、「罪と罰」および「伯爵令嬢誘拐事件」しか知らないホームズにわかであることを申し添えておく。

 幼少期を過ごした街:コルドナに帰還したホームズが、生家をはじめとする懐かしの風景と関わることにより、記憶の底に封印された「母の死」の真相を解き明かしていくオープンワールド推理アドベンチャーだ。

 このメインストーリーというか全体的なコンセプトが非常に良かったため、記事を執筆しようと思った。あわよくば自分で遊んで体験してほしいと思うが、それとは別にネタバレ込みでエンディング周辺の感想も書いた。

 良いところと同じくらいダメなところがあり、それを隠して他人に勧めるのはフェアではないため、先にマイナス点について書く。


このゲームの欠点について

オープンワールドを活かしきれていない


 「オープンワールド推理ゲーム」というコンセプトに対して、期待と不安が半々にあった。【Shadows of Doubt】の自由な犯罪都市のおもしろさが思い起こされる一方、危惧していたのは「膨大なフィールドから証拠を探さなくてはならないのでは…」という部分だ。
 幸い事件の証拠を集める探索エリアは基本的に限られており、海の中から針をすくうようなプレイは求められなかった。

 それはそれとしてヒントを聞ける通行人を探すのが手間だったり、噂話派生の事件が見つけにくかったり※、オープンワールドであることの欠点は目立つ一方で利点は少ない。

※ 筆者は噂話から開始するDLCストーリーが発見できなかった

 ただロケーションの出来は良く、さまざまな身分・国籍の者がひしめき生活するコルドナは、ホームズの世界観に入り込むには非常にいい。


相変わらずのスッキリしない推理


 前作を遊んだきっかけが「冤罪を仕掛けられる」胡乱なおもしろさだったのだが、結果として犯人を特定する決定的動機が無い、誰が犯人でもいいような事件簿になっていた。

 その問題がそのまま本作にも引き継がれている。たとえ真犯人を追求しても煮え切らないエピローグのせいで不安になることもしばしば。各容疑者を糾弾出来るのだが、糾弾対象を誤り、犯人ではない容疑者を告発した場合にも成功判定がある

 実績が正誤チェッカーになってくれれば良かったのだが、今作は真犯人を当てても犯人の処遇を間違えると実績が解除されないため、モヤモヤが強化された。


グレードダウンした化学検証


 ホームズと言えばトンデモトリックの化学実証(罪と罰知識)!……なのだが、前作で見られた派手な実証はなりを潜め、本作ではもっぱらその場で謎のパズルを解くことで進行する。

筆者は楽しめたけどレビューで批判されてそうな味わい

 個人的にこれ自体は好き(最善手を考えるのが楽しい)なのだが、前作と比較してしまうとどうしてもゲーム的には退屈だ。

 ただしこれは恐らく意図された作風で、エキセントリックな推理ショーをやる以前のホームズを描くためにこうなっていると考えられる。現にゲームのおわりのムービーでは、思考の実証のためにマネキンをめった刺しにするホームズを見ることができる。
 「表現したいこととゲーム的な面白さは別」という複雑な話だ。


プレイヤー不利な戦闘システム


 このゲームでは事件の解決にあたって戦闘を求められるシーンがある。戦闘パートにおいて多対一で相手がホームズを殺しに来る一方、ホームズは不殺※を求められる。不殺のためには相手の隙を作った上でQTEを成功させる必要があるが、隙を作る過程もQTEも絶妙に手間がかかる

※ 殺害してもデメリットはほぼ無い

 防具がない敵や、弱点が正面にある敵は良いのだが、頭防具を付けている敵には怯ませるための行動が通用しない。頭防具を剥ぐためには両肩・両足の防具を剥ぐ必要があり…とにかく面倒くさい。ふつうに防具の隙間を縫ってヘッドショットすれば死ぬため終盤は殺人鬼ホームズになっていた。

 つまり推理やアクションやオープンワールドとしては結構…遊びにくさがあるのだが、欠点を吹き飛ばす良さがこの作品にはある。そんな本作の魅力を記していく。



相棒は「ジョン」

 チャプターワンにおけるホームズの探偵稼業の相棒は「ジョン」という男性だ。シャーロック・ホームズに詳しい人は「ジョン・H・ワトスン」ね、と思うかもしれないがそうではない。
 ジョンとはホームズの兄弟であり、他人からは見えない人物であり、遊べば分かる事なので書くが「イマジナリーフレンド」だ。ちなみに推理ではあまり役に立たない。

 ジョンが生まれたきっかけはおそらく「幼少期のホームズが父親の死から心を守るため」であり、お気づきの通り この作品はイマジナリーフレンドとの決別を描いている。

ジョンの日記

 不真面目で、情け深く、時に不謹慎なホームズの相棒「ジョン」。推理がスムーズに進めばホームズを絶賛し、滞ると日記に不満を書きとめる。ことあるごとに勝負を仕掛けてくるチャーミングな彼と事件を追いかける日々は非常に楽しい。

殺人犯を見逃せという

 イマジナリーフレンドではあるが、ホームズからはほとんど実在人物として扱われており、彼が思い出す幼少期の記憶の中には常にジョンがいる。ジョンと二人で怒られた、二人で作った秘密基地、二人で隠した宝物…といった感じだ。
 チャプターワンにおけるホームズは精神面がけっこうギリギリなのだが、ジョンが実在しないという前提で彼の記憶を見つめなおすと、あまりに切なく 違った見え方になる。



生家を軸に幼少期の記憶を取り戻していく

 母の死をきっかけに離れたかつての故郷:コルドナに帰還するところから物語は始まる。ホームズは生家を訪れて自分の記憶がおかしいことに気付く。長らく母の死を不幸な事故によるものだと認識していたが、違うのでないか?と。

 メインストーリーは 家にかつて存在した家具をきっかけに、記憶の扉が開いていき、同時に屋敷の部屋の中から記憶へ対応する箇所へ入れるようになる。部屋に残されたものを見るうちに、母の死に繋がる記憶が甦り…といった風に進行していく。そして 屋敷すべてを解放したときに、すべての記憶を取り戻すといった寸法だ。
 記憶を取り戻すと扉が開くシステムは、一見妙だが、母の死に繋がる記憶から目を逸らそうとするホームズの深層心理と噛み合っているのだろう。向き合う覚悟がないので、戸を開けることができないのだ。

 前作はオムニバス的な構成になっていたため、各事件が独立しており物語全体の起伏に欠けていた。本作ではメインストーリーの流れに沿って個別の事件が発生し、事件の解決をきっかけに母の死の真相に近づいていくというリードストーリーがあり、その構成が巧みだ。

 また、サイドストーリーとして、競売にかけられコルドナ中に散らばってしまったホームズ邸の家具を買い戻すことができる。エリアごとに家具を集めきるとちょっとした記憶を思い出すことができ、家主を失って荒廃していたホームズ邸はかつての色彩を取り戻していく。

 それに限らず舞台自体がホームズの故郷であるため、家に限らないロケーションからも思い出が想起されることもある。街のちょっとした風景を眺めてジョンとあれこれ言い合っている時間が非常にいい。

記憶を追いかけた先にあるこのストーリーがよかった 君の目で確かめてみてくれ



シャーロック・ホームズの第一章

 事件解決の際にときおり「ホームズといえば!」なアイテムが手に入る。作中で目立ったのは「虫眼鏡」と「バイオリン」で、にわかである筆者ですら「伯爵令嬢誘拐事件で見たやつだ!」と熱狂した。パブリックイメージのホームズを象徴するアイテムだ。
 これらはいずれもメインではなくサブ事件の報酬なのだが、これをサイドに置いたのが粋で、寄り道を楽しむプレイヤーへのサービスを感じる。

 理知的でどこか冷たいところのあるホームズに対し、ジョンは非常に感情的だが、彼はホームズの内部から生じた人物だ。ホームズが同情の余地のある犯人を見逃せば喜び、厳しい処断をすれば非難する。
 これはいずれ冷徹な真実探究マシーン(罪と罰知識)に成長するホームズの中にある、人間らしい感情を分離する儀式のように見えて面白い。


 そんな感じの作品だ。魅力が伝わらない?本当に面白い部分は 口に出すと面白さを損ねてしまうようなものだ。ホームの知識は多分そんなにいらない。死体とトリックはけっこう派手で 推理モノとして面白い。ジョンの挑戦はちょっとしたやり込みとして楽しい。サイドの事件も大量に用意されている。

 ホームズは女装すれば可愛いし

 「我が子を食らうサトゥルヌス」も見れるし

 当然バグだってある!

 モヤモヤを抱える覚悟があるなら コルドナに来てほしい。



※※※ 以下ネタバレを含む









エンディングについて+

 早いうちから「父の死から逃避するために生まれたイマジナリーフレンドのジョンと、母の死の真相を暴くことで決別するストーリー」と予想していた。また中庭の水場を見た瞬間、ホームズの「水恐怖症」という設定にまさか…という予想が走った。つまり、結構真相については予想の範疇だった。

 最後の扉を開けないでくれ、そこにあるのは痛みだけだ とホームズを制止するジョンへの「痛みと、真実だ」という返答が好きだった。

覚悟を決めたわけだ

 この作品においては、最後の謎「母親はなぜ死んだか?」についても複数の推理をすることができ、推理に併せて完全にエンディングが変化する。推理ゲームとしてどうなのか?という疑問はあるが、サスペンスとしては好みの分岐だ。
 最後の推理シーンの演出もいいし、そこに至るまでのつくり(一人称視点で幼少期を回顧するムービー)もいい。


 エンディングは主に「(自分/ジョン)が殺した」「オットーが(自分/母)を助けようとして起きた事故」の4つある。いずれも苦しい内容だ。リヒターを犯人とするルートでは、ジョンとの別れがしっかりしているところが魅力なのだが、個人的には状況証拠も含めて「自分が殺した」が正解だと思っている
 (ジョンとの決別がスッキリしないという欠点はあるが)このルートで提示されるのは、ここまで「どんな事情があろうとも殺人は殺人だ」という姿勢※だったシャーロックを貫くような、受け入れがたい事実だ

※ こういう姿勢になるかはプレイヤーによる、ジョンはこれを咎める存在。

 ジョンは、犯人に同情の余地があると「見逃してあげたい」という立場を取るのだが、これが「真実」だけを追い求めるホームズから分離された存在が言っているのはある種自己防衛的な行為だ。

散々言っていた言葉が自分に返ってくる
ジョンの「優しさ」の話

 筆者はプレイ中、ホームズと一緒になって ジョンの野次を疎み、「本当に同情の余地があるのであれば司法が減刑してくれる」という態度をとってきたため、プレイヤーの立場でも頭をぶん殴られるようなエンディングだった。

 真犯人を追求したうえで見逃すこともできる前作の感想を漁った時に「情によって真実を歪めるホームズは解釈違い」といったような感想を見た気がする。なにせホームズにわかだからこの感覚が正しいかどうか分からないが、そのホームズらしさをゴールとするのであれば、このエンディングを経由して、良くない形でジョンと決別し、己と兄を許せないまま情を切り離す過程を描写したかったのではないかと感じる。

いい決別の方


マイクロフトの愛


 シャーロックは兄の、時に手段を選ばず、真実を偽る姿勢を絶対に受け入れることが出来ないのだろうが、個人的には兄からの弟への愛の深さが見て取れて愛おしかった。シャーロックは気に食わないだろうが、ほとんどすべての行為はホームズのために行われている。彼は真実を隠すことを選んだが、そもそもジョンを作り出し父の死から逃避していたシャーロックに、母の死の事実は背負いきれないだろう。

 というか20歳(=本作のシャーロックの年齢)にして、夫を亡くし精神がおかしくなった母と、父を亡くし精神がおかしくなった弟を支え家を維持しているのは立派だ。真実を隠したのも自首した弟を助けたのも愛ゆえだ。

 特にマイクロフトの愛を感じたのは、ジョンの分のベッドを用意するよう要求するシャーロックの部屋に2台めのベッドを運んだこと。終盤の「彼(=ジョン)はどこにいる?」と尋ねるシーンも良い。ジョンを自分には見えないが存在するように扱ってくれる数少ない人物なのだ。
 あとはマイクロフトの依頼が暗号絵葉書で届くことにも愛を感じる。「そうすればシャーロックは解きたくなるだろう」という信頼あっての行いだ。

エンディングでマイクロフトがアナウンスを務めるものが一つだけあり良かった

 ゆえに最後にヴァーナー(兄であるオットーをシャーロックの母殺害の犯人にされた)が「君には分かると思うが、自分たち兄弟の間に愛情は無い」と発言すのが気がかりだ。筆者はホームズ兄弟の間には愛はあると確信している。ではヴァーナー兄弟に愛はあるのか、ないのか。

深層心理の中にはあるのかもしれない

 というわけで ちょっと前までシャーロック・ホームズに兄がいたことすら知らなかったのに、今ではすっかり兄のファンだ

 名前を「Microsoftから一字引いた名前」としか覚えてないので、時々マイロソフトと呼んでしまう。これはカイロソフトのせいだと推理されていた。


その他感想


 いずれのルートでもジョンの事を完全に吹っ切ることはできておらず、ホームズは限界でありジョンの面影を見つけては落涙する日々だ。そこにご存知ジョン・ワトソンが現れ、物語は幕引きを迎える。
 ワトソン君ってイマジナリーフレンドを重ねられた存在だったんだ…。という後付け真実を堂々と描く強引な手腕には惚れ惚れする。


 「罪と罰」において、目隠しをして発砲するホームズの検証にワトソンは困り果てるが、この作品ではエキセントリックの根幹に「ホームズの人間味」を描いている感じがして、それが好きだった。


 かつては裕福だった一家。暖かい我が家が愛おしく、必死に家具を買いあさったが、屋敷が色づいて見えるのもホームズの視点によるものであり…エンドロールでは鮮やかな家屋が本当の姿になる様子が描かれる。これも本当に良かった。


 本当はホームズがコルドナの住民に好き放題発砲できるゲームがやりたかった。


 サイドストーリーでは天才少年のクエストが好きだった。ショーを続けるべきだと提案するまではこちらが主導権を握っているのだが、イマジナリーフレンドがいることはおろか、その名前すら当てられてしまう。

ジョンの名を呼ばれた時のホームズの狼狽がすごい


 本気のホームズファンから見た本作はどんな感じなんだろう…と思うが、まあ異常ホームズ愛ゲーム製作会社なので大丈夫なんだろう。


 ジョンやターナーが踏襲されていると聞き続編もやっているが

Mouthwashingを経たおかげで「タルパ」という言葉を知り、こういう場面で「ああ…」と思うことができるようになった。ゲームはいつでも学びをくれる。ある意味僕の専門分野だな と自分で茶化せるようになってよかった。

そんな感じ。


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