見出し画像

メイクしてたいって話

 どこでだってあたしはメイクをしたいし、する。もちろんすっぴんで過ごす日も普段からあるけど、メイクをしたいと思ったら絶対にするし、凝るし、普段使いもハレの日も無いくらい、その日その時にしたいと思った化粧をする。

 ステージメイクくらい濃い化粧をなんでもない日にすることだっていっぱいある。そういう自分が好きで、大好き。

 目頭にがっつり黒で尖らせた切開ラインを入れて、エジプトさえ平伏すような極太で尖ってしなやかなアイラインを黒黒と跳ね上げさせて、ワイン樽の底の澱みたいなボルドーも千里先まで冴え渡るようなアクアグリーンも、両方同時にだって瞼にぐりぐり刷り込む。グリッターはポイント使いじゃなくいちめんに塗りたくって。ラメはゴールドもシルバーもよくばって散らす。下まつげはドールの顔を作るように描き込んで、マスカラのすだれを巻いて、涙袋もダブルラインもくっきり。ハイライトは月の光が湖面に輝くように、シャドウはがっつりと森の夜を潜ませて。眉は水鳥の尾のように長く、夕やけに染まる雲のようなアンニュイな色味を混ぜ込む。口紅は絶対にしっかり、真っ赤っ赤も黒も絶望的な紫もおろしたてのドールハウスの屋根みたいなドピンクも、一片の隙も与えずに引く。轢く。そう、轢くって感覚に近いのだ。あたしにとって、くちべにをひくって。メイクって。

 特別な日に取っておくおしゃれなんていらない。着たいと思った服ならドレスだってタキシードだって欲したその日に身に付けたい。つやつやのハイヒールも、ぴかぴかの革靴も。いつかのために憧れの色を残したって、今日死ぬかもしれない。なら使いたい時に使いたい色を使いたいように使いたいだけ使おう。

 頭の中にあるぎらぎらした音がラメになってグリッターになって目の周りに輝くと、にぎやかな心が少しだけおちつく。ぶち抜くようなアイラインをひき倒すと、伸ばせなかった手を伸ばしたような満足に襲われる。すっぴんに自信が持てない訳でも素顔が嫌いな訳でも、全く無い。メイクをしてなくたって自分の顔は惚れ惚れする。でもメイクがしたい。メイクをすることで私の心が表れるから。もう一つの素顔になれるから。メイクを想いのままにかますことで。
 
 化粧は二の次だとか、濃すぎるのは浮くぞとか、そんなのどうだっていい。私は、私の心がばちぱち爆ぜるその一瞬の瞬きを、求めたその時に肌に焼き付けたい。そうして、そういう、心の赴く報告を妨げようとする人や、胸をささくれさせる情勢に対してバイクで突っ込んでいくようにくちべにを引きたい。口紅で轢きたい。めにみえないモヤモヤも騒がしさも、生きてるっていう苦しみも、なにもかも。

 高校生の頃に詠んだ短歌を添えて。



【くちびるに真っ赤なルージュ轢ききった 
 これがあたしの宣戦布告】



いいなと思ったら応援しよう!