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綺譚 地底世界の住人たちが創造するもの
地底世界。
この世界の真実を知っている人間は、ほとんどいない。
そこには、数えきれないほどたくさんの存在がいる。
しかも、その多くは人間以上に知的であり、気まぐれである。
似通った存在同士がつながる種族ともいうべきグループはある。だが、とにかくそれぞれが個性的である。
混沌と秩序の間を行き来しながら、独特の生態系を形成している。
彼ら彼女らは、人には見えない微細な身体をもつ。
それゆえ、普通の人間にはまず見えない。
見えない姿形といえども、ごくたまに、地底世界の存在と意思疎通できる人間がいる。
希有な特性を持った人間による伝聞が、物語や絵画、あるいは詩歌などで描写されてきた。
例えば、西洋の物語では「ノーム」や「ドワーフ」などと呼ばれている。
日本の文化では、多種多様な妖怪たちとして描かれることも多い。
■
この地球は、物理的な世界だけで出来ているわけではない。
人間の形而上学的な身体と同じように、オーラやエーテルと言われるエネルギーボディがある。
そうした人間には不可視の地底層に、彼ら彼女らは住んでいるのだ。
彼ら彼女らによる地底世界の活動は、人間たちの住まう地表世界と、決して無縁ではない。
実は、地底世界の住人たちの領分は、とても繊細で知的、そして芸術的な活動領域である。
例えば、死せる肉体を分解し、再び母なる地球に戻していくのは、彼らの領分だ。
人間はしばしば「肉体が土に返る」というが、地底世界の住人たちは、土壌を制御する。
土壌の中には、現代を生きる人間にはまだ解明し切れていない、細やかな成分がある。
地底世界の住人たちは、その成分のことを、実に事細かに知っている。
たくさんの成分を鮮やかに使うのが、彼らの得意技なのだ。
土壌にいる微生物たちと連携しながら、土壌がひとつの生命であるかのように、その活動を統御している。
ときに地底世界の住人たちは、その秩序の間隙を縫って、宝物をつくりだす。
それは金塊であり、美しい宝石である。
人間を強く魅了する、それら美しい鉱物たち。
我々人間は、彼ら彼女らが余興としてつくり出すもののおこぼれを、もらっているのだ。
■
地底世界の住人たちが宝物をつくりだすさまを、たまたま見たという人間がいる。
ある地質学者だ。
彼は、子どもの頃、地底世界の存在たちが見えていた。
「どうやらほかの子どもたちや大人には、地底世界の存在たちを見ることはできないらしい」。そのことに気がついてからは、地底世界の存在たちのことは、誰にも言わずに、黙っていることにした。
地質学者はその能力を封印して生きてきたが、成人してから間もないころに、「そういえば」と、はたと気がついたのである。
「どうやら自分の関心事は、小さい頃に見た不思議な光景の真実を明かしたい」ということに尽きるのだと。
地底世界の住人たちは、自在に土を操っていた。
それもとにかく不思議だったが、もうひとつ少年の心を惹いたことがあった。
彼らはときたま、きらきらと光る粒をあちこちから集め、それを練り、とても奇麗な宝石のような、金塊のような、素敵なものに変えていた。
ひるがえって見てみると、地底世界の住人たちの見た目は、人間の美的感覚からすると、決して望ましい容姿ではなかった。
しかしながら、彼はこう思った。
美しいものをつくり出す知的な存在たちの姿は、その形はどうあれ、「美しい」と感じるものなのだ、と――。
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