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「システム思考」の考え方を仕事に活用する:市井の人も生かせる分析の視点

私は10年以上前、会社員として産業分野の取材記者の業務に従事していた。当時、先輩・同僚・後輩との間で「記者はつぶしのきかない商売だ」と、自己卑下のコメントが飛び交うことがあった。

その後、私は立場としてはフリーランスになったが、引き続き、産業分野の取材記者、そして編集者・ライター、リサーチャーという仕事を生業(なりわい)とした。会社員時代も含めると、25年以上、この仕事で糊口をしのぐことに成功し続けてきた格好になる。

もしかしたら、「つぶしのきかない商売」だからこそ、私はこれを続けてきたのかもしれない。

それでも最近、まったく別分野を専門とする知人から、「色々あっただろうが、25年以上、ほぼ同じ仕事を続けられるというのはすごいことだ」と評価された。これはうれしいコメントだった。ただその時、私自身としては正直、「職場で優秀な先輩・同僚・後輩の間に挟まれ、生き延びるために必死になって勉強し、仕事に食らいついてきた」という記憶ばかりが想起された。

言い換えれば、私の過去の職業人生は「ただ闇雲に努力してきただけだった」という心境である。

だが、この知人からのお褒めの言葉は、良いきっかけになった。自分が業務を遂行するうえで実践してきた手法のうち、特に何がこの仕事で成果を上げるのに寄与したのかを、冷静に考えるようになったためだ。

役に立っている手法およびコンセプトの一つが、「『システム思考』的な考え方」である。システム思考「的」としている理由は、私はシステム思考が提示する手法のすべてを業務に活用していたわけではないからだ。

しかしながら、取材対象を捉える際にシステム思考的な考え方をなんとはなしに実践してきたことは、執筆する記事を読者に貢献するコンテンツに仕上げるために、役に立ったのではないかと思っている。

■システム思考とは何か

システム思考は、対象となる事象を「システム」として捉え、その重要な構成要素間の関係を明らかにする方法論を指す。

ここで言うシステムとは、複数の要素が相互に作用し合った集合体のことをいう。例えば、企業や地方自治体はシステムの典型である。一人ひとりの人間も、臓器、骨格、心理などと要素分解したうえで捉えれば、これらにより構成されたシステムであると解釈できる。

システム思考はいくつかの要素で成り立っているが、私が現場でしばしば実践してきたアプローチは、ほぼ「因果ループ図」に集約される。そこでこのnoteでは、因果ループ図を中心に論じる。

システム思考の全体像をおさえたい方は、書籍『実践システム・シンキング 論理思考を超える問題解決のスキル』(著者は湊宣明、講談社)がお勧めである。記述が平易でありながらも中身はしっかりしており、忙しいビジネスパーソンが要点を掴むのに役立つ。

私が作成した因果ループ図のサンプルをご覧頂きたい。この因果ループ図は、企業における売上、利益、設備投資、さらには外部要素である市場との関係を示したものである。

筆者が描いた因果ループ図の例

因果ループ図でまず注目していただきたい構成要素は、大きく2つある。1つが、変数(図中では四角で囲んだもの)。もう1つが矢印(変数同士を結んだもの)である。

一般的に、企業においては売上を上げれば、利益もそれに連動して上昇する。図の変数「売上向上」から変数「利益向上」に矢印がつながっているが、これはその動きを示したものである。

この矢印の終着点近くに「+(プラス)」が描かれている。この描画により、「売上が向上すると利益が向上する」という「正」の関係性を示した。

企業は利益が上がれば、その一部を設備投資に回して、商品やサービスの機能や品質を高めたり、生産効率を上げたりして、さらなる利益向上をはかる。そこで、図のさらに右側には、変数「設備投資」を置いた。変数「利益向上」から変数「設備投資」に矢印がつながり、さらには変数「設備投資促進」から変数「利益向上」にも矢印がつながっている。これらで、「利益向上によって設備投資が促される」「設備投資は利益向上を促す」という関係性を描いた。いずれも正の関係にあるので、「+」を配置している。

変数「設備投資促進」から変数「利益向上」に向いた矢印には、二重線「||」を追記している。この二重線は「遅れ」を示したものである。本来であれば時間軸の長さを表すべく長い矢印で示すべきだが、図の描写領域の限界があるため、途中を省く意味で、二重線になっている。一般的に、設備投資が利益に対する効果は、時間的に遅れてやってくる。そのため、この二重線を描いた。

変数「売上向上」と変数「利益向上」、また変数「利益向上」と変数「設備投資促進」の間には、「自己強化」という文言を配置した。その理由は、これら変数で構成される因果ループ(循環)においては、関係性が相互に強化するほうへと働いているためだ。

ただ、一般的には、売上は無限に上がるわけではない。市場という外部要素があり、市場が飽和してくれば当然、該当商品・サービスの売上は逓減する。

図の左側の要素に注目したい。左側には、変数「市場飽和」が置かれている。これと変数「売上向上」の関係を見ると、変数「市場飽和」から変数「売上向上」に伸びている矢印には、その終着点に「ー(マイナス)」を配置した。理由は、先にも触れたように、市場飽和は売上向上という変数に対して抑制的に働くためである。

こちらのループにおいては、「バランス」という文言を配置している。その名の通り、このループは、変数間の関係により抑制的に働き、一定のレベルに収束していくためだ。

■「遅延」を含めた全体の動きを俯瞰するのに役立つ

このような因果ループ図を描くと、分析したい対象がどのようなシステムになっており、相互の要素がどのように関わっているのかを客観視しやすくなる。

例えば先の因果ループ図は「自社をとりまく外部要素に着目することで、企業は持続的に成長できる」ことを示している。特に市場飽和は時間軸的に見れば遅れてやってくるので(図では二重線で示した通りである)、中長期的な視野では、設備投資促進だけでなく新たな市場を開拓するためのマーケティング活動と新規事業開発が欠かせない。

ここでは分かりやすくするために、ごく簡単な企業経営の事象を示した。企業経営は経営学の恩恵により多数の原理・原則が示されているが、私たちは意外にも、考えてみれば当たり前の構図――特にシステム上の時間的な遅延、あるいはバランス型のループの存在――が頭から思い切り抜け落ちてしまうことがある。

遅延は、意外にやっかいなものである。人は得てして直近の変化、特に素早く現れる自己強化型ループに気を取られがちだからだ。その変化が魅力的であればあるほど、潜在的なバランスループが頭から抜ける。それが後からじわじわと、システム全体に思わぬ悪影響を与える。悪い食事と運動不足、それらがもたらす健康状態の悪化などは、この典型例であろう。

企業分析の専門家などではなかったとしても、この因果ループ図のような「事象をシステムとして捉える」図法に慣れておくと、“当たり前の構図”をあらためておさえておくのに、とても役に立つ。

私が取材記者として最前線にいた時、いちいちこのような因果ループ図を描いていたわけではない。ただし、記事を書く際には、しばしばこれに近い図を描いて全体像を整理し、時にはこれを記事中に使う図版としてブラッシュアップして掲載していた。読者への理解を促す際にも、因果ループ図的な図は役に立つためだ。

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