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【Vol.13】幹細胞培養上清液——脂肪由来の細胞の採取方法や培養について

*幹細胞培養上清液・エクソソームは医薬品ではありません。
本記事は、幹細胞培養上清液やエクソソーム・サイトカイン・成長因子のことを正しくご理解いただくために記載しています。

幹細胞培養上清液——脂肪由来の細胞の採取方法や培養について

脂肪由来の間葉系幹細胞(ADSC: Adipose-Derived Stem Cells)は、再生医療や美容医療において幅広く応用されています。
その採取および培養の手法は、他の幹細胞源と比較して非侵襲的であり、患者にかかる負担が比較的少ないのが特徴です。

ここでは、脂肪からの幹細胞採取方法と培養プロセス、そして幹細胞培養上清液生成に至るまでの具体的な流れを詳しく見ていきます。

1. 脂肪からの幹細胞の採取方法

 1.1 リポアスピレーション(Lipoaspiration)

脂肪由来の幹細胞を採取する際には、リポアスピレーションと呼ばれる技術が広く使われています。
この方法は、いわゆる「脂肪吸引」と同様の技術で、体内の脂肪組織から幹細胞を含む脂肪を採取する手法です。

手術手順: リポアスピレーションは局所麻酔下で行われ、腹部、臀部、大腿部などの脂肪が多く蓄積されている部位から脂肪を吸引します。
通常、細いカニューレ(針)を皮膚に挿入し、軽い圧力をかけて脂肪細胞を採取します。吸引された脂肪には、脂肪細胞(アディポサイト)だけでなく、間葉系幹細胞や他の支持細胞が含まれています。

利点: リポアスピレーションは比較的低侵襲であり、短時間で実施できるため、患者への負担が少ないことが利点です。また、一度の手術で十分な量の脂肪を採取でき、これにより幹細胞の分離と培養が効率よく行われます。

1.2 幹細胞の分離


採取された脂肪組織から幹細胞を抽出するプロセスでは、酵素処理や遠心分離が利用されます。

酵素処理: 採取された脂肪は、まず酵素(通常はコラゲナーゼ)によって処理されます。
この酵素は脂肪組織を分解し、脂肪細胞と間葉系幹細胞を分離する役割を果たします。

遠心分離: 次に、分解された脂肪を遠心分離機にかけ、幹細胞を含む「ストローマ血管分画(SVF: Stromal Vascular Fraction)」を分離します。
このSVFには間葉系幹細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞などが含まれており、幹細胞の分離に重要です。

2. 脂肪幹細胞の培養方法

脂肪組織から分離された間葉系幹細胞は、そのままの形で使用されることもありますが、多くの場合、培養によって幹細胞の数を増やしてから利用されます。
幹細胞を増やし、その分泌物(幹細胞培養上清液)を得るためのプロセスを以下に説明します。

2.1 培養環境の設定


幹細胞を効率的に増殖させるためには、適切な培養環境の設定が不可欠です。

培養基: 脂肪由来幹細胞は、通常、栄養豊富な培養基に置かれます。
この培養基には、血清(通常はウシ胎児血清)・アミノ酸・ビタミン・グルコース・成長因子が含まれており、幹細胞の増殖を促進します。
また、最近では血清を使用しない培養基(無血清培養基)の利用も進んでおり、より安全かつクリーンな培養が可能になっています。

培養条件: 幹細胞は37°Cの温度と5%の二酸化炭素濃度の環境で培養されます。
これらの条件は、体内における自然な細胞増殖環境に近いため、幹細胞の増殖効率を高めます。

2.2 幹細胞の増殖


脂肪由来幹細胞は、その増殖能力が非常に高く、数週間にわたり培養することで細胞数を増やすことが可能です。
通常、幹細胞はプレート上に播種され、細胞が増殖してプレートを覆うまでの間、定期的に培養基を交換しながら成長を観察します。

パッセージ(Passaging): 細胞がある程度増殖した段階で、幹細胞は「パッセージ」という処理を行います。
これは、細胞が過密状態になるのを避け、最適な増殖環境を維持するために、細胞を再分散させて新しいプレートに移す作業です。これにより、細胞の増殖をさらに促進し、大量の幹細胞を得ることができます。

3. 幹細胞培養上清液の生成

幹細胞が培養中に分泌する成分は、幹細胞培養上清液として収集されます。脂肪由来幹細胞が培養過程で分泌する幹細胞培養上清液には、成長因子・サイトカイン・エクソソームなどが含まれており、これらが再生医療の主役となります。

成長因子: 幹細胞培養上清液には、細胞の成長や修復を促進する成長因子が多く含まれています。特に、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)などが豊富で、これらが組織の修復や再生に寄与します。

サイトカイン: サイトカインは、免疫系の調整や炎症反応の抑制に重要な役割を果たします。
脂肪由来の幹細胞培養上清液には、炎症を抑えるインターロイキン-10(IL-10)や腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインが含まれており、免疫疾患や炎症性疾患の治療に有用です。

エクソソーム: 最近の研究では、幹細胞が分泌するナノサイズの小胞「エクソソーム」も注目されています。
エクソソームには、RNAやタンパク質が含まれており、細胞間の情報伝達を行うことで、再生医療や抗炎症治療に重要な役割を果たします。

4. 脂肪由来幹細胞培養上清液の応用

脂肪由来の幹細胞培養上清液は、美容医療や再生医療の分野で広く応用されています。

美容医療: 皮膚の再生や弾力性の向上、シワの改善など、美容医療での利用が進んでいます。
幹細胞培養上清液に含まれる成分が、皮膚の細胞を活性化し、健康的な肌を保つ効果があります。

整形外科: 関節炎や軟骨損傷などの治療にも、脂肪由来の幹細胞培養上清液が活用されています。
関節内注射による治療が進んでおり、軟骨の修復を促進することが期待されています。
*隆聖会ラボにおいては、整形外科には歯髄由来の幹細胞培養上清液が適しているのではと考えております。(歯髄由来の記事において記載します)

免疫疾患: 幹細胞培養上清液に含まれる免疫調整因子が、自己免疫疾患や炎症性疾患の治療に寄与します。

幹細胞培養上清液の脂肪由来に関して細胞の採取方法や培養についての内容をまとめました。
次の記事では、臍帯血由来の幹細胞培養上清液の培養に関して細胞の採取方法や培養について記載します。

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