【Vol.3】幹細胞培養上清液の基本概念:定義、生成方法、主要成分について深掘り
*幹細胞培養上清液・エクソソームは医薬品ではありません。
本記事は、幹細胞培養上清液やエクソソーム・サイトカイン・成長因子のことを正しくご理解いただくために記載しています。
前回の記事で「幹細胞」と「幹細胞培養上清液」の基本的な違いについて解説しました。
今回は、幹細胞培養上清液の具体的な定義、その生成方法、そして主要成分についてさらに詳しく掘り下げていきます。
幹細胞培養上清液の定義
幹細胞培養上清液は、幹細胞を培養する過程で分泌される「上澄み液」のことです。
この幹細胞を培養する過程で分泌される「上澄み液」には、幹細胞が分泌する様々な有効成分が含まれており、これらの成分が持つ生理活性により、細胞の成長や修復を促進する効果があります。
幹細胞自体は含んでおりません。
幹細胞自体とは異なり、幹細胞培養上清液の成分を利用して治療効果を得るためには実際に細胞を体内に移植する必要はありません。
幹細胞培養上清液の生成方法
幹細胞培養上清液を生成するプロセスは、次のステップで構成されます。
*隆聖会ラボでは、歯髄由来の幹細胞培養上清液を培養していますが、ここでは一般的な生成方法を記載いたします。
1. 幹細胞の選定と準備
最初に、使用する幹細胞の種類を選定します。これには多能性を持つ胚性幹細胞、体性幹細胞、または誘導多能性幹細胞(iPS細胞)が含まれます。
*安全性の観点から、この時点で幹細胞を採取するドナーのスクリーニング(感染症などの検査)が必須です。
2. 幹細胞の培養
選定した幹細胞を特定の培養液で培養します。この液体は、細胞が成長しやすいように必要な栄養素や成長因子が豊富に含まれています。
3. 成分の分泌
培養過程で、幹細胞は様々な生理活性物質を分泌します。これらは培養液中に溶け込みます。
4. 上清液の分離
幹細胞と培養液を物理的に分離します。通常は遠心分離機を使用して細胞を沈殿させ、上澄みとしての上清液を採取します。
5. 上清液の保存・保管
幹細胞培養上清液には幹細胞自体は含みませんが、保存に関しては他の再生医療分野同様、冷凍保存が必要です。
推奨:マイナス60℃〜マイナス80℃
幹細胞培養上清液に含まれる主要成分とその機能
幹細胞培養上清液の主要成分には、次のようなものがあります:
1. 成長因子
細胞の増殖や分化を促進するためのたんぱく質です。例えば、FGFやEGFなどがあり、これらは皮膚細胞の再生や傷の治癒を助ける効果があります。
2. サイトカイン
細胞間のコミュニケーションを助けるたんぱく質で、炎症反応の調整や免疫応答の促進に関与します。
3. エクソソーム
細胞が分泌する小胞で、DNA、RNA、たんぱく質などを含みます。これらは細胞間の情報伝達に使用され、再生プロセスに深く関与しています。
主な成長因子と役割
EGF:上皮成長因子
細胞表面に存在する上皮成長因子受容体(EGFR)にリガンドとして結合し、皮膚においては表皮の細胞の成長と増殖の調整、歯科においては歯周上皮細胞の成長と増殖の調整に対する重要な役割を担っています。
aFGF:酸性線維芽細胞成長因子
線維芽細胞に、コラーゲン・エラスチン・ヒアル
ロン酸・SOD等の産生促進シグナルを出し、皮膚においてはハリのある
新しい皮膚の細胞を再生し、歯科においては歯周・口腔外科領域における創傷の治療や組織再生を誘導します。
bFGF:塩基性線維芽細胞成長因子
FGFファミリーに属する人体に広く分布する強力な血管新生因子であり、血管新生および動脈形成を促進する特色をもちます。
神経や骨の形成にも関与しています。
KGF:上皮細胞成長因子
FGFファミリーに属し、上皮細胞の増殖、移動、分化を刺激することで、傷ついた行っ付や粘膜繊維の修復を促進する作用を持ちます。AGA分野においては、毛母幹細胞に働きかけ、育毛や発毛、増毛効果に期待ができます。
VEGF:血管内皮成長因子
血管内皮膚細胞の増殖をはじめとした血管新生過程の促進、血管透過性の亢進作用を有することから、免疫応答や繊維再生増殖に大きな役割を果たします。
HGF:肝細胞増殖因子
肌細胞の増殖促進、細胞運動促進、形態形成誘導、血管新生など、組織再生に期待できます。歯科においては、歯周組織の細胞増殖の促進、抗アポトーシス効果、形態形成誘導、血管新生などに関わっています。
PDGF:血小板由来成長因子
マクロファージ、平滑筋細胞、内皮細胞、線維芽細胞からも分泌され、組織が傷つくと放出されて、細胞遊走と細胞増殖によって組織を修復し、創傷治療に関わる成長因子です。
EGF、IGFの共存化で組織の細胞増殖作用を発現します。
BDNF:脳由来神経栄養因子
BDNFは、中枢神経系や抹消神経系の一部のニューロン(神経単位)に作用し、現存のニューロンが維持されるようにサポートした上でニューロンの成長を促し、新しいニューロンやシナプスに分化することを促します。
BDNFは、網膜・運動ニューロンのほか、唾液腺にも作用することが知られています。
TGF-β:トランスフォーミング成長因子
TGF-β1は、消炎効果を持ち、マトリクス破壊を抑制し、I型コラーゲン・フィプロネクチン・オステオネクチンの合成促進に働くと考えられている成長因子です。
まとめ
幹細胞培養上清液の生成方法と主要成分の理解は、この技術の可能性を最大限に活用するために不可欠です。
今後もこの分野の研究が進むにつれて、新しい応用方法や治療法が見つかることでしょう。