2021年春、コロナ禍一時帰国大作戦

其の一:日本へ

カナダに移住して今年で12年。その間毎年春と秋の2回日本に一時帰国して来た。それが2020年のコロナ・パンデミックで今まで当たり前の様に行き来してた祖国は遠い存在となってしまった。秋の帰国は第1回目から参加させてもらっている新島国際ガラスアートフェスティバルに参加するのが主な目的で、2020年度はキャンセルとなった為に移住してから初めてカナダで秋を過ごす事となった。しかし春の帰国は日本で生じる収入の確定申告の為なので帰国せざるおえない。この申告を済ませて、日本での収入分に関しては既に申告と納税を済ませたと言う証明をカナダの申告の時に提出する必要があるからだ。と言う事で意を決しって帰国することに決めた。正に未曾有の事態の中での帰国なので、この時期に帰国を考えてる方の為にも書き記す事にした。

カナダ在住の私が何で日本での確定申告をしなければならないかと言うと、それは母が1960年に開設したジュエリー・メーキングの教室を受け継ぎ黒木アトリエのオーナーであり、そこで生じる収入が有るからである。カナダ移住と共に住民票を抜いたので、その時点でもう申告しなくても良いかと思いきや、税理士さんに「事業届けが出てますので、国税は住民票が無くても申告の義務が有ります」と言われ、日本の春を楽しみがてら毎年帰っていた。去年春の帰国時は武漢でのコロナ蔓延や横浜港のダイヤモンドプリンセスのクラスター感染が騒がれ始めていた時期で多少ドキドキしながら2月11日に帰国。帰国3日後から新橋でのカナダと東京の仲間とのグループ展、そして翌週は宮崎県日向市での同じメンバーでのグループ展を経て、東京に戻る頃はコロナ蔓延が世界的なパンデミックの様相となって来ていた。確定申告と納税を済ませてバンクーバーに戻ったのが3月12日。空港は成田もバンクーバーも不気味なくらい人影がない。でもカナダ入国は拍子抜けするくらい通常運転で、入国管理官に聞かれたのは何処から帰って来たかとどのくらいの期間国を離れてたかだけで、隔離の事は何も言われなかった。空港で拾ったタクシーの車中でトルドー首相夫人がコロナ感染して夫婦で隔離してるとその日に発表になった速報ニュースを知った。帰宅してメールを開いたら日本領事館から「本日から海外から帰国した人は14日間の隔離が必須となりました」とのお知らせ。そして翌週の3月18日からカナダ全土でロックダウン。ロックダウンは5月末には緩和され、6月から9月くらいは良い陽気と共にマスク着用や頻繁に手洗いや消毒などは必須で有ったが、ごく近しい友人達に会ったりする機械にも恵まれ、それなりに楽しい季節を過ごせた。しかし10月の感謝祭やハロウィーンで羽目を外した人達が多かった所為か寒い季節の到来の所為か感染拡大。11月7日から又ロックダウンに入り、同じ屋根の下で暮らす人以外の者を家に招き入れてはいけないとか、集会もご法度となった。そして12月には変異種登場。こんな状況で春の一時帰国は出来るのか?かくして「2021年春、コロナ禍一時帰国大作戦」の始まり、始まり。

今回の春の帰国は確定申告以外にもいくつか理由があった。

1) 歯科治療—カナダのメディケア(国民健康保険に相当するもの)は歯科治療がカバーされないので、他の保険に入って無い限り100%自費で、しかも非常に高額である。日本でも国民健康保険が無いので100%自費だが、それでもカナダに比べると5分の1から3分の1で済む。なので帰国時は30年以上通ってる気心知れた歯科医院に診て貰っている。

2) 叔母の事—85歳の叔母が去年からイマイチ体調が芳しくなく、4月には循環器系の手術を受けるかもしれないので、その前に会っておきたい。

3) 携帯電話—私が日本で使ってる携帯はプリペイドで、1年以上起動しないと、今の番号が使えなくなる。そうすると、帰国時に厚生労働省に提出する隔離計画に記入する連絡先が無くなってしまうし、友人や親戚との連絡も支障が出てくる。

4)買い物—いつも日本に行った時に仕入れてる物がいくつかあって、それはカナダでは手に入らない。

いつもの年は12月にはチケットの手配をしているのだが、そろそろと思っていた矢先に変異種のニュースが飛び込んで来て、暫く様子を見る事に。しかしこれと言って状況が好転する気配なく、意を決して1月初旬にチケットを手配。丁度シートセールが出てていつもの年と変わらない値段でチケットを購入する事が出来た。

しかし!!!1月29日にカナダでも入国時に空港でのPCR検査が実施されるとの発表があり、日本のように空港で待ってる間に結果が出ないので、空港周辺の政府指定のホテルを3泊予約しなければならないという。その費用は何と3泊で$2000!!!日本往復を2回出来る金額!!!実施日はその時点ではまだ決まって無かったが、私がカナダに戻る頃には確実に実施されてる模様。頭を特大のフライパンでガーンと殴られた気分で暫し放心状態。キャンセルする事も頭をよぎったが、数日考えた末やっぱり帰らない訳にいかないので決行する事にした。

次の関門は出発72時間前のPCR検査。出発日が水曜日だった為に日曜日に検査を受けなければならない。幸い同じ市内に日曜でも検査を受けられるクリニックを見つけて、オンライン予約を入れる。サイトには「結果が出るまで2日〜3日、場合によっては5日」と書いてあったが、検査の翌日の夕方にはメールで陰性の結果が来て胸をなで下ろす。検査料は$345で、もちろん自費。

2月10日、出発日。バンクーバーの空港は1月末の発表も手伝ってかガラガラで、出発ロビーのお店は全て閉まっていた。セキュリティーを通った後は免税店などのお店は営業してたが、不気味なくらい人影が無く静か。飲食店はフードコートが半分くらい営業してるだけで、着席のレストランは閉まっていた。搭乗ゲートの辺りもスカスカで、私が乗ったJAL17便は乗客が20人くらいに客室乗務員が6人くらい。スペースは有り余ってるし、サービスも至れり尽くせりで、不謹慎かもしれないが、今までのフライトで一番快適だった。

2月11日、予定より1時間ほど早く3時半頃にタッチダウン。飛行機からは久し振りにタラップで下乗し、まず1階の待合室に通される。係員が検査場の混み具合を見計らう間10分くらい待たされる。トイレに行きたかったが最寄りのトイレは閉鎖中で上の階に案内されるまで待たされる。その後延々と長い廊下を歩いてやっと検査場へ。間隔を開けて並べられた椅子に案内されてやはり15分くらい待たされる。その間にトイレへも案内してもらうが、それもかなり延々歩いて辿り着く。その後検査場で先ずは機内で記入したコロナの症状などの有無についての問診表と出発72時間以内のPCR検査の結果(バンクーバーでチェックインする時にその書類にパスポートナンバーが記載されて無い事を指摘され、それが無いと強制的にホテルで3日間隔離されるかもと言われたが、そのような事は何も言及されなかった)を提出すると検査キットと番号を問診表にもらい、検査ブースへ。日本では唾液検査の為、ブースで与えられたチューブに唾液を約1cmくらい採取する。それを提出すると次は厚生労働省に提出する隔離プランの記入のエリアに案内される。チェックインの時に渡された書類のQRコードをスマホでスキャンして記入を求められるが、空港のWiFi状況と私のスマホが古い機種の為に手こずり、結局備え付けのパソコンで係員に手伝ってもらってやっと記入完了。その後また延々と歩いて次のカウンターに全ての書類を提出していくつかハンコを押してもらい、指定された番号の椅子に座って検査結果を待つ。待ち時間は30分くらい。その間に予約を入れておいた政府指定ハイヤーの運転手さんと連絡を取り合う。自分の番号が呼ばれたら検査結果をもらい、陰性ならそこでやっと入国審査に行ける。陽性の場合は入国審査なしにホテルで隔離され、陰性の結果が出てから入国出来るらしい。それからヨーロッパなど変異種が蔓延してる国から入る人は有無を言わせず3日ホテル隔離となるらしい。入国審査は人数が少ないこともあって、殆ど待ち時間無しで通過し、バゲージクレームも既にトランクはコンベイヤーから降ろされて到着地別の札がある所に並べられていた。それを引き取って税関もほぼ待ち時間無しで通過し、やっと到着ロビーへ。ロビーに出たのが5時45分頃だったから、所要時間は2時間強。かなり延々と成田をぐるっと一回りするくらい歩かされるので、足元の悪い人や小さいお子さんを連れてる人にはかなり大変だと感じた。ロビーを出るとハイヤーが既に待機していてくれて、そのまま速やかに東京の自宅へと連れて行ってくれて、道も空いてたので7時半過ぎには無事到着。因みにハイヤー代は成田から都内一律¥29000。公共交通機関を使えないので、誰かに車で迎えに来て貰えない限り政府指定ハイヤーかレンタカーを使うしかない。到着したばかりの時差ボケの状態で東京都内を運転するのはかなり厳しいのでハイヤーを選んだ。

カナダの14日間の隔離は到着した日から数えて14日間だが、日本の場合は到着の翌日から数えることになるので1日長く2月11日に到着し、25日まで篭る事に。その間毎日厚生労働省から自動音声の体調伺いの電話が入り、熱の有無、コロナの症状の有無を聞かれる。秋頃に帰国した友人達の話では厚生労働省からのチェックの電話は多くて1、2回しか掛かって来なかったと聞いてたので、これも変異種が出てからの事らしい。その電話の最後に「なるべく外出は控えて」と言ってたので、どうやら日本の隔離はカナダほどは厳しく無い様だ。という事で、その14日間の間に外出したのはどうしても必要な物を求めて1回だけ夜9時くらいに近所のコンビニに行ったが、後はしっかり篭っていた。食事は楽天西友のネットスーパーのオーダーとアトリエに来る人達に買い物をお願いしたり、愛媛出身の叔母が手配してくれた伊予柑や、友達の差し入れやデリバリーでかなり豊かな食生活を送れた。

篭ってる間は確定申告の用意、ZOOM開催の講座の参加、後はカナダに戻る為のPCR検査やホテルの手配、日本で手に入れたいものをアマゾンや楽天で手配、それから友達に教えてもらった日本のドラマが見られるサイトで色々と見てる内にさほど退屈する事なく過ぎて行った。

其の二へつづく


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