「いいわけないでしょ」
当時はコロナが5類に移行したばかり。
お店、空いてない。
終電、ない。
こいつんち、多分遠い。
わたしんち、今夜は同居の娘が学生時代の友人集めてパジャマパーティー。
連れて帰るか…?
いやいや無理だろw
わたしもわりと酔っていた、酔った頭で思いつく。
「そうだ。ホテル行こう」
土砂降りの中、まっすぐ歩くことも難しい森山を小脇に抱えて
(確かこっちの方に…あった!よし!“空”の字がついてる!行ける!行けるぞ!お風呂入りたい!)
もうね、端から見たらあなたアバズレですかと。
40もだいぶ過ぎたオバチャンが、オシャレなお兄さんの首根っこ掴んでドカドカラブホに一直線。
連行される森山もさすがに“HOTEL”の看板に気がついたのか
「えっ!いいんですか!?」
「いいわけないでしょ!」
パネルに3部屋空きがある。
くそっ高い部屋しか残ってない。
背後から顔に“SEX”のロゴを貼り付けたようなカップルが3組来ていた。(というより後ろに並んでる)
わたしは“STAY”のボタンを乱暴に押した。
「えっえっ!いいんですか!!」
「だからいいわけないでしょ!!」
騒ぎながら部屋へと向かう、その間ずっと騒ぐ森山。キレるわたし。
入室と同時に森山をベッドに放り投げた。
「ちょっ、ほんとにいいんですか!??」
「うるさああい!(睡眠的な意味で)寝ろ!!!」
襲われることもなく。
そんなムードになることもなく。
なんなら全裸でトイレに向かいドアも閉めずに用を足す森山。
いやいやもうギャグじゃん。
めちゃくちゃ面白いじゃん。
二人して同じベッドで、ほぼ全裸で大の字でイビキかいてガン寝。
翌朝。
わたしが先に起き一服していると森山が真っ白な顔で起床。
全裸の自身を認識し、何故かチ◯コを確認し。
「き、記憶が…ない…です……」
いやもう逆に記憶なくて良かったわ。
“なんにもなかったよ”と伝えて“帰ろうか”と着替えさせて。
退室すると雨は上がっていた。
「すみません、すみません、ごめんなさい」と、一生分の謝罪かと思うくらい謝る森山と、面白すぎて笑いを堪えてるわたし。
よし。反省を見える化してもらおうかな。
「森山くん」
「はい」
「UFJ行くよ。お金、返して」
「はい!!!」
朝7時にお兄さんにお金下ろさせてATM前で腕を組み仁王立ちで待つわたし。
めちゃくちゃこわいなわたし。
でもめちゃくちゃ面白い夜だった。
わかります?
ハードルとか、嫌われたらとか、どう思われたかだとか、そんなんなんもないスタートなんですよ。
だってさ、もう低層も低層、
“底”スタートなんだから。
ここから森山、頑張るんです。
山田の存在や、当時のわたしの思いとか全部知ってる森山が、約一年かけて頑張るんですよ。