見出し画像

沖縄で溺れた話

30年近く生きてると何度か「死ぬかと思った。。」という経験がある。その中の一つ。

夏休み沖縄にて

大学生のときに初めて沖縄へ行った。
2泊3日でレンタカーを借り、沖縄をぐるっと一周回るプランだ。

夏、きれいな海、おいしい食べ物….楽しみにしてるものは挙げれば枚挙に暇がなく、細かい予定は立てず、車で走りながら気になるところにどんどん突撃していく旅だった。

初日は、ソーキそばを食べ、首里城に行き、夜は地元の居酒屋で島らっきょうと泡盛で完璧に出来上がり、民謡を踊りながらホテルに戻る。二日目は、海水浴を楽しみ、出店のもずくの天ぷらに舌を唸らせ、美ら海水族館で感動していた。

最終日、沖縄一周はできなかったが、最後にこのきれいな海で人生始めてのスキューバダイビングをしてみたいと思い、早朝から当日予約できるお店を探し、1件飛び込みで参加できるところを発見したので、即予約した。

初めてのスキューバダイビング

予約後すぐに現地へ向かい、受付を済ませる。
飛び込み参加の私も含め、全部で10人ほどの参加者がいた。

まずは誓約書の記入。「何か事故があっても弊社は一切の責任を負いません」ってやつである。なんか危なそうなアトラクションや、駐車場でよくみる注意書きと一緒だなーと感じつつ、ササッと署名し、いざ、講習へ。

まずは、ウェットスーツを着用し、各自空気ボンベを渡される。初めて生でみた空気ボンベに興奮を覚え、ワクワクが止まらない。頭には仙崎と池澤さんが浮かぶー。

「水深40m。バディと二人取り残された。使えるボンベは一つ。残圧30。片道一人分だ。お前ならどうするー。」

池澤さん、僕はこれから海に潜ります..!

装備を一式借り終えたら、座学の講習が始まった。
ボンベの残量チェック、簡単なハンドサインの講習を受ける。左右に行くときはそれぞれ人指し指で方向を指す、浮上時は親指を立ててグッドサインを、潜降時は逆に親指を下に向けてブーイングのような形でサインを出すとのこと。
そして、注意事項。マウスピースは絶対に加えたままにすること(口から外さない)。インストラクターの指示に従うこと。急浮上しないこと。

以上で講習はおわり、早速海へ向かう。

いざ行かん!海の底へ

海辺に着いたらいよいよ空気ボンベを背負って呼吸の練習。
「見てるか!仙崎!今行くぞ!!」と心で叫びながらいよいよ海へ。

海に入ると、まずはシュノーケリングの要領で実際に海中で呼吸をしながら泳いでみる。やはり慣れていないと酸素ボンベでの呼吸は難しく、強く息を吸い込むことで呼吸ができることに気づくまで少し苦戦した。
が、きれいな海底を眺めながらの遊泳と、眼前に広がる光景ははとても美しく、地上にはないきらびやかな青に感動していた。

そしてインストラクターからいよいよ潜降のサイン。耳抜きをしながらどんどん海底まで進み、一番下のところまで到着。事前にインストラクターより、「一番深いところで水深5~6m付近まで潜ります。」と、聞いていたので、どうやらそこまでたどり着いたようだ。
このときは、耳抜きがうまくできず、海がきれいとか、魚がいっぱいとかどうでもよく、早く浮上したいなーと思っていた記憶が強く残っている。

そしてなんやかんや写真を撮ってくれたり、一通り遊泳したあと、インストラクターより浮上のサイン(グッドポーズ)が出たので、浮上をすることに。
耳は痛かったが、海中で呼吸していることに新鮮さと非現実感を感じて興奮していた私も名残おしい気持ちを抱えながら、インストラクターの後を追い、浮上を始めた。

事件発生

浮上し始めてすぐ、ある異変が起こる。
どうも空気がうまく吸えない。更に強く吸い込んでみる。….やっぱりうまく吸えない。
吸い方が悪いのか?でも、さっきまで吸えてたのに??結構力強く吸い込んでるんだが???
吸い方が悪いのかなー、なんて思いながら念の為空気ボンベの残量を確認すると、メーターがレッドラインを遥かに超え、一番左に傾いていた。

「ん?これって…空気が空っぽってこと?」と目の前のメーターの状態を一瞬理解できなかったが、すぐさま理解し、私は可能な限り早急に浮上しないといけないことを認識した。

ただ、ここで慌ててはいけない。実は私は3才の頃からスイミングに通っており、潜水の最高記録は50mだ。まだまだ息に余裕はある。ここは冷静な対応が必要なのだ。

まずは、インストラクターに状況の伝達が必須である。なにせ、私には空気がないのだ。集団に合わせてゆっくり浮上しているほどの余裕はない。
一列になって浮上をしている集団から抜け出し、インストラクターの隣まで向かい、肩を叩く。インストラクターは私の方を向き、少し驚いた表情をゴーグル越しに滲ませていた。

ここで問題が発生する。空気がない場合のハンドサインを教わっていない。

これは困った!なにせ、空気がないことをどうやって伝えるべきかわからないのである。私とインストラクターは向かい合わせの状態で硬直した。後ろに続いている集団も何か異変は感じるものの、「あいついきなり何してんだ?」状態である。海中でより一層冷ややかな視線を感じながら私はまず、空気ボンベのメーターをインストラクターに見せることにした。
これさえ見てくれれば私のボンベに空気がないことはわかるだろう、という思いでの行動である。

しかし、見てくれない。インストラクターは、私が集団から抜け出した異常者として認識してしまったのだろう。私の両肩に手を当て、ポンポンと叩き、ゆっくり集団の列を指差す。列に戻れといいたいのだろう。

いやいやいや、今はそんな状況ではないよー!どうしよう!

という思いで、私はすぐさま次の作戦に出る。
浮上したい旨を伝えたいので、ハンドサインで親指を上に向けて立てるグッドサインをインストラクターに示した。これで意図は伝わるだろう。
だがしかし、インストラクターは私のハンドサインを見て、満面の笑みでグッドサインを返してきたのである。

ちがーう!「最高ですね!」って意味でグッドサインをしたわけじゃないよー!

浮上のハンドサインをグッドサインにしたやつに激しい憎悪を感じながら、自分の息が苦しくなってきたことに気づく。ちょっとやばくなってきた。。まだ水深4~5m付近のはず。浮上までに10秒弱は掛かりそうで、気が焦りだす。私はこのままではまずいと思い、いよいよ最後の手段に出る。

「水深40m。バディと二人取り残された。使えるボンベは一つ。残圧30。片道一人分だ。お前ならどうするー。」

池澤さん、今がまさにその時です。ありがとうございます。
私はマウスピースを外し、空気が吸えないことを全力でアピールした。そして、ジェスチャーでインストラクターに「お前の空気を吸わせろ」と、必死に伝えた。私はここでもまだ、「急浮上しないこと」の注意事項だけは守ろうとしていたのである。もう二つの注意事項「インストラクターの指示に従うこと」と、「マウスピースは外さないこと」はもう既に破っているのに、だ。

今思えば当然、インストラクターの前にいる私は、気が狂ったやつだったのだろう。いきなり近づいてきて、グッドサインをしたかと思えば、マウスピースを外して、あわや自分のマウスピースを奪おうとしてくるのである。私はインストラクターにとにかく落ち着けと言わんばかりに手足を押さえつけられ、いよいよ限界を迎える。

あ、やばい。もう無理。

気がつけば私にもう息の余裕はなかった。制止してくるインストラクターを振り切り、本能のまま急浮上を行った。

上を見ると、絶望した。海面までめちゃくちゃ遠い。もう息がもつのもあと数秒といったところである。がむしゃらに、全体力と四肢を駆使して火球のように上を目指す。

あと少し、、、

もうちょっと、、、

あ、もうだめかも、、、

意識が遠のき、いよいよ無理かと思ったタイミングでぎりぎり海上にでた。

かつてないほどの荒い呼吸、初めて聞く心臓の音に驚きながら、沖縄の真っ青な空がなんとか生きていることを実感させてくれた。

数秒後に後をついてきたインストラクターも浮上してきた。
インストラクターは第一声に「急浮上するなっていったじゃないですか!」と叱りつけてきたので、私は何も答えず、先程海中で見せた空気ボンベのメーターをもう一度見せた。

インストラクターは何も言わず、私の背中を掴み岸まで引っ張っていった。

教訓

誓約書は形だけかと思っていたが、やっぱり万が一はあるらしい。笑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?