見出し画像

人間こそクラッシュする

SEの相棒といえば、やはりPCである。PCとともに毎日様々な案件をこなしていく。そんな私の相棒はたまにクラッシュして電源が落ちる。
「なぁ相棒、おれはそろそろ限界だからちょっと休憩するぜ」と言わんばかりに突如シャットダウンしてしまうなんともいじらしい相棒だ。

ただ、クラッシュするのはPCだけではない。人間こそクラッシュしてしまう。

PCのクラッシュ

PCは人間が与えた命令を愚直にこなす。
命令とは、PCを扱う上でのすべてのことで、電源ボタンを押してPCを起動した時でも、PCを立ち上げるための命令が一気に飛んでいる。マウスを動かしたり、クリックしたり、ファイルを開いたり…ひとつひとつのアクションすべてが命令となってPCは動いている。

そして、それらの命令を、PCはひとつひとつ愚直にこなしている。Youtube流しながら、文字を打つ作業をし、たまにメールの通知が飛んでくる、なんてことはよくあるが、これらもあくまでひとつずつ命令を処理してくれている。細かい部分まで話すときりがないのだが、ひとつひとつの命令を超高速で処理しているので、あたかも同時進行で処理しているように見える。が、実はひとつずつちゃんとやってくれているのだ。なんとも人間臭いではないか。

ただ、厄介なのは『割り込みタスク』である。
PCに与える命令は、毎秒無数の命令がどんどん飛ぶので、順番待ちのようになっている。順番待ちしている命令の中から、一旦後回しにできるものや、優先して処理できるものなど、うまく処理していくことでこの同時進行感が生まれている。だが、それらを無視した『割り込みタスク』というものがある。ファイルを閉じたりする、緊急性が高いタスクのことだ。これが厄介で、割り込みタスクが頻発するとクラッシュすることがある。

ラーメン屋の行列で例えよう。次の順番のお客さんが4名、その次のお客さんが1名のときに、一人掛けのカウンター席が先に空いたので、
「順番前後しますが、1名のお客様先にどうぞー!」
と、行列の解消を優先して案内しようと思ったら、急にお店の社長がきて、
「時間がないから先に座らせてくれ」
と言ってきたような状態が割り込みタスクである。
これは断れない。先に社長を案内するしかないので、社長を案内する。先ほど案内しようとした1名のお客さんの冷たい視線を浴びながら。
すると次は、4人掛けのテーブル席が空いた。結果オーライとばかりに次の順番の4名のお客様に声を掛ける。
「テーブル席空きましたので中へどうぞー!」
するとその直後に専務一家が急に現れた。
「子どもたちにうちのラーメンを食べさせたいから、テーブル席、使っていいか?」
と。
そして、ラーメン屋は行列がぱらぱらと乱れていき、最終的に閉店してしまうのだ。やってられるかと言わんばかりに…

人間のクラッシュ

そんな感じで、PCは命令の行列をうまく捌けなくなると、クラッシュする。あっちをやって、こっちをやって、その途中でこれもやって…そんなことが続くとPCですらクラッシュするのだ。

人間も同じである。同時進行的に多くの仕事を振ると、たいてい作業者は時間に追われる。ここまではまだいいが、この中に緊急性の高い仕事を細かく差し込むと、凡ミスする確率がグッと高まる。この現象を、私は『人間のクラッシュ』と勝手に呼んでいる。

「Aの仕事の納期が今週で、Bの仕事は来週が納期だが、Bは仕様書を今週中に提出しなければならない。Aを優先して進めつつ、Bの仕様書をスキマ時間で片付けよう!」といった状況で、緊急で今日中に対応しなければならないCの仕事が差し込まれる。
こういう環境はよくある。そして、よくミスが起こる状況だ。
このような多忙な中でミスが発生してしまったとき、作業者は必ずこの言い訳をする。

「時間がなかった」と。

それは違うよと言いたい。そこで発生したミスはクラッシュを生む環境を作った命令者に責任があるよ、と。そう、私のようなPMとかである。

ひとつずつ仕事を任せたとき、あまり凡ミスというものは起きない。絶対に失敗しないなんてことはないが、未知のミスというか、今後に活かせる失敗が生まれる。

しかし、クラッシュが起きたときのミスはたいてい凡ミスなので、作業した側に責任が行きがちである。いやいや、クラッシュさせたのは命令した自分ですよ、という話だ。

人間にマルチ機能はない

PCはクラッシュしても、再度起動すればなんともなかったかのようにまた元気に働き出してくれる。(たまにそのままぶっ壊れるが)
だが、人間はそうはいかない。なんてことのない、たった1回のクラッシュで人は容易に壊れる。「気にしなくていいよ」、「たいしたことではなかったよ」、という励ましの効き目は人それぞれだ。効かない人には効かない。

そして、人間はPCのように明確な処理限界が見えるわけでもない。
PCのメモリが8GBだったとしよう。メモリの大きさで大体の処理許容範囲が見える。動画編集ソフトで作業しながら、ググりまくったり、メールのやり取りしたり、LINEも起動してたりすると、PCがクラッシュしたり、落ちたり、画面が固まったりするだろうなと容易に想像できる。

ただ人間はそうはいかない。許容できる処理の範囲は、人それぞれ見極めるしかないし、今日の体調によって左右されることすらある。だから、処理の許容範囲以下で、命令を出すしかない。でないと、またクラッシュして「時間がなかった」と言わせてしまうから。

全力で作ったものでしかPDCAは回せないのである。全力で作れる環境を、あれもこれもと、マルチに処理させようとすると、体力はつくがナレッジが生まれない。それでは意味がないのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?