#67 2021年上半期に読んだやつら
またこの季節がやって来た。
毎度の事ながら、規則正しく一年の半分を迎える頃に律儀に気温と湿度を上げてくるこの星の手札の少なさに嫌気がさす。夏は暑くなければならない、なんてベタすぎる且つ古典的な考え方に対して、もう叱る気にもなれない。
こんな愚痴をこぼしつつも、ビルの隙間から見える入道雲や、眩いばかりに汗を流しながらダイヤモンドを駆け回る球児の姿を見ると、悪いことばかりではないな、と頬を緩めてしまう。
そんな文字にするまでもない心境を恥ずかしげもなく書き連ねている2021夏。どうせ誰も聞いてくれやしない、私が上半期に読んだ本の感想をペペっと書くわよ。
・「三拍子の娘」町田メロメ
SNSで話題にもなっていたマンガ作品。
ある日突然親に捨てられてから10年。折原家の三姉妹は軽やかに、楽しげに日々を送っている。
基本一話完結型で三姉妹の日常を描いており、全体を通してほっこりと読み進められる。
個人的に、台風の接近によって天候が荒れ続いて一週間が経過した夜、酒に酔って普段なら絶対にしないような行動に出てしまう「この夜はいつまで」と、誰しもの日常で起こりうる些細なようで大きな失敗に直面した際の心情を描いた「慈悲ちょうだい」という話が好き。
特に「慈悲ちょうだい」は、情けない自分に対する悲しみと怒りの表現が最高でお気に入り。
・「うさことば辞典」絵 森山標子 編 グラフィック社編集部
うさぎカワイイ!モフモフしたい!と常日頃から考えている訳ではないが、表紙がカワイイだったので買った本。
うさことばとは、読んで字の如くうさぎに関する言葉であり、この辞典では第1章でうさぎを飼っている人達が生み出したうさことば、第2章で諺から地名まで日本で使われているうさことば、第3章で世界の様々な国や地域で使われているうさことばを紹介している。
個人的に好きなのは、「うさぎを置かれた」というフランスでの言い回し。理由はイラストがカワイイから。
・「一度きりの大泉の話」萩尾望都
少女漫画家の萩尾先生による自叙伝。
かつて東京都練馬区にあった借家であり、萩尾先生と同じく漫画家の竹宮恵子先生が住まれていた大泉サロンでの話を軸に展開されている。
この大泉サロンは二年で解散となるのだが、その間に多くの少女漫画家や編集者が集っており、その多くが後の少女漫画界を牽引していった。
萩尾先生は、かねてよりこの時期の話や竹宮先生とのその後の話に関して口を閉じていて、ファンからすると何が起きていたのかを本書で初めて知ることとなる。
なかなかのボリュームではあるが、読み始めるとすぐだった。まさに魂を削って書かれている、熱く、切なく、哀しい心打たれる作品だと思う。
・「夜と霧 新版」ヴィクトール・E・フランクル 訳 池田香代子
これまで縁のなかった超ロングセラー。知人の薦めで読んだが、言うまでもなくとんでもない作品。
言語を絶する感動と評された本書は、精神科医である著者が第二次世界大戦中に経験したナチスの強制収容所を、精神医学と心理学を用いて記されている。教科書でしか知らなかったその存在は、言葉で形容しづらい禍々しさであり、確実に文章で読んで感じる以上の恐怖と現実という地獄は、想像を絶する。
安直な表現ではあるが、絶対にこのような過ちを繰り返してはならないと考えさせられる作品だった。
余談だが、こういった海外の名著を日本語訳で読む時、英語をマスター出来ていれば原文で楽しめたのに......と思ってしまう。夏休みの英語の課題を答え写しながら消化していた、かつての私が忌まわしい。
・「処女崇拝の系譜」アラン・コルバン 訳 山田登世子 小倉孝誠
以前に記事で書いた、届くのが楽しみだった作品。神話や様々な作品から「夢の乙女」を引用して解説をしてくれていて、非常にわかりやすかった。
本書の考えが全てではないことは勿論で、私自身、こんな感じなのかな~と思う、納得しうる考え方は見えたような気がする。
意味が分からない方は以下をご参照。
性に関して様々な考えが乱立する世の中ではあるが、いち考えの材料として読んでみるのも面白いと思う。
下半期も頑張りましょう。
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