【お肉仮面とzoom飲み1時間企画】
「…だからぁ、『痩せたらかわいいのに』って侮辱罪成立しません?!」
ピンクのイルカ頭の人間がモニターに向かってくだをまく。テーブルの上にはチューハイが2缶転がっており、3缶目のグレープフルーツチューハイが空くタイミングであった。
モニターに映るのは奇妙なお肉に、虚空のような穴が開いた頭を持つ人間だ。お肉仮面は頷くでもなく首を振るでもなく身じろぎした。若干揺れているようにも見えるのは酔っているせいか。
【お肉仮面とzoom飲み1時間企画】に応募し、見事当選したイルカは過去の話題を出し、かれこれその話を30分以上話続けている。
「いくら女同士でも、言っていいことと悪いことありますよ!それに私、痩せてたときに何度か気絶して!階段から落ちたんです!だから無理!」
聞いてもいない情報を捲し立てて満足したのか、イルカはチューハイを一口のんでからお肉仮面に質問してくる。
「お肉仮面さんは痩せてる子と太ってる子、どっちが好みですか?」
邪悪な質問だ。痩せてる子を選べば「やっぱり男は見た目しか見てない!」、太ってる子を選べば「やっぱり男は嘘つきだ!どうせ痩せてる子が好きなんだ!」どちらを選んでも死!
しかし流石のお肉仮面、このデス質問に正答!
「そうですね……普通……自然体な方がいいと思いますよ」
「そうですよねー!無理してダイエットとか、美しくないんですよ!魂のゆがみ!」
お肉仮面の回答に満足したイルカは別の話題を出すことにした。
「そういえば前付き合ってた男なんですけどーてか付き合った男って別れたあと名前忘れません?私ひとりも覚えてなくてー」
記憶力が曖昧なのは酒のせいなのか、それとも元々なのかはわからないが、イルカは元カレの話を始めた。
「別れた後も電話してきてーなんか落ち込んでるとかで。そんなの知るか!って感じですよね!」
「はぁ……まぁそれは、そうですね」
お肉仮面は曖昧に返事をし、グラスに入った何らかの液体を飲んだ。口と思わしき器官は見当たらないが、酔ったイルカはそんなことは気にならないようで話を続ける。
「でー、その元カレに料理作った時なんですけど。ハンバーグと生姜焼きを作ったんですよ!それでー」
料理ができるアピールをしているイルカだが、残念ながらどちらも簡単な料理である。なお、生姜焼きに至っては市販のタレで調理した。
「ハンバーグと生姜焼きどっちがおいしい?って聞いたら、生姜焼きって言ったんですよ!私としては違う答えが欲しかったのに……お肉仮面さんわかります?」
2つ目のデス質問だ!ハンバーグと答えても「生姜焼きは高い肉使ったんですよ!」、生姜焼きと答えても「ハンバーグも一生懸命作ったのに!」となり、死を免れない。
「うーん……人が頑張って作ったものは、みんな美味しいと思いますよ」
お肉仮面、2問目も正解! ここまで生き抜いてきた瞬発力、判断力が光った瞬間である。
「わあ!お肉仮面さんありがとー!そうなんですよ!どっちも頑張ったんです!」
お肉仮面の回答にニコニコ顔のイルカは、4缶目のチューハイを開けた。
「それで最近の話なんですけどー」
イルカはまだ恋バナを続けるようである。だんだんと呂律が回らなくなってきているが、お肉仮面のダブル正答に上機嫌だ。
「恋愛もリスク分散が必要かなーって思っててーだって一人をすごく好きでもフラれたら超ショックだしー」
「はぁ……まぁそうですね」
「なんか恋愛で自分の調子が崩れるの嫌なんですよねーわかります?」
3つ目の設問だ!しかも今回は選択肢がない!どうするお肉仮面!
「ふむ……自立した大人の女性……というわけですね」
3問目も正解! イルカが本当に自立した大人の女性かどうかはわからないが、ともかく今この時は正解である!
ちょうどそのタイミングで、1時間のタイマーが鳴った。お開きの時間だ。
「えっもうこんな時間?! すみません私ばっかり喋っちゃって」
「あ……いえ……お疲れ様です。ではこれで……」
「はい!今日はありがとうございましたー!またツイッターでよろしくお願いします!」
お互いに軽く会釈をして、ZOOM飲みは終了した。
イルカは4缶目のチューハイを飲み終わったあと、満足した顔で眠った。
翌朝。イルカがツイッターを開くと、お肉仮面にブロックされていた。
おわり