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【第1話】平凡なおじさん、逮捕される
この記事は平凡なサラリーマンであった私が、逮捕された経験を自戒の念をもって書いたものです。自己紹介記事を先に読んでいただくことをお勧めします。
いつもと変わらない ある日の朝に・・
いつもと変わらないある日の朝、時間通りに起きて朝食をとり、そろそろ会社に行くのに着替えようかと思っているところで不意にチャイムが鳴った。
息子がドアホンで応答して「なんか誰か来てるよ」と言う。
「誰かな?こんな朝から」と思いながら玄関のドアを開けると6人ぐらいの人が玄関に立っていた。
「なんでしょうか?」
「〇〇さんですよね」と言われて、「はい、そうですが・・」と言ったところで瞬間的にハッと気づいた。
「警察の者ですが」とさっと警察手帳と捜査令状を見せられ、「違法なコンテンツをネットで販売していた容疑ですが心当たりありますよね?」
私もいきなりのことで気が動転してしまい「えっ、えっ、」と言っている間に警察官が玄関に入り込んでくる。そして、もちろん心当たりがあることだったので瞬間的に観念した。そして身体の力が抜けるのを感じた。
観念した私が小さくうなずいたのを合図にドカドカッと私服警察官6人が家に上がりこんでくる。
びっくりした妻が玄関で「どういうこと?どういうこと?何かしたの?」と聞いてくるが、答える余裕はなく「あとでちゃんと話すよ・・」と小さい声で言うのがやっとだった。
家宅捜索からの逮捕
警察官は私の部屋に陣取り、パソコンや外付けハードディスク、ネットワーク環境を調べ始めた。
もう観念していたので気持ちは比較的落ち着いていたが、家族のことが気になって仕方がない。しかも会社にも連絡しなくては。
「あのー、会社に連絡したいのですが」と聞いてみるも「もうスマートフォンは押収したので使えません」と言われてしまった。
ああ、どうしよう。これからどうなるのかな。でも、こういうのってドラマとかニュースで見るように朝いきなり来るんだな・・・とボンヤリとした頭で考えていた。
警察官に言われるがままに捜査の承諾書のようなものを書き、質問されることに答えた。そして、私が販売していた違法なコンテンツがパソコン内にあることを確認すると、その画面に指を差すよう指示され、それを写真に撮られた。
たまに心配そうな顔で覗きにくる妻ともほとんど顔を合わせられず、若い警察官にいろいろと質問され、また画面に指を差し、写真を撮られる。
そうして捜査は続いていく。
警察官の中に1人、女性がいた。この女性は私が所持していた違法なコンテンツについて「こういうのが好みなんですか?」「自分でも見たりしますか?」とズバズバと答えずらいことを大きい声で聞いてくる。きっと仕事柄慣れているんだろうなと思ったが、家族もいるのでちょっと困った。
私は小さい声で「ええ、まぁ」とは「はぁ、そうかもしれません」とあいまいに答えるのがやっとだった。
もう1人、捜査している人の中に気になる人がいた。たぶん捜査の責任者なんだろう、腕を組んで厳しい顔をしているちょっと年上の男性だ。
捜査も終盤になった頃、パソコンデスクの横の棚に私のスマートフォンがもう1台置かれていた。実際にパソコンを調査している警察官は気が付かないようで、私も心の中で「アレに気づかれないといいな・・」と思っていた。というか「気づくな、気付くな」と念じていた。
しかし、私の心の声を見透かすようにその責任者の男性が「そこにもスマホがあるな、それも押収しろ」と言った。がっかりするとともにちょっと流石だなと思った。
一通りの捜査が終わって、「私はこの後どうなるんですか?」と聞くと、「警察署で詳しいことを聞きます」と言われた。
「あの、妻とちょっと話したいんですけど」と言ったが「警察の方から話しておきます」と言われ、叶わなかった。
押収品として私のデスクトップパソコンと外付けハードディスク、スマホ2台が運び出され、最低限の荷物(お金だけ入った財布ぐらい)を持って部屋を出て、家の前に停めてあった警察車両の前で手錠をかけられた。
「〇時〇分逮捕!」と言われたと思う。玄関から妻が覗いていた。
たぶん泣いていたと思う。顔は見れなかった。
警察署へ連行される
警察車両の後部座席に警察官に挟まれるよう乗ると、自分の情けなさに涙が出た。
手錠をしていて、しかも鎖の部分をシートベルトで押さえられていたので手を持ち上げられなかったので涙が流れるままにしていたが、さっき部屋でいろいろ質問した若い警察官(田中さん・仮名)がティッシュを差し出してくれた。
お礼を言って、顔を手に持ったティッシュに近づけるようにして涙を拭いた。拭いても拭いても止まらなかった。
そして、これから自分はどうなるんだろう、家族は、仕事はどうなるんだ、という思いに押し潰されそうになった。
車は私の家を出発したが、私の事件を捜査していた警察署がだいぶ離れた場所だったため、しばらく車に揺られることになった。
その間もティッシュをくれた田中さんにいろいろと聞かれた。後でわかったことだが、まず最初の取り調べはその人の生い立ちや生活環境についての内容について調書をとるそうで、車内から取り調べは始まっていたという事だ。
田中さんは優しい口調で質問し、揺れる車内で熱心にメモをとっていた。
今までの自分を振り返りながら質問に答えていると、なんだかとても恥ずかしい気持ちになってきた。
今までの人生で自分は何かを成し遂げてきたのだろうか。あまり深く考えず、ラクな方、ラクな方に流されてしまった結果が今日なのではないかと今更ながら反省した。
もし、私の人生の中で良かったことがあるとしたら、妻と結婚して、家族を持ち、昨日まではささやかながらも幸せに過ごしてきたことだろう。
でも、私の安直な行動によってそれも壊れてしまった。
本当に今更反省しても遅いかもしれないと思うとまた涙が出てきた。
そんな私を気遣いながらも、田中さんは仕事を全うしていた。ある程度の質問が終わったところで警察署に到着した。
<続く>