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さよなら、モンスター ⑤ おかえり
私は町の印刷所を経営している。今は広告のチラシやハガキ、小冊子の印刷などで大して儲けにならない仕事ばかりの毎日だ。
この度、諸権利関係を整理して、「切り離して遊べる・元祖チョコモンステッカー」というシールブック形式のコレクター本を出すことになった。カードゲームとしてブームになる前の、古めかしくて幼稚な、そのぶん愛嬌のあるイラストばかりを収録する予定だ。
デザイナーの妻と社長の私、そのほか従業員はわずか5人の出版社だから、これが売れないと首が回らなくなってしまうかもしれないが、意外と不安はない。オフィスビルの社長室にいた頃よりも、今の方がずっと楽しいからだろう。
「ぼくは、昔のチョコモンが帰ってきてうれしい」
私の視線を感じたのか、チョコモン好きが高じたあまり、うちの従業員になった青年が声を上げた。
「そう思うかね」
「ぼくだけじゃない。みんなぜったいぜったい、楽しみにしてます」
私がうなずくと、青年は作業に戻った。チョコモンに関係する仕事が楽しくて仕方がなく、社長との会話などで時間を浪費したくないのだろう。
「邪魔して悪かった。作業を続けて」
青年はこちらを見もせずに、「はい」と返事をした。
「ありがとう」
私の声はもう耳に届いていない。あの手紙を送ってくれた青年は今、目の前の仕事に没頭しているのだ。彼の手元にあるのは、ファンに「無印」と呼ばれる、私が最初に目にしたキャラクターたちだ。
そのとき私の耳に初めて、彼らの「ただいま」が、はっきりと聞こえた。
(さよなら、モンスター 了)