能登に向かって|石川旅行記⑥

今日も家から一歩も出ていない。お昼ごろは気持ちのいい陽がさしていてお散歩でもしようかと思ったけど、なんだか気乗りせずやめてしまった。もしかしたら、水曜日の抜糸まで外に出ないかもしれない。小さいチョコを左側の歯で砕く。夜に向けて少し空気が冷たくなってきた。

前回の続きから。和倉温泉駅を出発した電車は、七尾湾側の海沿いを走り、終点穴水へと向かう。途中、車窓から見える七尾湾の景色は素晴らしく、歩きで見るのとはまた一味違った風景を楽しむことができた。とはいっても、疲れからか私はほとんどを爆睡に費やしてしまい記憶はとぎれとぎれだ。覚えている中で面白かったのは、結構な森の中を走ったことと、中学生の位の男の子が車外から「待って!」という風に戻ってきたときに、ほんのちょっと走り出していた電車が止まったことだ。電車ってバスみたいに止まれるんだと驚いた。

これはのと鉄道の公式が出している、「のと鉄道」の夏という動画である。謎の結構遠めの七尾湾から視点ではあるが、のと鉄道の雰囲気がよく分かる動画だと思う。私は帰ってきてから、というかさっきこの動画を見つけたのだが、なんだかシュールで面白い動画だった。

全体像はこの各駅・沿線情報の一番上に載っている画像がわかりやすいかもしれない。のと鉄道の沿線ではないのだが、ここに出てくる絵に載っている能登島にも行ってみたかったが、お金など様々な理由で今回は行くのを断念した。ぜひ次回は行ってみたい。

のと鉄道「穴水駅」

穴水にて

夢の中と能登の景色を行き来しながら40分ほど経つと、終点「穴水駅」へと到着した。穴水到着10分前から雨が降り始め、外は今豪雨である。穴水駅でもスタンプが押せるみたいなので忘れずにスケッチブックを開く。ここのスタンプのポケモンは「ニャオハ」だった。かわいい。外に出ようにも出られないので、駅の隣のお土産ショップにてお土産を探す。ちょっと雨が上がってきたので外に出て駅回りを散策していると、お土産ショップのさらに隣に「銀色のお地蔵さん」があるのを発見した。ありがたく休憩させていただいたのだが、すぐそばの「のと鉄道株式会社」の本社の損壊が目に入り、また複雑な気持ちになった。違う方に目を向けると、ポケモンのミルタンクと目が合った。駅ホームの階段に貼られていた装飾が、ちょうど柱と建物の間から見えたのだ。いくつか他にもポケモンがいたが、なんでミルタンクがチョイスされたのか、私は理由を考えたがわからなかった。
穴水に来た理由は、「今行ける能登まで行ってみる」ということだったので明確に行きたい場所というのがあったわけではなかった。どうしようか迷ったが、お腹がすいてきたので、ここ穴水で昼食をとることにした。気づいたら現金がもう全然ない。毎回落としたかなとも思うが、たいていどこかで使っているものである。ここで使ってしまっては、金沢おでんは食べられない。否、関係ない。私は今寿司が食べたい。寿司を食べよう。未来より、寿司だ。金沢おでんは、誰かとまた石川に来た際に「美味しいね」とか言って食べよう。今は、何より寿司である。そんな時、ネットで寿司を調べていると、あるお寿司屋さんの記事を見つけた。

お店の名前は「福寿司」というらしい。能登丼と特上にぎりは無理だけど、2000円の上にぎりならなんとか私も食べることができる。11時半の営業開始に合わせて、穴水駅で少し待ってお店へと歩き始めた。雨はもうほとんど上がっていた。

福寿司さん

「お寿司屋さんで、出されたお寿司を写真にパシャっとやるのは野暮ってやつじゃあないのか?」という謎の逆張り心が発動してしまったため、お寿司の写真はない。お店に入ると私以外にお客さんはおらず、大将の松本さんと女将さんはいろいろと話をしてくれた。私の出身地の近くに従兄弟が住んでいること、現在の穴水のこと、客足のこと、「君は放課後インソムニア」を教えてくれたのも大将だ。大将によれば、「花咲くいろは」というアニメも能登が舞台で聖地巡礼で来る人が多いそうだ。私は知らなかった。
話している間も大将は手際よくお寿司を握り、あっという間に、本当に美味しそうなお寿司が私の元にやってきた。私は記憶の上では回っていないお寿司屋さんでお寿司を食べたことがない。寿司下駄の上にのったお寿司たちを見て私は興奮した。緊張しながら、お寿司を口へと運ぶ。美味い、美味すぎる!最高!中でも「穴子」と「中トロ(たぶん)」は本当に美味しかった。最高だ!ふー!寿司を食べている瞬間だけは、疲労や嫌だったことは全て忘れることができた。私は、「どんな1日を過ごそうが、美味い寿司を食べれば幸せを感じることができる」という人生訓のようなものをはっきりと全身で理解した。それくらい「福寿司」のお寿司は美味しかった。となりに座った観光客がまた近くの出身地の人だったというプチびっくり展開もあった。
お寿司を食べ終わり、お味噌汁をすすっていると地元の常連のお客さんが入ってきた。お店に来るのが久しぶりだったようで、再会を喜ぶ活きた言葉が飛び交った。私は、「スキップとローファー」で聞いたり読んだりしてきた言葉の響きを実際に聴くことができてとても嬉しい気持ちになった。今日、ここでお寿司を食べることができて本当に良かった。これがこの旅のハイライトだ。

穴水駅に帰るまで

「穴水でのんきに寿司を頬張りし私の胸にワッペンは無く」

これは確か家に帰ってきたあとにつくった短歌である。福寿司に向かう時も福寿司から駅に戻るときも、私はボランティアの人たちを目撃していた。みんな胸にボランティアであることを示すワッペンをつけ、「穴水町 さわやか交流館プルート」の前で何かをしていた。この旅行中、ずっと私はどこかでのんきに観光してていいのかと薄く感じていた。のんきに行くという支援ももちろんあると思うのだが、美味しいお寿司を食べて浮かれまくっていた私は、ボランティアの人たちを見てより強くそれを感じてしまった。本当にのんきにお寿司を頬張っていてよかったのだろうか。ボランティアをなんとしてでもした方が良かったのだろうか。私にはわからなかった。
次の電車の出発時刻が迫る中、家族へのお土産も買っておきたかったので、私はダッシュで駅へと戻った。どうしたらいいのかはわからない。でも、とにかくまた来よう。どんな形であれ、また穴水まで来て福寿司で美味しいお寿司を食べよう。そう思った。今度は「特上にぎり」が食べたい。
次なる目的地を目指し、私は再び電車に乗った。

つづく。







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