ヤマト、ヒヤトイ戦記|追記版

0.はじめにの前に

いまから始まる「ヤマト、ヒヤトイ戦記|追記版」は、2024年3月に書かれたものに、少しばかりの追記をしたものである。そのため、話の主な部分は2024年2月中旬までにあったことについてである。それから現在までに8か月程度が経過し、変わったこともいくつかある。見えやすい場所への意見箱の設置や、労働環境に関する相談についての窓口を示したポスターの掲示など、様々な問題に対処しようとするヤマト運輸の姿勢がうかがえる。しかし、変わってないクソみたいなことも多々ある。たとえば、社員の言葉遣いや外国から来た人への態度はまったくもってクソだ。衛生環境なども相変わらずクソだ。改善の余地はきっと山ほどにある。

本Noteが、これからヤマト運輸でヒヤトイをする人、ヒヤトイに興味があって調べている人の役に立つなら幸いである。また、ヒヤトイという雇用形式からは縁遠い人にも楽しんでもらえたら嬉しい。大まかに「見出し1~5」は、ヒヤトイについての説明、「見出し6~8」はヒヤトイに関するエッセイになっている。最初の方は説明的な話が多く退屈してもらうかもしれない。後半のエッセイ部分だけ読むというのも、大歓迎だ。

最後に、留意点を2つほど付しておきたい。
1つは、これから書かれるのは「スポット」と言われるヒヤトイの雇われ方の話だという事だ。「ユニット」というヒヤトイの雇われ方もあるのだが、「スポット」とはまた少し仕事や流れが異なる。参考にしてくれる人は気をつけて欲しい。もう1つは、なるべく「3月に記したもの」に修正を加えていないという事だ。追記や誤字の修正などは行うが、なるべく言い回しや言葉の配置の修正は行わない。なぜなら言い回しや言葉の配置は、その時の雰囲気を無意識のうちに象徴的にあらわしている場合があると私は考えているからだ。憎悪満ち溢れている時と、ごきげんな時な時に書いた円の線形はきっと違う。文章でもそういうことが起こるような気がする。そのため、よっぽど変ではない限り極力修正は行わない。

「はじめにの前に」すら長くなってしまった。ここからはもっと長い。お付き合いいただける方、よろしくお願いしたい。
「ヤマト、ヒヤトイ戦記|追記版」の始まりだ。

『ヤマト、ヒヤトイ戦記』表紙
ヤマト運輸「船橋ベース」
JR津田沼駅バス停にて「送迎バスに乗り込む人々」


はじめに

ヒヤトイはクソだ。というのが私の一番思っている事である。たいして多くのヒヤトイを経験したことが無い私がそんなことを言う資格はないのかもしれない。私が経験したヒヤトイは日雇い業界のほんの一部に過ぎない。
それでもヒヤトイはクソだ、と言い切ってしまいたくなるほどヒヤトイはクソである。昨今、人間のする多くの仕事は、将来的に機械ないし人工知能にとってかわられると取り沙汰されている。ひどいヒヤトイ業務はそれらにとってかわられるべきだと私は考えている。人間を人間としてあつかっているとは思えない仕事ばかりだ。

しかし一方で実際、今現在ヒヤトイで働いているのは、まさしく人間である。おじいさんやおばあさん、制服や部活ジャージを着た高校生、多くの外国人、私。他の人と同じように、暮らしをしている人間たちだ。
ヒヤトイがその人たちの生活からある日突然消えてしまったら、どうなってしまうだろう。案外生きていけるのか、死んでしまうのか、バイトをすればいいじゃん、で済む話なのか。そんなジレンマもヒヤトイにはある。ともあれ、ヒヤトイはクソだ。

これからする話は、読んでくれているあなたには別の世界の話のように感じるかもしれない。私には関係ない話だと感じるかもしれない。
しかし、ひどいヒヤトイ業務は確かにあなたの世界や世間とつながっていて、あなたの生活を形成している。私が全く思いもしない人やモノや場所や風景が私の近縁、私自身を形作っているように、どこかの誰かのヒヤトイがあなたの近縁や、あなたを形作っている。
とはいえ、ひとまずは別の世界にトリップしているような気持ちで、私の日記を覗いてほしい。クソったれたヒヤトイ業務の世界を。
これは、私がヤマト運輸のとあるベースでヒヤトイをした日々の記録である。



1.ヤマト運輸について

ヤマト運輸についてごく簡単に説明しておこう。
ヤマト運輸は、Wikipediaによれば「1919年に小倉康臣によって東京市京橋区で創業」された「日本の配送会社」である。おそらくこれを読んでくれていてるあなたも一度は利用したことがあるであろう、あの黒猫マークの配送会社だ。
配送する荷物は、多岐にわたり、一般の荷物に加えて美術品の配送なども請け負っている。2024年1月現在には、配達を委託していた約3万人の個人事業主との契約を、日本郵政との協業拡大をきっかけに打ち切る、という事が問題になっている。(追記:加えて、2024年8月には男性従業員によるストライキが話題となり、熱中症対策をはじめとしたヤマト運輸の倉庫管理が問題視された。)


2.働いている場所

私が普段ヒヤトイをしているのは、ヤマト運輸船橋ベースである。ベースというのは、ヤマト運輸によれば「宅急便などの荷物を集めて行先別に仕分けをする物流ターミナル」である。簡単に言えば、たくさんの荷物の仕分け場だ。最寄り駅は、南船橋駅であり、京成線船橋競馬場駅からでも頑張れば歩ける。若者のお出かけキラキラスポット、ららぽーとTOKYO-BAY店やIKEAの裏を少し行った海沿いに船橋ベースはある。JR津田沼駅と京成津田沼駅からは送迎バスが出ており、多くの人がそれに乗って向かっている。ベースの名前を出すかどうかは迷ったが、記録として残すことにする。加えてこれを機に労働環境が整備されることなどがあれば、それ以上に嬉しいことは無い。


3.働いている人

私がヒヤトイしているベースでは様々な人たちが働いている。他の仕事、アルバイトなどと比較して圧倒的に違うのは、外国から来た人たちの多さである。私の体感では、ベースの現場に出ているヤマトの社員全体においては約半分、ヒヤトイ全体においては6~7割が外国から来た人である。彼らの主な出身国はミベトナム、タイ、ミャンマー、カンボジア、インド、パキスタン、スリランカ、中国、台湾、アメリカと多様である。中でもベトナムとタイから来た人たちが多い気がする。全体的に年齢層は20~30歳と言ったところだ。アメリカから来た人を除いて、英語が通じる人は少なく、外国から来た人たちはそれぞれの言葉か、日本語で話している。私が今まで話した人のうち何人かは、2年間の日本語学校に通っているという人がいた。ヒヤトイをしながら日本語学校に通うというのは、留学生の1つの型としておそらくある。

一方、日本人は高校生からおじいさんおばあさんまで年齢層は幅広い。あえて括るとするならば男女比率は7:3と言ったところだと思う。最近になって、学校終わりに制服や体操服、部活ジャージでヒヤトイにくる高校生が増えた。非情に傲慢な見方かもしれないが、その様子を見るとなんだかいたたまれなくなる。とても「ようこそ」という気持ちにはなれない。
学生らを除けば、あまりよくない言い方だが、日本人のヒヤトイは世間のはぐれものばかりのように思う。「初めてヒヤトイに来た」という日本の人を別日に再度見かけた事はない。(おそらくだが)みんな環境や仕事内容の大変さ耐えられずに辞めていく。残るのは、ずっとヒヤトイを続けているはぐれものたちばかりだ。はぐれものたちの中には、いわゆる「いい人」も「悪い人」も世間同様いるが、周りへのリスペクトを欠いた人間が多いのも事実である。当たり前だが、はぐれものにも色んなはぐれものがいるのだ。

そして、一応そういった人たちでも「ここ」では働いて生きていけるという、ヒヤトイがもつセーフティーネットとしての側面に留意しておきたい。これは、クソみたいなヒヤトイ労働がもつ唯一社会的にポジティブな一面かもしれない。ちなみに、(初めの頃、私は生意気にも「ストリートコーナーソサエティ」のウィリアム・ホワイトのようにフィールドワークをしているつもりで働いていたが、)かくいう私も今では立派な世間のはぐれものである。

ミニコラムⅠ

「3.働いている人」で書いたとおり、船橋ベースでは多様なルーツをもつ外国から来た人たちが多く働いている。おそらくそれは船橋ベースだけではなくヤマト運輸においてもそうだし、配送業だけではなく日本のあらゆる業種においてもそうであろう。労働者が働きやすい労働環境を整備するのは使用者の務めである。ヤマト運輸においても、(満足のいくものではないかもしれないが)いくつかの説明書きにおいては日本語以外の言語で記されていることがある。たとえば、これは「冷凍」です。を示す張り紙みは日本語の「冷凍」の他に、英語の「frozen」、ベトナム語の「 đông lạnh」、おそらくヒンディー語の「(すごく丸い文字、何もわからなかった)」表記があった。日本語と書いてあることは同じなのだろうけど、なんて訳されているのかどう書いてあるのか毎回気になるが全然読めない。

4.ベースに着いてから

送迎バスを降りた後、ベースに着いてからの流れを大まかに説明する。まず、入り口から廊下に進み、階段を上り2階のロッカーに荷物を入れる。ロッカーはダイヤル式である。たまにどこも開いていない場合があるがその場合は事務所に預ける。(追記:最近、ロッカーには小さいゴキブリがたくさん見られる。彼らにとってたくさんのロッカーはまるで団地のようだ。)

荷物を入れたら、階段を上り4階の休憩室へ向かう。時間になると注意事項の説明と点呼が始まる。点呼を受けたら同じ4階にある作業場へと向かう。作業場を少し進むと防具貸し出し場があるので、そこで防具の貸し出しを受ける。(といっても勝手にとるだけだが)防具はヘルメット、手甲ガード、安全靴でありどれもミドリ安全のものだ。本当のところはわからないが、おそらくヘルメットは1回1回除菌されてはおらず、実際すこし匂うものが多い。手甲ガードはたまに洗濯されて吊るされているのをみるが、常に清潔ということは無くみんな諦めて(もう無関心に近い人もいる)あきらかに使用済みなのを使っている。

貸し出しの際、今まで自分が履いていた靴を置く必要があるが、防具貸し出し場にはダイヤル式のロッカーなどはなく、小学校の教室の後ろにある木製のロッカーみたいなのに、それぞれ上が開いた段ボールがはめ込まれているだけだ。その段ボールに、この段ボールは「自分のもの」とわかるように、名前を書いた紙を張り付けることになっている。その際、「名前を書くペン」「名前を書く紙」「上を貼るためのガムテ」の3つをそれぞれとらなければいけないのでものすごく面倒くさい。個人的には防具貸し出し場は狭いのでもう少し広くし、貸し出す道具の管理をしっかりしてほしい。

防具の貸し出しを終えると、防具貸し出し場の前にある少しひらけたところに待機することになる。待機している人たちが自発的に整列して待っているということは無く、立って待つ人もいれば柱に寄りかかって待つ人、ちょっとした段差に座って待つ人もいる。(追記:この様子はさながらナルトに出てくる「中忍試験」のシーンのようであると当初書いていたが、「中忍試験」にそのようなシーンは無かった。なにかの漫画このようなシーンがあったように思うが、どうにも思い出せない。)

5~10分すると社員の人が何人か集まってきて、それぞれが受け持つ作業場に必要な人数をピックアップしていく。
つまり、われわれヒヤトイは基本的にはピックアップされるまで今日何の仕事をするかはわからないのだ。しかし、何度もヒヤトイに来ると、この社員さんはここの作業場担当というのがわかってくる。そこで慣れた人は、行きたい作業場にピックアップされやすい場所、行きたくない作業場にピックアップされにくい場所にて待機する。

私は、決まった行きたい作業場は無いが「小物」の作業場にだけは行きたくない。「小物」の作業が嫌なのではなく、明らかに業務で必要な範囲を超えた攻撃的な態度をとる社員がいるのが嫌なのだ。そこで、私は「小物」担当の社員がピックアップしに来ない(来るのはその人ではないが)、待機場の後ろの方で、おそらくベトナムから来た人たちと座っている。

ピックアップされた後は、作業場に向かい、そこで名簿に名前や派遣会社、就労開始時間を記入し、作業開始となる。以上がベースについてからの大まかな流れだ。なお上記に示したのはスポットというヒヤトイの雇われ方での場合であり、ユニットというヒヤトイの雇われ方場合はこれとは異なる流れになる。ユニットについては「2023年1月4日」の日記部分で少しだけ記述するのでそこを参考にしていただきたい。

ミニコラムⅡ

14:00から働く場合には、作業場によってそれぞれ開始時間は異なるが、1時間の休憩がある。船橋ベースでは、2階の事務所前、4階の点呼を行う休憩室、5階の食堂で休憩することができる。お弁当を食べたり、友達と喋ったり、家族と電話したり、寝たり、みんなそれぞれに過ごしている。普段はそれでいいのだが、時々休憩するための席が足りないことがある。繁忙期などはひどく、座れない人をちらほら見かける。そういう時、人々はどうするかというと地面に座る。その光景をよく見るのは事務所から目と鼻の先のロッカーの前の細いスペースだ。いくらかの人はどこから持ってきたかわからない段ボールを敷いている。私は、その光景を初めて見たとき、スラムか何かかと思った。もちろん、現実に存在するスラムのひどさとは到底くらべものにはならないのだが、それでもそう思ってしまうほど、仕事をする環境として普通ではないと思った。事務所の人たちはなんとも思わないのだろうか?見えてないのだろうか?明らかに労働環境としてはおかしい。あんなのはラッパーのいうゲットーだ。そして、今日もそんな環境で休憩したかもしれない彼らが仕分けた荷物が家に届くかもしれないのだ。

5.ヒヤトイの仕事について

ヤマトのベースでのヒヤトイの基本的な仕事を簡単に説明していく。しかし、私が経験していない仕事もいくつかあるので紹介できるのは全てではない。略図の灰色の箇所は、「ベルトコンベア」と「ローラー(コロコロ)滑り台のようなローラーがついている箇所」である。ベルトコンベアは回り続けこの上を絶えず荷物が移動している。

1階作業場の略図


①流し

「流し」とはその名の通り、運ばれてくるBOXから荷物をとり、
流れ続けるベルトコンベアの上に荷物を「流し」ていく作業である。

あそこまで酷くはないが、チャップリンの『モダン・タイムス』にでてくるレーン作業の様子を想像してもらってもよい。永遠と荷物をBOXから取っては、ベルトコンベアに載せていく。略図における「赤○」で示されているのが「流し作業」をしている人の略記号である。上記の「BOX」とは、セイノースーパーエクスプレス株式会社によれば、高さ200cm、横110cm、奥行き110cmの荷物を積み入れるための「箱」である。「BOX」には車輪がついていて移動可能であり、また、折りたたむことができる。略図においては「黄色い四角」で示されている。BOXの中には小さいものから大きなものまであらゆる荷物が載せられて運ばれてくる。流さなければいけない中でも重い荷物の例を挙げれば、ゴルフクラブ、お米、油、アルミホイールなどの車の部品、ペットボトルの入った段ボールなどがある。めちゃくちゃ重たい。

残念ながら、「流し」で荷物が丁寧に扱われることは少ない。荷物はお客様から預かった大事なものだが、みんなベルトコンベアにめがけて荷物を放り投げている。天地の指定が守れていることもすくない。大変だからといって許されるべきことではないが、大変だからみんな投げるのだ。物流量を減らさないとある程度は改善しないだろう。加えて、たとえ「大切に扱ってね」という文言が書かれていたとしても、実際「流し」をしている7~8割の人が外国から来た人たちなので、そんなこと言われても瞬時には読めないし、読まない。そして、読んでいる暇などない。

「流し」の仕事は肉体的には大変である。しかし、絶えず荷物をテンポよく扱う必要があり忙しいので、時間の進みが速く精神的には少し楽だ。これが「流し」という仕事である。

3つ目のリンクにはベース品質技能コンテストの様子が書かれている。写真1枚目は、流し作業部門で「声を掛け合いながら作業を実施」とある。コンテストなので理想的な所作を心掛けるのは当然のことだ。しかし、実際は(少なくとも船橋ベースは)違うというのを言っておきたい。「声をか掛ける」と言ったことは少なく、「怒声に近い何か」が飛び交う場合が多いのだ。いくぶん、1つ目のリンクにある『モダン・タイムス』の工場のシーンの画像の方が、ヒヤトイの「流し」の実情をよく表しているように私には思える。


②入れ替え

「流し」に付随する仕事が「入れ替え」だ。
「入れ替え」とは、BOXを「入れ替え」る仕事である。

運ばれてきたBOXを受け取ってロックを外し、扉部分をとり、「流し」をする人のもとまでBOXをもっていき、空になったBOXをたたんで所定の位置まで戻す、という仕事だ。手際よく、BOXを届けて空になったらたたむという事が求められるが、流しが荷物を取り終わりBOXが空になるまでは基本的に暇である。BOXのロックは劣化により外れにくい場合があるので、外れにくいときは蹴って外す。明らかに憂さ晴らしの一環として蹴っている人もいる。肉体的にはそこまでつらくないが、時間の進みが遅く感じられるので精神的には少し面倒くさい。


③枝取り
「枝取り」とは、流しがベルトコンベアに流した荷物を、
自らの担当するシューターへと引き取る仕事である。

「枝取り」という名前はおそらく、中央のベルトコンベアを木の「幹」に見立て、幹の部分から左右にのびる引き取り場(シューター)の「分岐している様子」を「木の枝」に見立て、引き取り場(シューター)へと、つまり「枝」部分へと荷物を引き「取る」という事からきている。略図において「緑〇」で示されているのが「枝取り」の人だ。

各シューターには扱う荷物の番号、「仕分けコード」が振り分けられており、「枝取り」は流れてくる荷物の「仕分けコード」を瞬時に目視で読み取り荷物を引き取らなければいけない。「仕分けコード」とは、6桁の数字から成り立っており(たとえば、23-48-38のように)、上2桁を親番、中2桁を子番、下2桁を孫番と呼んでいる。親番は各ベースの番号(00が札幌)、子番と孫番号は正確な情報がわからないので言及を控える。(追記:この「仕分けコード」はみなさんのもとに届くヤマト運輸からの荷物におそらく貼られているのでぜひ見てみてもらいたい。)

さて、「枝取り」の人たちが気にしなくてはならないのは、親番である。各シューターには、引き取らなければいけない番号(例えば親番80,81,82,83,84のように)が決められており、「枝取り」の人は自分がいるシューターの担当番号を記憶して荷物を引き取らなければいけない。荷物が流れてくるスピードは結構速く、量も多い。たまに荷物が重なったり、連なったりして番号が見えないこともあり瞬時に判断することが難しい。めちゃくちゃストレスが溜まる。

そして「流し」が重い荷物をベルトコンベアに載せるという事は、重い荷物を引き取る「枝取り」がいるという事だ。つまり、絶えず流れてくる荷物の番号を瞬時に視認し、荷物を引き取る身体の力が必要である。個人的には、難易度が高い仕事であり、精神的にも肉体的にもつらい仕事のように感じるが、多くの場合「枝取り」に配属されるのは女性である。


ミニコラムⅢ

もしかしたら、あなたは届いた荷物の段ボールの角が曲がっている!とトラックドライバーや配達員の人の顔を思い出して怒り心頭になったことがあるかもしれない。ちゃんと丁寧に運んでくださる?ドライバーさん、とムカついたことがあるかもしれない。かくいう私もそう思っていた。しかし、事件はもっと前に起こっているのである。

「流し」のところで書いた通り、大半の荷物は投げられている。そして「仕分け」セクションでBOXに荷物を積んでいく時、上に積まれた荷物の重さで荷物がへこんだりする。決してドライバーだけのせいではないのである。

流通には、本当に多くの人がかかわっている。私が子供のころには、というかこのヒヤトイをするまでは、荷物が生産者や生産拠点からからトラックで出発し、直接家まで届くいう超簡単な図式で流通が成り立っていると想像していた。しかし、実際はもっと複雑であり多様である。ベースのなかだけでも、少なくとも1つの荷物に対して「流し」「枝とり」「BOXに積む人」といった最低でも3人の人が荷物に絶対的に触れる仕組みになっている(おそらく本当はもっと多くの人の手に触れている)。これに生産者やドライバーを足すとさらに多くの人の手にわたり、あなたのもとに荷物が届くという事になる。

たまに「ドライバーさんへ、この荷物は大切なものだから大事に扱ってね」といった文言が印刷された段ボールを見かける。私はこれを見ると流通のことが何もわかってないと本当にイライラする。それは明らかにベースで働く人間の存在を消去した書き方だからだ。荷物がきれいな状態で手元に届くという事は悲しいが奇跡的なことである。それには目に見えない本当に多くの人がかかわっている。作業用の手袋をしているが、汚いところに触れたかもしれない、洗ってないかもしれない、特定不可能な顔も見たことのない多くの人の手によって荷物は私たちのもとへと届く。事実、ベースの衛生環境はとても良いとは言えない。気持ち悪い、お金を払っているんだからちゃんとしろというのはもっともなのだが、これが現在の日本の流通現場、そしてあなたのもとに届く荷物のリアルである。


④仕分け
「仕分け」というのは、枝取りがベルトコンベアから引き取り、シューターへと流れてきた荷物を、BOXへと積んでいく作業である。BOXにはそれぞれ番号の書かれた紙が貼って有り、荷物に貼ってある親番号と照らし合わせて荷物を積んでいく。たとえば、「23」と書かれた張り紙のあるBOXに仕分けコード「23ー56ー78」が貼られた荷物を載せていくという寸法だ。略図においては「青○」にて仕分けをする人たちは表されている。

枝取りが引き取る荷物に加え、機械で仕分けられた荷物が上から流れ込んでくるのでピーク時の荷物はとても多く、ひどいときの様子は「嘔吐」と形容したくなるほどだ。何かが「嘔吐」しているようにゴボボボボと段ボールが押し寄せてくる。言葉は汚いが、段ボールのゲボだ。

BOXに荷物を綺麗に積み込んでいくには、技術というか経験知が必要であり、軽い荷物の上に重い荷物を載せてしまうと破損の原因となる。絶えず荷物を積み込まなくてはいけないので、どうしてもグチャグチャに積んでしまう人が多いのが現状である。

前述の「仕分け」における荷物に貼られた「仕分けコード」の確認は、これまで目視でやっていたのだが少し前から「リングスキャナー」という指にはめるスキャナーとスマホ型の操作機器を用いて行わなければいけなくなった。「リングスキャナー」は親指でボタンを押すと赤いレーザーが放出され、バーコードを読み込むという仕組みになっている。まず、荷物に貼ってあるバーコードを読み取り、その後BOXに貼ってあるバーコードを読み取る。2つが照合されればOKという意味でピロリンと音が鳴り、荷物を間違ったBOXに入れた場合はブーブーと音が鳴る。荷物の仕分け間違いが多すぎて導入されたのか、トラッキング(荷物追跡サービス)のために導入されたのかはわからないが、荷物1つに2回のスキャンを必要とするので正直面倒くさい。

加えて、荷物があまりにも多くスキャンしている場合じゃない時は、「スキャンしなくていいよ」という事になっている。合理的な判断だとも思うが、「スキャンするのが絶対じゃないのか…」とも思ってしまう 。(私はそんな時、名コピペ集で挙げられることの多い「乗せなくてもいい仕事」というコピペを思い出してしまう。スキャンしなくてもいい仕事。)
仕分け済みのBOXは、海側(A)・陸側(B)あわせて30口ある引き渡し口に運ばれ、トラックに積み込まれていく。こうして荷物が各地に運ばれていくことになるのだ。

2階クール作業場の略図

1階につづきクール(冷蔵・冷凍)を担当する2階の仕事を説明する。略図の灰色の部分は1階の略図と同様に、ベルトコンベアとローラーである。「赤○」「緑○」「青○」は変わらず、「流し」「枝取り」「仕分け」をする人々を示している。作業場全体の大きさは1階と比べると小さい。


⑤流し(クール)

「流し(クール)」とは、2階の冷蔵・冷凍の荷物を扱う作業場であるクールでの「流し」作業である。

基本的には1階で行う「流し」と変わらず、BOXから荷物を取りベルトコンベアに載せていく作業である。しかし、流す荷物と使用されているBOXは異なる。荷物はゴルフクラブなどの箱に詰められていない重い荷物は無く、多くの場合が段ボールに入った四角い荷物である。そして、荷物はラッピング(シュリンク)されている場合があり、冷やされてツルツル滑るのが少しストレスだ。BOXは冷凍・冷蔵用の金属でできたクール専用のものを使っている。
(追記:このBOXは通称「スチールボックス」と呼ばれている)
(追記:スチールボックスは)通常のBOXよりも金属の部分が多いため、運ぶ時とても重たい。(追記:スチール)BOXには電気で中を冷やすタイプとドライアイスを入れて冷やすタイプがある。(追記:スチールボックスの他にも、通称「銀シート」と言われる折り畳み可能な軽い冷蔵・冷凍用BOXなどが存在する。)ちなみに、以下のリンクの中で「クール(冷蔵・冷凍)用」と示されているのがいわゆるスチールボックスである。

構内は気温が低く、寒い場合は上着を貸し出してくれる。アイスや楽しそうな荷物があるといいなって思う。


⑥枝取り
通常(1階)の枝取りと基本的な仕事の内容は変わらない。パスタの荷物が尋常じゃなく重たいので、連続で来たときはキツイ。


⑦仕分け
仕分けも通常(1階)と基本的な仕事の内容は変わらない。ただ大きく見て2点違うところがある。1つはリングスキャナーなどをつける必要が無いという点だ。なぜだかは(私には)不明だ。もう1つは、クールBOXの場合、荷物を積み込む度にBOXの扉を開け閉めする必要があるという点だ。家にある冷蔵庫と同じで、扉を開けたら閉めないとBOX内の温度は下がってしまう。しかし、荷物がすぐ来るのにいちいち開け閉めするのは面倒だという事で開けっ放しにしている人も少なくない。その場合、社員の人に怒られる(当然だけど)。1階のベルトコンベアは0型に回り続けているので、枝取りの人が自分の担当の荷物を取り損ねても次のターンで取ることができるが、2階のベルトコンベアは0型ではなく途切れており、荷物を取り損ねてもまた回ってくるということは無い。そのかわり、略図において流しをしている人と反対側の、一番奥のシューターに「とりこぼし」BOXがありそこに荷物が置かれていき、各シューターへ手動で運ばれていくことになる。

⑧小物
最後に「小物」の仕事を紹介する。「大きく分類すれば仕分け作業だが、上記の作業とは少し異なる作業をするのが小物を扱う仕事である。

「小物」は防具貸し出し場と同じ4階での作業であり、集められるときは「日本人の人~?」と聞くことでおなじみだ。おそらく、作業の説明が他よりは多いので、日本語が通じていないと厳しいという事なのだろう。

「小物」で14:00から働く場合はまず、段ボールの組み立てから始まる。平積みにされている段ボールを、赤いガムテープを使って組み立てていく作業だ。その後、運ばれてくる小物、ペラ1枚のDMや薄い段ボールの荷物など、が大量に運ばれてきて親番号ごとに仕分けることになる。素早い仕分けが求められることが多く、リズムのイメージとしては「忍者が手裏剣を連続で放つスピード」に似ている。

終わりに近づくと仕分けではなく、(おそらく、このベースに運ばれてきて役目を終えた)段ボールたちを解体する作業をすることになる。この作業を終えると、始めに段ボールを生み出し(組み立て)→段ボールを送り出し(小物をつめ)→段ボールを壊す(解体する)、という段ボールの一生を体験した気になる。重い荷物は無く、素早い作業が得意であればものすごい苦ではないのが「小物」の仕事であるが、前述のとおり攻撃的な言葉遣いをする社員が1名いるため、とてもおすすめはできない。ともあれ、小物を扱うのが「小物」の仕事である。


これにて、ヒヤトイのする主な仕事についての説明は終わりだ。もちろん、この他にもベースで行われている作業はたくさんある。たとえば、クール作業場におけるボックスの温度管理や、1階作業場での、ボックスを引っ張る人たちを誘導する「交通整備」などがある。
私の目には全く映ってない作業もたくさんあるだろう。本当に多くの人々の作業によって、荷物は往来をする。ここまで拙く歯切れの悪い説明だったと思うが、少しでもヒヤトイ作業の雰囲気について知ってもらえたなら嬉しい。

6.ヒヤトイでの出来事

ここでは、今までヒヤトイをやってきて印象的だったエピソードを3つ紹介する。 

「暗黒舞踏の話」

私がヤマトのヒヤトイを初めて間もないころ、あれはたしか2022年の5月とか6月とかだった。私は、流しAのちょっとした休憩時間に隣で荷物を載せていた人と話すことになった。足袋のような靴、流浪人のような風貌、私は流しをやっているときから、この男は劇作家に違いないと感じていた。どんな文言だったかは忘れたが、あちらから話しかけてきた。「大学生?」とかだったと思う。「そうです。」と私は返し、たしか「演劇に関係のある人ですか?」みたいに男の人に聞き返した。彼の名前は、津田犬太郎さん。一人称は「わし」だった。私の質問に、犬太郎さんはわしは「踊りをやっているよ」と返した。「踊り、ジャンルはどんなですか?」私は聞く。「わしがやってるのは舞踏だね」と犬太郎さんは返す。この言葉を聞いて私はビビッときた。きっと犬太郎さんがやっているのは「暗黒舞踏」だ。Wikipediaによると、暗黒舞踏(あんこくぶとう)とは、「土方巽らを中心に形成された前衛舞踊の様式で、前衛芸術の一つ」である。もし、暗黒舞踏を初めて知ったという方がいれば、お時間があればYouTubeに動画がいくつかあるので見ていただきたい。私は「暗黒舞踏」という名前を知っていて映像を見たことがあるくらいで、思想的な背景などは詳しくなく説明ができないので、実際に見ていただいた方がどういうものか理解がしやすいと思う。なぜ、私が「暗黒舞踏」という名前を知っていたかというと、通っていた大学の教授が土方巽に師事していた時期があり、授業で「暗黒舞踏」「土方巽」、土方の著作である「病める舞姫」という単語を聞いたことがあったからだ。この教授の授業は、いいかげんなところ(もちろん学問においては誠実であるが)もあったが、毎週楽しみだった。私はむしろそのいいかげんさが好きだった。そんなこんなで私は「暗黒舞踏」という言葉をしっていたので、犬太郎さんに「もしかして、暗黒舞踏ですか?」と聞いてみた。すると犬太郎さんは「そうそう、よく知ってるね」とちょっと驚きながら笑っていた。大学の教授が「かくかくしかじか」と話したら、休憩明けに犬太郎さんが、「調べたら、わしその人の舞踏に関する文章読んだことあったわ」と言ってきた。なんとも不思議な縁である。犬太郎さんは流しの仕事について、私が「大変じゃないですか?」と聞くと、「流しは時間が過ぎるのがはやいから、わしは好き」と言っていた。また、「荷物を載せる時、この筋肉はつかわないようにしてみよう、次はこの筋肉を」みたいなのが楽しいと言っていた。身体をあつかう舞踏家らしいと思ったけどちょっとこわかった。暗黒舞踏家のとなりで流しをしているという、謎の恐怖とともに私はその後荷物を流し続けた。

「時間の話」

22:00まで、14:00から働く場合は7時間(休憩1時間)、17:00から働く場合は5時間、労働に向き合わなければいけない。労働は苦痛である。早く時間が過ぎればいいのに、と思う。そういう時私は気の持ちようを変える。時間とは不思議なものだ。

たとえば、17:00から22:00まで働く場合このように考える。〈21:00になってしまえば、22:00まで「あと1時間だから」と頑張れる。つまり、21:00になってしまえば「実質」今日の労働は終わりである。そんな21:00は、20:00からあっという間である。だから20:00になれば「実質」21:00になったも同然だ。20:00は19:00と1時間しか変わらない。じゃあ、19:00になれば「実質」20:00のようなものだ。そして、19:00は18:00から1時間頑張ればすぐである。ということは19:00とは18:00だ。〉という具合だ。まとめて言えば、なんだ、17:00から1時間頑張って18:00になれば、それは19:00であり、20:00であり、21:00であり、もっといえばもう22:00のようなものである、という感じだ。くだらないし、詭弁きわまりないけれど、この気持ちの持ち方で私は少し救われるのだ。不思議であるが気の持ちようで時間の流れ方は少し変わる。

「利他の話」

ひどい環境で働く人々は、日本人であろうが外国から来た人であろうが、「自分さえよければいいや」という利己的な行動に走りがちだ。順番は抜かされるし、入り口付近ではめちゃくちゃ押されるし、使った防具は適当に返却されている。たくさんいるヒヤトイ労働者においては、自分と仲間と友達以外は、互いに「匿名のだれか」でしかない。防具も、場所も自分のものではない。荷物だってそうだ。荷物も単なる「匿名のだれか」のものに過ぎない。別にその人たちや、モノや場所の利になることをしても、自分と仲間と友達を含めた「自己」に利はないのだ。こうしてみんな利己的な行動をする。ある日のことだ。そんな環境の中、私は「利他的」であると言ってよい人を目撃することになる。
通常ヒヤトイは防具の貸し出しを受ける。安全靴に履き替えた後、自分の履いてきた靴をロッカーに入れる必要があるのだが、船橋ベースにおいてはロッカーではなく並べられた段ボールに入れることになっている。その際、段ボールに自分の名前を書いた紙を貼らなければいけないのだがこれが結構面倒くさい。人が多い貸し出し場入口において①名前を書く紙②紙を貼るためのガムテ③紙に書くためのペンを獲得する必要がある。それもそれぞれ数は全然おいていないので、争奪戦になり人がごった返すことも少なくない。改善の余地が大いにある労働環境なのだが、そんな時私はある人を目撃する。その人は、50くらいの小柄なおばちゃんなのだが、争奪戦になるはずのガムテを当たり前のようにちぎり1人ずつに渡し始めたのだ。「はいよー」みたいな感じで、まるでそうすることが当たり前かのように、何かに貫かれたように、人々にガムテをちぎっては渡す。普通そんなことをするのは面倒くさいし、そんな義理もない。自分の準備もあるはずだ。それでもちぎっては渡す。私にはそれがものすごいことに見えた。とても「あかるい」。性格的な「あかるさ」ではなく、もっと「ひらけた」何か。「利他的」とはこういうことかとハッとした。この「あかるさ」「ひらけた」感じ。すぐ環境のせいにする私は恥ずかしく思った。あの瞬間はそれほど私にとって衝撃だった。


7.ある3日間の記録


2023年12月4日

14:00からの船橋ベースでの仕事

13:30にヤマトの企業バスが着くため、それまでにバス乗り場にいなければいけない。私はたいてい早めに家を出てバス停近くのモリシアの中にあるブックオフに立ち寄る。その日も家を12:30ごろに出発した。ブックオフで本を眺めるのは楽しい。美術館で絵をみる、という事に近いかもしれないと私は感じている。近づいて見たり、遠くから眺めて絵の好きな箇所を発見する。それと同じように色んな仕方でみて本をみて、お気に入りの1冊を探し当てる。お金が無いので110円~210円コーナーしか見ないけれど。この日は、鶴屋香央理さんの「メタモルフォーゼの縁側」の1巻と「don't like this」を買った。楽しみ。買った本をもって、バス乗り場へと向かう。

バス乗り場は大きな歩道橋から何本もおりている階段の下にある。そこにはヤマトだけではなく他の企業のバスも往来している。バス乗り場につくと人がごった返していた。私が初めてこのヒヤトイに行った2022年の5月ごろには人々の空気によってつくられた列があったようなきがするが、今は無いに等しい。各々が携帯を観たり、知らない言葉のYouTubeを炸裂させていたり、友達と話していたりする。私はさっき買った「メタモルフォーゼの縁側」を読んでバスを待った。13:32頃バスが来た。表現が悪いが、池に1つだけ落とされたパンに一斉に飛びつく魚みたいに、人がバスの内めがけて突進する。最後は袋詰め状態だ。それでも、人が乗りきらなかった。「入らないのこれ!入らない!入らない!」と慌てて前の丸刈りのおじさんが言う。たぶん初めての人だ。慌てない、こういう時に私はどうなるか知っている。どういう仕組みかはわからないが人が多いときはもう一台バスが来るのだ。少ししてバスが来た。バスに乗ると2台目なので座れた。それでも人が多いので、私は流されるがまま一番奥の長い席の中央の席に座った。さっき慌ててまくし立てていたおじさんは死に物狂いで乗車し、凄い勢いで人をおしのけて前方の席を勝ち取っていた。

バス乗り場から船橋ベースまでは、10分ちょっとでつく。一息ついて私は、漫画の続きを読みだす。隣に座っている人は、しきりにスマホを確認している。初めての人だ、と思った。何回かこのヒヤトイをやったおかげで、今日初めてこのヒヤトイをする人の挙動がなんとなくわかる。そのたびこんなクソみたいなところになんでと思うが、人には人のそれぞれの事情がある。バスを降りると、入口への列に続き、ダンジョンのような建物へと入っていく。長い廊下を抜け階段を上ると荷物を入れるためのロッカーが乱立する2階につく。各人空いているロッカーを探し出し、荷物を入れる。ロッカーはダイヤルロック式なのだが、ダイヤルのナンバーより忘れてはならないのが、ロッカー自体に振り分けられた番号である。仮にダイヤルのナンバーを忘れた場合は鍵を使って受付の社員さんに開けてもらうことができるが、ロッカー自体の番号を忘れた場合はいくつものロッカーを確認のために開けてもらわなければならないことになるかもしれないからだ。私はだいたい語呂合わせをつくって覚える。今日は、403。「しおみ」だ。特別意味はない。

荷物を入れ終わり、点呼が行われる4階へと向かおうとしたとき、前述の死に物狂いおじさんとバスの隣で座っていた女の人が、初めてなのでどうしたらいいか戸惑っていた。ヤマトのヒヤトイの怖い点は1つここにある。初めての時、ヤマト側から点呼の行われる4階に到着するまでの説明が1つもない。一応、派遣会社が流れをメールで送ってきてくれて入るものの、文章と実際の現場はやはり違うので混乱する。さらに派遣会社が間違って書いている場合もある。つまり、初めての場合は、1人でダンジョンを抜け、2階のロッカーを勝手に使い、また違うダンジョンを進み、4階へとたどり着かなくてはならない。これを「周りの人がそうやっているからそうなんだろう」という勘で行わなければならないのである。私も初めての時は、ひどく混乱した。誰も何も教えてくれないから。では、私は2人にこの時親切にしたか。しなかった。私も私で、あちらから聞いてこない限りは何もしないという最低スタンスになっていた。女の人に「お助けしましょうか」みたいに進んで声をかけるのはなんだか気が引けるし、死に者狂いおじさんには生意気にも手を貸したいなどとは思えなかった。どっちかに声を掛けたらどっちにも声を掛けなくてはならない気がして、結局どっちにも声を掛けないことにした。13:55、就業開始時刻である14:00の5分前になっても2人の姿はまだ4階には見えない。私はそわそわさせられた。少しの罪悪感からくるそわそわだ。2人に声をかける勇気や度量はなかったが、このそわそわと8時間つきあう忍耐力も私にはなかった。

結果的にそわそわが勝った。私は2階へと急いで戻り、2人を探した。女の人がロッカーの前でまだ困っていた。「初めてですか?大丈夫ですか?」と私は聞く。「ロッカー勝手に入れちゃったんですけど大丈夫ですか?...」と女の人は返す。ロッカーを勝手に使う、までできていたので上出来である。女の人は2階に人がいっぱいいたので、2階で点呼が行われるものだと思っていた素振りだったが、無事に一緒に4階まで行くことができた。死に物狂いおじさんはどうしたんだ、大丈夫だろうか。点呼は4階の休憩室で行われる。休憩室は結構広い、なんと形容していいかわからないがそこそこ広い。点呼は就業予定時刻の14:00より始まる。それまではおじさん社員が毎度おなじみの注意事項を読み上げる。この役回りをする人は、他に超攻撃的な態度をとるおばさんがいるのだが、おばさんは注意事項をちゃんとは読み上げない。
おじさん社員は1から10までしっかりと読み上げる。大事なことだと思う。しかし、人々はあまり説明を聞いていない、どころかおしゃべりをしている。結構な人数がそこそこの声量で。おじさん社員は「ちょっと、ちゃんと聞いて!あとでわからないって言いっても知らないからね!」と怒っている。なんでこうなるのか。たくさん理由はあると思うがダントツなのはその場にいる人の多くが外国から来た人たちだからである。私の体感、6~7割が外国から来た人たちだ。つまり、多少のレベル差はあるにせよ、多くの人が日本語としておじさん社員が何を言っているのかわかっていないと思われる。「おしゃべりがうるさい!」と怒っていることに関しても、人々は語の意味が分かっているというよりか、表情と声量であの人怒っているなと判断しているように見える。分からない言語で喋られても...おしゃべりしてた方がいいとなるのもわからなくはないし、働きに来ているんだから静かにしてわからなくても雰囲気で理解しろというのも納得できる。しかし、現在の日本の流通が外国から来た人頼りなのはわかりきっていることなので、ヤマトは何か策を講じるべきだと思う。例えば、モニターを設置してマジョリティの言語、ベトナム語や英語などで説明を翻訳したものを表示するなどだ。毎回の注意事項は定型文なので、表示することに関してはそこまで難しくはない。多少のコストはかかってしまうが、なにより事故や行き違いが減るのならそっちの方が良いと個人的には思う。

説明が終わり、今日は14:00を少し過ぎてから点呼が始まった。このベースに日雇いを派遣している派遣会社は約20社ある。日本人が好きそうな一見スタイリッシュカタカナ会社名が続く中、ひときわ目立つ派遣会社名がある。派遣会社「地球人.jp」である。点呼では1つの机に対して3つくらいの派遣会社の名前が順番にコールされる。そこで人々は、○○(派遣会社名)の、○○(自分の名前)を名乗る。つまり、「地球人」の方~(.jpは100%省略されて)とコールされて、「地球人」の○○ですと名乗る。めちゃくちゃ変だ。人が自分の身分を「地球人」とかたることを私は人生でこれ以外、見たことが無い。
今日の仕事は、Bの流しだった。流しは運ばれてくるボックスの荷物を、ずっと流れ続けるベルトコンベアに乗せ続けるという仕事だ。ただ黙々と今日も私は荷物を載せ続けた。

16:00になって1時間の休憩となった。私は自動販売機でベビースターみたいなやつとクリームパンを買って4階の休憩室へと向かった。この日は、人が特に多かったのか広い休憩室の席がすべて埋まった。私は知らない(おそらく)インドかパキスタンから来た人たちに囲まれて机のない席でご飯を食べ、本を読んだ。休憩が終ると、私はまた黙々と荷物ベルトコンベアへとを載せた。「流し」のいいところは、肉体的な疲労と苦痛はあるものの、時間のすすみが速い(ような気がする)ところだ。それでも休憩明け残り5時間は精神的にきついものの、なんとか21:00まできた。この時間になると一旦荷物が落ち着き少しだけ時間ができる。1人が話しかけてきた。適当にヘルメットをかぶり、にくくも上手くさぼっているなと感じていた男だった。「お兄さん何人?」、ヤマトで人から話しかけられるときはたいていこれから始まる。「日本人です。」と私は答える。「日本人?」と聞かれる、「お~笑すみません」と続けて言われる。こういう場合、私はたいてい「中国の人だと思った、間違えてごめんね」と思われている。私も「ど、どこの人ですか?」と返して聞く。一般的に、相手に「何人?」と聞くのは相手のルーツに深く踏み込む質問であり、慎重にならなくてはいけない。でも、ここではお互いに何人と聞くことが会話を始める作法となっているので私も聞かれた場合はこう返すことにしている。「中国人です!」と相手は返す。中国の人から見ても私は「中国人顔」らしい。名前を聞かなかったので、この人の事を「小岩」と呼ぶことにする。小岩に住んでいるらしいので、小岩だ。小岩は陽気でふざけた感じの人だった。「1人暮らし?」と聞くと、「彼女と2人で!」だそうだ。小岩は「お兄さん彼女は?」と聞くので、私が「いないよ」と返すと「さびしいですね~!」と言ってきた。ふざけた野郎である。小岩は21歳、彼女は25歳。私は小岩を小突いた。恋愛の話が終り仕事の話になると、私は小岩に「ヤマトは(指で地面をさしながら)、クソです(手でBADマークを作りながら)」と言った。そうしたら、小岩は「そうですね~!」と言っていた。小岩がそう思っていなかったとしても、共感してくれたことがうれしかった。私はちょろい。

21:30頃になると、今日ベルトコンベアに乗せる荷物がなくなり、私たちはボックス運びをさせられた。各地より到着したトラックから降ろされたボックスを番号を見て運ぶ仕事である。小岩はまためちゃくちゃ上手くさぼっていた。1BOXを運ぶのには1人いればいいのだが、いかにも運んでますよ的な感じで私が運ぶBOXに手をかけついて来たりしていた。めんどくさいから「構内を散歩しようよ」とか言ってきたが、私は怒られるのが嫌なので、「いやだ」と言ったら小岩はへらへらしていた。なんとか今日も22:00になった。私は防具を返し、4階の休憩室で点呼をすませ、バス乗り場へと向かった。バスを待っていると、死に物狂いおじさんがいた。無事に就労できたんだろうか。ほんとうにちょっとだけの罪悪感を思い出していると、おじさんが後ろから来る友達に話しかけ始めていた。それは日本語ではなく、おそらく中国語だった。中国語は全く分からないが、おじさんが扱っていた日本語と比べて中国語の方が流暢に、ネイティブとして話していたように感じた。仮におじさんが中国から来た人だったとしたら、どんな気持ちで今日初めてバスに乗って、初めてこのベースで働いたのだろう。言葉は通じるにせよ、ホームではない場所でとても不安だったかもしれない。死に物狂いだったのも何か理由があったのかもしれない。とかなんとかいっちょ前に少し後悔した。
駅から、家まで帰る。今日も労働してしまった。


2023年12月7日

14:00からの船橋ベースでの仕事

前回、12月4日の仕事の際、家を出るのが少し遅くて水を買うやら手袋を買うやら、恒例のブックオフに寄るとかで、とてもあせあせと駆け足になってしまっていた。

今日は家を早めに出て、11:40頃にバス乗り場周辺に着くことができた。コンビニで水と、お昼を食べてなかったので焼きそばパンを買った。喫煙所でタバコを吸い、いつものブックオフへと向かう。本を持ってくるのを忘れたので、何か買おうと店内をさまようが、欲しい漫画も本も見当たらない。こういう時は好きな作家に絞って50音コーナーにて探す。

私は、江國香織さんや森絵都さん、吉本ばななさんが好きなので、「え」や「も」や「よ」をよく探す。「え」を探していると、江國香織さんの「つめたいよるに」を見つけた。「つめたいよるに」はショート・ショートと言えるものでいくつかの短編が編まれていた。私は「デューク」が先頭にあるのを見つけた。「デューク」は中学か高校だったかは忘れたが、国語の教科書に載っていた気がする。今日はこれにしようと決めレジで110円の会計を済ませバス乗り場へと向かう。バス乗り場は、前回よりは人が少ないように思えたがそれでもいっぱいだ。12:26頃1台目のバスが来た。やっぱり人がぎゅうぎゅうに乗る。

私は順番的に1台目にぎりぎり乗れない、列の2台目先頭ポジションとなった。1台目が出発する時、人がぎゅうぎゅうに乗りすぎて男の人のバッグがドアに挟まっていた。それでもバスは頑な出発しようとするので、バスのドアがバッグを嚙み切ろうとしている。バスは苦しいというより、なんとかバッグを噛み切ってやろうという風に見えた。これでは危ないと、次のバスを待つ隣の人と、バッグをバスの口の中へと押し込む。バスはさすがに出発を一時諦め口を開いて人とバッグを迎え入れた。2台目のバスが来て、私は一番前のタイヤ上、突きあがった席へと座った。ベースまでの車内、「デューク」を読んだ。なんだか懐かしさと、こんな話だったっけ、という思いを抱きながらページをめくった、「夏の少し前」という短編がなんだか短い演劇のようで面白かった。

ベースに着くといつものように肩掛けバッグをロッカーへとしまった。今日のロッカーの番号は430、シザムだ。意味はないけどこれで忘れない。4階の休憩室へ向かう途中、また初めてっぽい人を横目に通り過ぎた。何をしたらいいかわからない様子だった。でも、私は足を止めず、列と一緒に階段を昇って行った。休憩室で座ってさっきの人の事を考えるが、別にバスで隣に座ったとかではないし、私が声を掛けなくてもよい、と気持ちの中で結論づいた。私は、理由が無いと人に手を貸すことができない最低な人間になってしまったみたいだ。客観的にみて、良くないと思う。その後、私は何食わぬ顔で点呼をうけ、防具置き場へと向かった。今日も「地球人の方」という声が聞こえた。

前回同様、今日の仕事も「流し」だった。
前回はA、今回はBの「流し」だ。一旦、リングスキャナーをつかった「仕分け」に配属されかけたが、人数の調整でやっぱり「流し」になった。今日も変わらず、黙々と荷物をベルトコンベアの上に置き続ける。Bにはがっしり強面社員がいたので、いかにも「僕、ちゃんとやってますよ」という雰囲気と顔で仕事をつづけた。16:00になると半分が休憩に行った。私の今日の休憩は17:00からだった。16:00~17:00の間は人員が半分になるからか、荷物の量も少ない。黙々と作業した。少し手が空くと、1人が話しかけてきた。「お兄さん、日本人?」いつもの決まり文句から会話は始まる。彼はベトナムから来た22歳だった。東船橋に住んでいるらしいので、東船橋とする。東船橋は、小岩と違って「大丈夫、疲れた?」とたびたび聞いてくれ、誠実に仕事をするタイプだった。「お兄さん、彼女は?」と東船橋に聞かれる。いつも通り「いないよ」と返す。小岩もそうだが、実は以前にも「彼女はいるか?」と聞かれたことがある。また、これについて聞いているのを、聞いたことがある。つまり、「彼女がいるか」というのも「あなたは何人か」に続く、会話の潤滑剤としてここでは機能しているのだ。東船橋は小岩と同様「さびしいですね」と返してきた。東船橋には、日本で出会った中国人の彼女がいるらしい。「彼女調べたほうがいいですよ」と東船橋は続けた。ベトナムでは彼女を「調べる」というのか、単なる日本語の間違いか、マッチングアプリの事を指しているのかわからないが、なんだか不思議だ。私は東船橋を小突いた。余計なお世話だと毎回思っているが、確かに少し寂しくなった。

17:00になって休憩の時間となった。私はショルダーバッグを獲りにロッカーへと向かう。430、ダイヤルを回してバッグを取り出すと、家から持ってきたはずのスマホの充電コードが無いことに気づいた。どこかで落としてないといいが、今は家から持ってき忘れたんだと暗示をかけることにした。はモヤモヤしながら財布を取り出し、自動販売機でちゃんぽん味のカップ麺と、チョコチップクッキーを買った。休憩室では17:00から働く人たちの注意説明が行われており、おじさん社員が14:00の時と変わらずぷんすか怒っていた。たぶんおじさん社員は毎日怒っている。カップ麺が出来上がるのを待つ間、クッキーをぼりぼり食べながら私はさっきの東船橋との会話を思い出していた。東船橋は恋愛の話が終ると、「お金があったら何をしたいですか?」と聞いてきた。とっさに答えが思いつかなかった私は、「えー、何がしたいですか?」と聞き返した。そうすると東船橋は「ベトナムで水の会社をしたいです。」と答えた。多分話の感じからして、水道会社ではなく、ペットボトルなどの水を売る会社という感じだった。ベトナムではこの手の会社が少ないらしい。立派だなと思った。「日本の生活は忙しいです」と東船橋は笑っていた。

ちゃんぽん意外とおいしいなとか思いながら、ゆっくりとした。食べ終わってからは「つめたいよるに」の続きを読んで、充電コードの事を思い出しては絶望した。

18:00、仕事に戻る。17:00から休憩のいいところは、休憩後の仕事が5時間から4時間になるので、気持ち的には16:00から休憩より少し楽だ。また黙々とベルトコンベアに荷物を乗せ続ける。20:30になると疲れてきて見かねた(おそらく)ベトナムから来た人が載せるのを変わってくれた。私はその後ろでBOXをベルトコンベアまで運び、荷物を下ろし終わって空になったBOXをたたむという「入れ替え」という仕事をした。21:00頃になるとまた少し暇ができて、私はBOX運びの方に移動させられた。永遠とBOXを運ぶ。運び終わった後、次のBOXを運ぶ場所までゆっくりと歩いたりする。今日はBOX運びの人員が余って、長い列ができていた。どんどん運ばなくてはいけないいつもよりは楽だった。

ヤマトは22:00ちょうどと、22:30頃にバスが出ている。このベースでの、少なくとも1階の作業場の、ヤマトの業務の考え方は、その作業場で22:00を迎えるというものだ。※しかし、これは労働基準法的には黒よりのグレーである。私たちは帰るまでに現場から離れて、防具を返しに4階に行き、点呼を受けなくてはならない。法律では制服の着脱も業務と解釈することが多い。つまり防具の返却までを22:00までに含めるべきである。しかし、1階以外の作業場では、21:45~50ごろなど早めに終わりになる場合もある。加えて、1階でも、うまく社員の目を盗んで早めに切り上げる人もいる。そして、人々はなんとか22:00ちょいのバスに間に合おうとするのだ。私はゆっくり帰りたい派なので、急いだりはしない。この日も21:58頃(それでも少し早めに離脱しているのだが)に作業場を切り上げ点呼の行われる4階へと向かった。バスに間に合うため人々は足早に階段を降り、私はゆっくりと階段を上る。「あ、」颯爽と階段を下りる小岩がやってきた。木曜日はいないと言っていたのにいた。こいつは今日も上手にサボったんだろう。じゃないとこの時間に防具を返却し、点呼を済ませ、荷物をもって私とここですれ違うことはできない。小岩も私に気づき、にやにやしていた。私は小岩を小突いた。憎めないクソ野郎である。

そういえば、今日が初めての人はちゃんと働けたのだろうか。少し思い出してすぐに忘れた。バスに乗り、駅へと帰る。ちなみに、家に帰って充電器を探したが見つからなかった。どこかで落としてしまったのだ。
私は再度絶望した。

2023年1月4日
17:00からの船橋ベースでの仕事

久しぶりの、そして新年初めてのヒヤトイへと向かう。ブックオフの20%オフセールが今日までのため1時間前にバス停周辺に着くようにした。手袋も買わないといけない。年末大掃除で汚して捨ててしまった。ブックオフはいつもより少し混んでいた。私はいつも通り110~220円コーナーを観察し、千葉雅也さんの「デッドライン」とくどうれいんさんの「氷柱の声」を買った。レジでいつもは使える100円引きクーポンが使えず、440円の20%、つまり結局いつもより低い88円の値引きになりちょっと「ちぇっ」と思った。ブックオフにおいて20%は絶妙な割引かもしれないと感じた。となりのビルのダイソーで手袋を買いバス停へと向かう。

バス停は明らかにいつもより人が少なかった。ごった返してない。それは14:00からではなく17:00からの就業だからか、年始だからか私にはわからなかった。そしてふと、みんなどんなお正月を過ごしているんだろうとふけった。ヒヤトイには外国から来る人が多い。この日本、どこからだってきっと遠い異国の地でみんなどんな新年を迎えているだろうか。各々ルーツのある国の文化にのっとったお正月だろうか、それともお餅、食べたりするんだろうか。16:30くらいにバスが来た。なんか悠々と後ろの座席に座れた。車内では星野源さんの「蘇る変態」を読んだ。源さんの素直な気持ちや暮らしが文字で映されていて、なんだかとても安心して気持ちがすいた。多分ヒヤトイが久しぶりだったから少し緊張していたんだと思う。中でも源さんが、自分の生活や人間関係をめちゃくちゃにした女の人のことを、うんちクソShit馬鹿女と言っていてそのフレーズが面白かった。私の人生にも(あくまで私にとっての)うんちクソShit馬鹿女がいたので、うんちクソShit馬鹿女め!と心の中で静かに唱えた。無論、決していい言葉ではないけど。

今日は派遣会社からの指定で、「ユニット」という仕事だと言われていた。いつもは着いて4階の休憩所で点呼を行うが、ユニットの場合は2階の事務所前に集合だった。「ユニット」というのはおそらくグループなどという意味で使われており、1つの派遣会社でグループを組んで同一の仕事にあたるということを意味している。よく聞いていた言葉だったが、実際に自分がユニットで働くのは初めてだった。おそるおそる事務所の前で待っていると、おじさんが受付のベルを鳴らして私と同じ派遣会社の名前を名乗っていた。今日はこのおじさんと働くのか、とぼんやり思った。少しすると同じ派遣会社のリーダー的なおじさん(おじいさん)が来て、3階クールの入り口までにある防具場所に連れられて行った。そこで、ちゃちゃっと点呼が行われ、おじさん(おじいさん)は靴とか持ってくるからサイズを教えてと言った。どうやら今日のユニットは、おじさん、30代くらいのお兄さん、私の3人のようだ。少しするとおじさん(おじいさん)が靴を持ってきた。なぜか新品だった。ユニットとはそういうものなのかと私は驚きながら、ミドリ安全の新品、真っ黒い安全靴に紐を通す。また少しするとおじさん(おじいさん)が新品の手甲ガードとヘルメットを持ってきた。扱い的にはヒヤトイとバイトの間なのかわからないが、ユニットで働くヒヤトイには防具セットが支給された。いつもとは大違いである。一通りの準備を終えると、作業場へと向かう。今日はそのままの3階のクールの仕事だった。雇われ方はいつもと違うユニットだったが、実際にやることはいつもと変わらなかった。私は1番シューターで、いつものように荷物をクールBOXへと積み続けた。1時間ちょっと経った頃「お兄さん、1階の引っ張り言ってください、飲み物ももって」と言われた。この社員さんはおそらくベトナムから来た人で、日本語においても英語においても強そうで悪そうな名前であるが、本人はとても親切で優しい人だ。私は言われた通りに1階へ降りた。

「ひっぱり」とは、そのままBOXをひっぱる仕事だ。BOXをひっぱっては置き、ひっぱっては置く、徒労感がすごくなにかの刑を受けている気持ちになる。しかも今日は、飲み物を持たされたという事は、18:00からあと4時間ひっぱりつづけなければいけないという事だ。私はBOXを引っ張りながら、昔読んだギリシャ神話に出てくる、永遠に大きな岩を運ばせられ続ける人の話を思い出した。頑張って大きな岩を運んだと思っても、必ず落ちてきてしまう。そういう風に罰としてなっている。それでも永遠に大きな岩を運び続けなければいけない。とんでもない徒労だ。その人よりは楽だなと思う反面、この話を思い出すとどうしても人生そのものも徒労だと思ってしまうので少ししてやめた。代わりに、愛知旅行行くならどこに行こうかななど妄想した。名古屋城ってきれいなのかなとか、ぼーっと考えながらBOXを運んだ。それでもやっぱり4時間は長かった。疲れた。21時52分、ちょっとはやめに抜けて3階の今日点呼した場所に戻ってみると、「もう名前書いておいたよ、お疲れ様、解散!」とおじさん(おじいさん)に言われた。いつもであれば長蛇の列に並び防具を返し、点呼を受けなければいけないが、防具も個別のロッカーに入れて終わりである。なるほど、みんなこうやって22:00のバスに間に合っているのか!とこの世の仕組みをわかったような気になった。ロッカーから荷物を取り、バス停へと向かう。22:00少し前にバスは来て、22:00きっかりに出発した。いつもよりバスも電車も家に着くのも30分早かった。なるほどな、とずっと思った。なんとか今日も終わった。今年は頑張って働こう。


おわりに

ヒヤトイはクソだ。というのが私の一番思っている事である。これは一貫して変わらない。人間が人間としてリスペクトなく扱われることを許してはならない。人にリスペクトがはらわれない場所で、モノにリスペクトをはらえと言われても無理な話である。船橋ベースで言えば、小物担当の大柄な緑服の社員と1階S山(T山の可能性もある)は特にひどく攻撃的な態度をとる。1階H田も同じくひどい。他にも、日本語が伝わらないことをいいことにひどい言葉を吐く社員もいる。そもそも、多くの社員が何のリスペクトもないタメ口で指示を出す。しかし、はぐれものにも色んなはぐれものがいるように、ヤマトの社員さんにも色んな人がいる。2階クール担当のH山さんは誇りをもって仕事をしており、毎度丁寧な説明をしてくださった。K村さんも忙しいときは口調はキツいが、普段は積極的にコミュニケーションをとろうとしてくれる。クソな人もいるが、いい人もいる。ヒヤトイも社員もそこは変わらない。
ヤマト運輸は、身体的な事故である労働災害ばかりを気にしているようだが、心的な傷害を負ってしまうことも立派な労働災害だと、私は思う。設備の整備とともにハラスメント教育がより徹底されることを切に願う。本当は、羽田クロノゲートでの社会科見学の様子などを書きたかった。流通がどのような仕組みになっているのか、見学に来る人にどのような説明がなされているのか、知りたかった。しかし、羽田まで行くお金も無く、日程も合わなかったので断念した。いつか見学に行けた際には、この戦記に書き加えるつもりだ。(追記:まだ行っていない。)

長くなりましたが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。どうか、すべての人がすこやかに過ごせますように。

見えない世界から今日も荷物が届きます。

8.船橋ベースのある朝と夜

疲れてしまったので日勤と夜勤編はいつか追記予定です。



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