2022鹿島アントラーズ シーズン総括

シーズン総括です。

どうせ長くなるので、はじめに今季の鹿島を一言で表しておくと、
一年生の強化部と一年生の監督によるドタバタ劇
が適当かなと思います。


要は強化部と監督への不満ですので、お察しの通り読んでいて楽しくなるようなものではありません。
そのうえで読みたければ読んでください。



・強化部について

まず大前提として、新監督レネ・ヴァイラーと共に歩みを進められなかった責任はとてつもなく大きい。

ヴァイラーは監督就任後、「鹿島の今の力」を分析したうえで、目指すサッカーの輪郭をすぐにハッキリと提示した。


今居る選手の特徴、今居る選手達のキャパ、今居る選手の層…
それらを把握したうえで、

・優磨,綺世,カイキという強力なスコアラーを最大限活かすため、(中盤を経由せず)最前線へいち早くボールを届け、充分な時間とスペースがある状態で相手最終ラインと勝負できる試行回数を増やす

・樋口,ピトゥカ,和泉,仲間(+常本,安西)といったバイタリティに優れた中盤が高い強度で上下動し、相手より早くボールに全体の重心を合わせる

ことによる、ハイテンポ強度勝負という戦略をチョイス。

結果、上田綺世が移籍するまでの23試合で14勝5分4敗という好スタートを切る事に成功。
一時はリーグ首位にも立った。

しかし、最前線でリーグトップスコアラーとなるまでの活躍を見せていた上田綺世の海外移籍、そして夏場の連戦による全体の運動量低下が重なり、
ヴァイラーが最初に提示した戦略の生命線となっていた2つの要素の機能が低下。

その結果その後7試合を2勝3分2敗と苦しみ、そこでの戦いぶりを判断材料に監督交代となった。




この時点で、その後コーチから内部昇格した岩政が監督となり天皇杯はベスト4で敗退しリーグ戦は10戦2勝でフィニッシュした事はあくまでさておき、この監督交代の時点で既に到底納得はいかない


まずは強化部としての戦力維持,強化という役割において。

夏ウィンドウでの動きを振り返ると、まず7月に上田綺世,ファンアラーノ,染野唯月を放出。INは初出場が8/21となったエレケのみ。

世代別代表としてオリンピックに出場し、A代表にも選出されていた上田綺世がリーグトップスコアラーの活躍を見せていたわけで、夏の海外移籍は容易に想像し得たはず。
その代わりのFWが既に枠パンパンの外国人で、しかも合流までに1ヵ月半以上かかり、さらにさらにその間の成績低下を理由に監督交代と来た。

考え得る最悪なムーブをぶっかましてきたなという感じ。


そして計画性の欠如について。

・ヴァイラーの監督としての取り組みを適切に評価できなかった事
・異国で複数のタイトルを取ってきた実績のある監督の方針を信頼できなかった事
・ピッチ上の出力低下の責任を、自らの戦力維持,強化の失敗ではなく監督の手腕においた事
・やって欲しいサッカーにそこまでのこだわりがあったにも関わらず、そもそも監督にヴァイラーを選んだ事
・長期的に見て最も損失のリスクが大きい岩政監督就任というカードを安易に切った事
・補強をしなかった意図についての発信やコーチ人事を監督に、上手く行かなかった際のヘイトを監督に投げた事

なにからなにまで計画性を感じられなかった。



なにも、ヴァイラーがそれまで監督として文句のつけようがない働きをしていたと主張しているわけではない。
特に綺世の移籍と連戦による出力低下を踏まえてのテンポ,重心の安定化や、選手達と信頼関係を深めるためのビジョンの共有などに関しては、もっとやりようがあったと感じる。

しかし、それはあくまで「戦力維持の失敗が起因となって生じた変化の必要性」に即対応することができず結果と信頼を失ったという話であり、
監督を替えることがこの場の解決策として適していたとは思えない。


「鹿島アントラーズというチームが今後より成功するための、長期的なプランの策定を担う強化部」
として、今後を現体制で続けていくことに大きな不信感を抱かざるを得ない選択だったなと。





・監督について

監督に関する批判の多くには、「この状況で、プロの指導が1年目の人材に監督を任せた強化部の判断」への批判が内在しているが、それを前提としたうえでなお指摘したい事がある。


色んなコメントやらインタビューを読むに、
おそらく岩政が監督に選ばれた理由や、選ばれた後に評価されてる点は「ビジョンを提示できる」という部分だと思う。

選手の個性や自由を保ちながら(パターン化することなく)、全体が規律のもと同じイメージを共有しつつ組織的に戦う事

おそらくこんな感じだろう。

ただ岩政監督になってから、ピッチ上がこの「理想」に近づいてる様子は感じ取れない。
それは俺のピッチ上を読み取る力が足りてないだけの可能性も多いにあるが、少なくとも俺には見て取れない。


というのも、この理想は実現するためのハードルがめちゃくちゃ高い。

綺世の移籍が最たる例だが、現状のJリーグでは核となる主力が1年ごとに、いや1年持たず海外へ抜けてしまう。
そんななか、その都度イメージという不文律なもので規律や共通認識を引き継いでいく事は難しい。
(という話は4年前の大岩監督時代のシーズン総括で全く同じ指摘をした)


となれば必要なのは言語化であり、岩政監督風に言うならば「絵」だ。
この絵をより解像度高く、より多くの選手が理解できるように提示する事が求められる。

ただここで出てくるのが、「選手の個性や自由を保ちながら」という、もう1つの条件だ。
目指すサッカーの実現のため、より細かく1つ1つの判断に縛りを設けると、それが選手の自由を制限してしまう事になる。

またもや岩政監督風に表現するなら、これが「パターン化」や「型」にあたる部分だろう。
監督はこれを強く忌避している印象が様々なコメントから見て取れる。


つまり
・原則は欲しいけど、自由は制限したくない
・絵(イメージ)は共有させたいけど、型(パターン)は設けたくない

という方針になる。

ただ現状監督発信での絵や原則が選手間で共有されてる様子は感じられず、でもパターンも用意されてないので、全体的にスムーズさに欠けた組織としての動きになる。
唯一残されてたはずの「自由」も、組織的に機能してない部分を各個人が成立させる必要に追われ、実は自由さえ結局機能していない。

という中途半端な状態が、今のピッチ上への印象だ。



個人的には、この高い理想に近づくための方法論として、岩政監督の「両立させながら進めていく」という考え方は極めて非効率だと考える。

というのも、そもそも「型によって選手の自由が死ぬ」という考え方自体がない。
あくまで「型のうえで自由が生まれる」という発想だから。


台本をただただ棒読みするだけではつまらない。
そのなかで演者が自由な解釈で表現をしたり、アドリブを入れることで臨場感が生まれる。

という考え方はわかる。自由のために余白が必要だというのはとてもわかる。

でもそれはあくまで台本がベースにあり、そこから適度にズラすから、本筋を外れない範疇のなかで遊びがあるんであって。
自由の余白が大きすぎる、いわば即興のエチュードじゃ話としてなかなか成立してかないし、話を成立させるのにいっぱいいっぱいでそこに自由なんて無いでしょう、という話。

いやエチュードでも話は成立するよ。
お互いの共通認識やイメージがしっかりと共有できてる間柄ならね。
10年前の、それこそ岩政監督が現役時代に3連覇してた頃の鹿島アントラーズなら成立してたでしょう。
でも、繰り返しになるけど、時代が変わってこれだけ選手の入れ替わりが激しくなったわけだから。

国内無冠が続いてるなかでも
2018年に昌子と植田が、
2019年に優磨と安部と安西が、
2021年に町田が、
そして2022年に上田が海外へ行ってしまうし。
永戸がマリノスへ行って次のシーズンに主力として優勝したり、出場機会に困ってたわけでもない犬飼が浦和に行くような状況になったわけだから。

だからまずは、もっともっと台本を大事にしようよ、と。
まずは型を固めて、全体の機能性とスムーズさをチームの土台として構築する。
その先で徐々にズラしていき、対応力と臨場感のある理想のチームを目指していくべきでは?という感じ。


だから33節の清水戦で4-1-2-3を始め、立ち位置やタスクを明確に設けて「良い意味でパターン化した」のは、今季唯一、少しだけど前進を感じた。

ただまだまだ足りない。
今は型の構築によるスムーズ化に取り掛かるべきフェーズだと思っているので、今後も監督が今の考え方で継続していく事に関しての不安は残る。






それともう一点。

時間がかかる
という主張が物凄く引っかかっているので、そこについて。


まず、具体的になにを指しているのかがわからない。

おそらく前述の話に沿って考えると、「高い理想を実現するためにはそのぶん時間がかかる」という話だとは思う。

ただオフが空け、キャンプが始まってから約1ヵ月の準備期間を経て来シーズン開幕となるが、仮にその時点で大幅な前進を得られてなかった場合。

監督交代後のリーグ戦績同様、10戦2勝で来季をスタートさせた場合。

この10戦2勝という成績は、最終的にJ1最下位となった磐田の今季のスタートと同じ状況にあたるが、果たして本当に10節終わった時点で15位やら17位に鹿島が位置付けていても、同じことを同じ熱量で言えるのだろうか。


言える覚悟があるのならば、それでも良い。
その状況でもなお、本気で「このチームは前進している。理想的なチーム作りのために必要な時間」と胸を張って言えるのであれば。

しかし実際にこの状況になれば、いま時間が必要と唱えてるファンのほとんどはおそらく阿鼻叫喚してることであろう。強化部に対しても全く同じ事を言いたい。

根拠は、そんな継続性があるなら強化部は8月でヴァイラーを切ってないし、ファンはヴァイラーを切った事を受け入れられてないはずだから
(はたまたアントラーズファミリーという概念はそういった理屈を超越した存在なのか・・・)



なにも、全クラブに共通して言えるような最悪のシチュエーションを想定させて、必要以上に脅かしたいわけじゃない。

これは
・来季とてつもなく酷くなったら?というif
ではなく、あくまで
「今季と同じだったら?」というif
だ。

そんなに飛んだ話をしているつもりはない。

少なくとも岩政監督は天皇杯敗退後の大熱弁で「マリノスや川崎が何年かかったと思ってる!?覚悟がないならサポーターを辞めればいい!」と言ってるわけで、恐らく監督のなかでは年単位を想定してると思われる。
(この発言も、シティグループという土台があったからこそ長期的な投資に価値を見い出せたマリノスと、岩政が監督でなくなれば後ろ盾なしで全くのサラ地に回帰する鹿島を横並びで語っている点等々ツッコミたい所はたくさんあるが…)



そんななかで1つ強調しておきたいのは、「時間を免罪符として使うのは非常に危険だ」という事。


前述の通り、岩政監督はビジョンを提示するのが多分とても上手い。
思い描く未来の理想を選手に伝え、共感を生み、共に戦っていく信頼関係を築く。
監督として大切な能力の1つだ。

それこそが、監督がヴァイラーから岩政に変わった時に、選手達が様々な表現で口にしていた「ポジティブな変化」の正体だと思ってる。

ヴァイラーは行く末ではなく足元に光を照らした。
いつ実現するかわからないこの先の理想ではなく、
・自分達の現在地はどこか?
・自分達には今なにができて、何なら相手を上回れるか?
・自分達には今なにができず、なんで上手くいかないか?
に焦点を当てた。

結果的にあの過程で8月に解任されたことがなによりの証明だが、そういった圧のなかで監督をしていたわけだから、ある種当然ともいえる。

とにかく現実に向き合った取り組みだった。

それが綺世移籍後に結果が出なかった時の「停滞感」に繋がった。



それが岩政監督になり、足元ではなく行く末に光を照らすようになった
この取り組みの先にはみんなが共感する理想があり、そこを一緒に目指そう!ということで停滞感は晴れた。

がしかし、そこで危惧しておきたいのは
・自分達の現在地はどこか?
・自分達には今なにができて、何なら相手を上回れるか?
・自分達には今なにができず、なんで上手くいかないか?
という目の前の、足元の現実から目を背けてはいないだろうか、という事だ。

行く先の理想を見て、そこまでには「どのみち」時間がかかるという事実を免罪符に、
「目の前のできない」から解放されようとしていないか?


チーム作りに魔法はない。確かに時間ははかかる。
ただそれは、目的地にたどり着くまで登らなくてはいけない段数が多いという話であって、辿り着くまでの間に前進が滞る事を許容するための考え方ではない。

段数が多いからこそ、1段ずつ、目の前の現実に向き合って、1段ずつ課題をクリアしていく必要がある。


最終戦セレモニーで、岩政監督は「今まで目を瞑ってきた部分に、勇気をもって取り組んでいるので時間はかかる」という旨のコメントをしていた。

今までの所、むしろ180°逆の状況に見えてるのは俺だけだろうか。

現実に向き合い、現在地の認識とそこからの1段ずつの前進に取り組んでた前体制に対し、
どのくらい離れてるかもわからない遠い先の光を見て、次の1段の詳細がぼやけている現体制
という対比に見える。

改めて現実と向き合い、スムーズ化に着手するアプローチが必要な段階なのではないだろうか。



・まとめ

散々文句を言ってきましたが、俺はあくまで「岩政監督が俺のカスみたいな見立てを裏切りバチバチに上手い事やる」のを本当に心から望んでいます。

理由は、まず今の強化部が後任に優秀な監督を連れてこれるとは到底思えないのと、このクラブにおいてここで岩政大樹という存在が消費されてしまう損失が本当に大きいのと、あとは純粋に鹿島が痛みなくストレートに成功して欲しいから。

現状上手く行くとは思えないけど、上手く行って欲しいとは本当に心から思ってます。

マジで頑張れ。鹿島アントラーズ。