今の鹿島のサッカーについて

 良くも悪くもある程度形が固まってきたなと感じたので、今年最初で最後の鹿島のサッカーについての話を軽くします。

 といっても今季の鹿島に関しては、いつも試合はながら見ぐらいの感覚で、リーグ戦に関しては見てない試合もちらほらありますので、そのぐらいの熱量だというのをあらかじめ。
昨日鳥栖のサッカーを現地で見たくてスタジアムに行ったので、その流れです。



今季の鹿島の変遷をざっくり振り返ると、

・開幕前から静的なビルドアップに取り組むも形にならず、9節終わった時点でリーグ15位という出だし。

・そこからできない事に見切りをつけ、チーム全体で割り切って撤退守備からのロングボールを繰り返す戦略に切り替え、サッカーがある程度まとまった事で(それ以前の惨状からの反動もあり)成績が向上。

・このぐらいの時期から樋口が蹴るセットプレーが2試合に1試合以上のペースで決まり始めたのも追い風となり、結果とともにチームが自信をつけ新たにやろうとしてる事が徐々に形になり出している。

みたいな印象。



 具体的になにが形になり出してるかというと、まずは動的なビルドアップ。

今の鹿島はボール保持時において、攻撃の要所に人をあらかじめ配置していない。

ここでいう攻撃の要所とは、以下の図における赤丸で囲まれたスポットのこと。

 
 1つ目は、後方からのビルドアップによる前進において肝となる、相手1stDFの背後にあたる位置。
 2つ目は相手CHと相手SHの間にあり、これまた相手陣地侵入の鍵となる、いわゆるハーフスペースの位置。
 3つ目は相手守備ラインを押し下げ、ブロックの縦幅を広げさせる役割を果たす最前線中央にあたる位置。

今の鹿島は、これらの要所に選手を置く(配置する)のではなく、「選手が入ってくる」方式をとっている。

おそらく岩政監督の志向として、
『あらかじめ要所に人を配置をしそこで「選手が待つ」形になれば、それがパターン化に繋がり、相手にとって守りやすい攻撃になってしまう。
なのでそこをあえて空けておき、あくまでその時の状況下で、よりベストな選手がよりベストなタイミングで流動的に要所に入って活用することで、相手にとって捕まえづらい理想的な攻撃となる』
的なのがあるんだと思う。ってかなんかで言ってたような気もする。

事象としては以下の図のようなイメージ。

これは先日の鳥栖戦でも多かったが、前線で器用に味方と連携しながら攻撃を作れる左SB溝口を高い位置に押し上げるため、佐野を左に列降りさせて、相手1stDFの背後(要所)にピトゥカが「入る」。
そして、SBが高く位置取れる分、SHが内に絞ってハーフタイムスペース(要所)に「入る」。

タイミングや味方,相手の位置によっては、同じ流れからSHではなくFWの優磨が入ってきて、その奥を仲間が突く以下の構図でも良い。

その要所に、人とボールがタイミング良く入った瞬間に一気にスピードアップ。
そこからは選手間の距離を近づけて細かいパスから相手ゴールに迫る。という流れ。


さらに、ピッチ上の状況からその場で判断し、佐野(CH)の列降ろしをせず片側SHがハーフスペースに入り、それに合わせて2CHが半スライドして3CH化する以下のような形でも良い。

もっと言えば、仲間が大外に開いてSBの溝口がハーフスペースに内取りしたって良い。

今出た例だけで、4人が左ハーフスペースを出入りしてる事になる。

(個人的には現実ではありえない距離感での配置と、相手の動きを加味しない作図は嫌いだけど、めんどくさいから許して)


 あとは垣田,優磨の2人が、常に最前線でロングボールのターゲットとなり続ける。後ろのボール循環が窒息しても、ここ目がけて蹴っとけばOKと考えられるぐらいに2人とも背負ってタメれるFW。そのFWの有効な競り合いをキッカケ両SHが裏抜けや落としに入り一気に陣地獲得。縦に速くそのまま4人で攻撃を完結させる。


これが無いと、いくら後ろが上手く繋いでも、相手守備陣形が縦に狭くなるので、前進が非常に難しくなる。
(後ろからの組み立てを相当上手く仕込んでる鳥栖が、最前線(小野)へのロングボールというカード持ってないがゆえに鹿島陣地深くへの侵攻に苦しんだように)


今の鹿島において、この「最悪最前線目がけて蹴ればOK」がいかにチームの助けになってるかは、

6/11 リーグ湘南戦 勝利(垣田.優磨スタメン)
6/24 リーグガンバ戦 敗北(垣田非スタメン
7/1  リーグ京都戦 引分(垣田非スタメン
7/8  リーグ広島戦 引分(垣田非スタメン
7/12 天皇杯甲府戦 敗北(優磨非スタメン
7/16 リーグF東戦 勝利(垣田.優磨スタメン)
8/6  リーグ札幌戦 勝利(垣田.優磨スタメン)

あたりで顕著に表れていた。

そうして要所を、ピッチ上の状況に合わせて臨機応変に活用してボールを進めるというのを、まぁやろうとしてるんだろうなという感じ。

それに加えて、まぁ加えてというかこっちが実質得点源の軸だけどセットプレーでの得点。幸い今チームには最高のキッカーが居て、それを決める中の選手も居る。

これらでスコアで優位に立つ。



 さらにゲーム全体のマネジメントでいうと、リード時の試合終盤のチームの思い描く絵というのはだいぶ固まってきた。

リードをもって残り30分を切ってからは、相手が点を取りに来るた全体の重心を上げ前がかりに自陣に攻め入ってくる。
そうすると先ほどとは攻撃の要所が変わり、以下の図における青丸スポットへと移動。

その相手SB裏のスペースに、フレッシュな藤井松村が武器であるスピードで襲いかかるイメージを共有し、スムーズに行って陣地回復と追加点を狙う。

この辺もある程度形になってきた。




 守備については、完全撤退式だった春先の復調期とは異なり、ある程度前から追うようになった。
といってもチーム全体で狙いを持って制限→包囲→奪取に取り組むわけではなく、あくまでブロック形成優先。

具体的には以下の図のように、相手ビルドアップ時は前4人がプレス隊。

この4人が中を締めつつ、前からタイトに寄せて相手のミス誘発。

ただ逆に言えば、4人で前で捕まえられなくとも、後ろの6人は入れ替わられるリスクを削減するためプレスには参加しない。
前がスライドしきれず前進を許した時は、そのまま後ろに下がってとにかくブロック維持。
ボールは前4人、というかSHが魂で戻ってきて遅らせる。

 この下がる守備も安定してきてる。植田,関川の両CBのイエローカード数が少ないというのをなにかで見たが、それもこの下がる守り方のおかげだろう。前から行ってないから、後ろがバタバタしながら背走守備する機会自体がかなり少ない。
そこに難がある2人というイメージなので、ここは上手いこと噛み合ったなという感じ。

実際これで失点もだいぶ減っている。
というか組織プレスでもない、前4人での単独プレスをビルドアップで外せないチームが多すぎる。
ポヤトスガンバは見事なまでにそれを崩して鹿島に完勝し、川井鳥栖も河原を軸にかなり前進はスムーズに行ってたが、今のJではこれで大多数のチームがミスからチャンスをくれるか、諦めて蹴っとばしてくれる。

蹴ってくれればこっちのもん。その先で待つのは、それこそその点に関しては国内で無双できる植田,関川コンビ。






こんな感じか、最大限ポジティブに語って。

こっからは不安要素というか、なんというか。
もうこれまで散々言ってきた事の繰り返しで俺も飽きてきてるんだけど、まぁ年一なので。年一くらいは改めて。


まぁまず、ボール保持局面。

 臨機応変に要所を出入りする方式だけど、SHのロールがあまりにも負荷が高い。
強度・技術が相当高水準で求められてて、適応できる選手が少なすぎる。
今は樋口・仲間・名古というその両面をハイレベルに備えた選手が居るけど、これをベースにしていくのはあまりに厳しい。

実際仲間もこの負荷でできるのは60分までだし、この3人のうち誰かが離脱した場合(現に名古が今不在だけど)、土居,荒木には強度面で、藤井,松村には技術面でクオリティが足らず、成立しなくなる。
リードや同点の場合ならまだ前述のパターンが効くが、ビハインドで60分を迎えても、引いた相手に藤井と松村が先ほどの要所のローテーション技術で相手を崩す事は難しく、結果強引なスピード勝負に頼ることになる。名古屋戦の終盤のように。当然場所が足りないので詰まって効力は薄まる。

しかもこの方式、その場に合わせた臨機応変さと引き換えにかなりの緻密な連携が求められる。継続して今試合に出てる今の4人(+名古)なら可能だが、ここに荒木や土居が組み込まれても、このスピード感についていくのはおそらく難しい。

 さらに今のSHは、役割上めちゃくちゃ守備でも走れなきゃいけない。
前のFWに合わせて相手最終ラインのプレスに参加しないと行けないし、押し込まれたら自陣PA付近まで戻って4-4ブロックに参加しないと、自陣で相手をフリーにさせるピンチを作ってしまう(名古屋戦の失点のように)。

この負荷に耐えるのも、他の選手ではやはり厳しいだろう。


 …というか土居,荒木,藤井,松村ができないという話ではなく、そもそも求めてるハードルが高すぎる。
このロールを遂行できる選手はそもそも今の国内でも両手で数えられるほどしか居ないだろう。

それと合わせてFWも。
後ろからのビルドアップについてその方式でやろうとしてるのはわかるが、先ほど垣田優磨が揃って居る時と居ない時に成績が明らかに左右されたように、結局「蹴ってもまぁOK」を最前線が成立させてくれるのが前提のクオリティなのは間違いなくて。

とにかく
・同数のシチュエーションを作れば、選手が質的優位である程度押し切ってくれる
という状態をベースに話を進めていくのは危うい。

 それがない鳥栖は後ろからボールと人を一緒に動かし、局所的な数的優位を連続性で作っていく事への仕込みを撤退していたが、(同数のシチュエーションにビビり過ぎてるというのもそれはそれで鳥栖側の課題だろうけど)そういう要素はもっと力を入れて積み上げていく必要がある。

いや、良いんだよ。
一昔前みたいに大迫柴崎みたいに世代トップの高卒が鹿島を選んでくれて、順調に活躍しつつ5,6年鹿島でやってから海外飛び立ってくれるなら。
もしくは圧倒的なクラブブランド力で、少なくとも国内におけ選手獲得シーンのポールポジションを取れてるなら。

でも時代はそうじゃなくて、チェイスアンリも福田師王も直海外で、
国内移籍市場でもマリノス神戸浦和あたりに勝てなくて。

今は過去に積み上げてきたもので、質的優位で国内の大多数のチームに押し切れるけど、現状求めてるハードルが高すぎて水準を満たす選手が(こんなにも良い選手をたくさん抱えておきながら)足りない状況になってるわけで。国内無冠が7年連続になれば今のような質を維持していくのは今後さらに苦しくなっていくんだからさ。

「覚悟をもって、今まで目を瞑ってきた部分に取り組む」というのは、そこへのチャレンジの事なんじゃないのか?と。



 あとそこにも最終的に繋がるけど、「今居る選手の出来る事から逆算してサッカーを構築していく」という方針は、もうだいぶしんどいと思う。

決して悪い事じゃない。
選手の個性と自由の尊重はもちろん重要で、チームの活力を維持するために必須な要素だと思う。
前体制が頓挫して、今体制がここまで選手に信じられてるってのはそこも大きく作用してるだろうし。

ただ、あまりにもそっちに傾きすぎてはという感じ。
これで今冬ピトゥカが確実に居なくなり、佐野も関川も海外からオファーがあるかもしれない。そうなれば今の下がる守備は成立しなくなるだろう。今の勢いでは樋口にも十分可能性がある。

そうなった時に、また新しい選手で、その新しい選手でまたなにができるかを模索していくサイクルをやっていては、年間リーグタイトルの獲得はあまりに難しい。
現に今年も言葉通り「紆余曲折」があって、色んなスタイルで戦って。ある程度形になりだしたのは最近。もう天皇杯は敗退してるし、リーグ戦は残り10試合しかない。

これでまた来季、スタイルの模索から取り掛かっていては同じ事が繰り返される。

 だからこそ、選手のスペシャルに依存しない「柱」を立てる必要がある。
そしてそこを指針とし、日々のトレーニングで選手がレベルアップしていく。
そうして今チームが目指すサッカーをやろうとした時に「できない」選手を極力減らす。

そうしないと、間に合わない。
若手は自力で突き上げてこいってのも、まぁそれが理想だけど、こんなに要求の水準が「その時の主軸が持ってるスペシャル」に逐一左右されていては無理がある。
 
そこに左右されて芯の通ったトレーニングの効果が働いてない結果が、控え組のトレーニングマッチ連戦連敗の正体でしょうから。TMはほぼ全部見に行ってるけど少なくとも選手のレベルでやられてるなんて事はないわけで。



なんにせよ、選手の出入りのスピード感がこうなった今の時代にしては、ピッチ上の自由度が高過ぎるかなと。

基準を個に傾け過ぎると、個の変革とともに崩れる。

なのでチームとしての柱を立て、落とし込み、そこを基準に選手の育成と獲得をスムーズにする。
これがないと、間に合わない。

一過性かつ限定的な「選手に合わせたベース」を作るのではなく、先にチームとしてのベースを作って、それに向かって選手にアジャストしてもらう流れを作っていかないと。


そういう時代であり、このクラブにとってそれが求められる時期なので。


はー疲れた。もう終わり。ルヴァン獲りてぇなあざっしたー