【J1第19節】vs柏 2022鹿島アントラーズ
スタメン
この日のスターティングメンバーは以下の通り
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これまでのヴァイラー体制で、ポジションや役割は変化しつつほぼ固定化されて起用されていたカイキ,和泉,ピトゥが揃ってベンチスタート。
その代わりに広瀬が左サイドバックに入り、安西を2列目に置く形をとってきた。
というのも7月上旬は
7/2 vs柏 @柏
↓(中3日)
7/6 vsC大阪 @カシマ
↓(中3日)
7/10 vs札幌 @札幌
↓(中2日)
7/13 vsG大阪 @カシマ
↓(中2日)
7/16 vs神戸 @カシマ
と非常にハードなスケジュール。
これまでのように毎試合毎試合ベストメンバーで挑もうというのは、さすがに非現実的。
リーグ優勝のために全て勝ちに行くとなると、この日のように主軸の一部をあえてベンチスタートにし、プレータイムを抑えて疲労蓄積によるエネルギーダウンを回避しながら運用していく必要がある。
とはいえ、これはヴァイラーのチーム作りがまた1歩前進したことを意味するだろう。
今季はこれまで過密日程のなかでも、メンバーを細かくイジリながら疲労を分散させる事より、主軸を固定してやりたいサッカーでの最大出力が最も期待できるメンバーを常に選出してきた。
その結果、マリノス戦での敗北に始まり、疲労蓄積によるエネルギーダウンが大きく作用しての敗戦も少なくなかった。
そのなかでヴァイラーが来日から時間と試合を重ね、各選手の特徴や日本の気候を把握したうえで、メンバーの組み合わせによる出力のコントロールと疲労のマネジメントに着手しながら勝つという段階に移行できたのは間違いなく前進といえるだろう。
そしてもう一つ気になったのが、普段カイキと組む際は右SHとなる仲間がこの日は左SHに入り、普段左SBを専門にしてる安西が右SHに配置された。
このサイド割り振りに至った理由は2点考えられる。
1つは鹿島の4-4-2守備おいて非常にネックになる、相手が3バックの時のWB対応。
前からプレスに行った時に構造上浮いて自由にボールを受けやすい相手WBに、この日は利き足から高い精度のパスを出せる三丸が入っていた。
そこから攻撃を作られるのを防ぐため、高い運動量とスピードでよりタイトなケアが可能な安西を置いたのかなと。
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もう1つは仲間の左サイド適正。いつもカイキと組んでいる時は決まって右SHとなる仲間だが、実はカイキが圧倒的に左の方が適性があるというだけで、実は仲間も左の方が適正があるという評価なのかもしれない。
そのうえで、今日は相方がカイキじゃないのでより機能する左に配置という流れだった可能性。
この2択。
厳密に言えばこの2つが複合的に加味されて…を含めた3択なのかなと思う。それ以外に普段左の安西を右に、普段右の仲間を左に配置した理由が思いつかない。
キックオフ
互いにある程度ボールを握る意思こそあるものの、序盤からロングボールを嫌わず積極的に最前線目がけて蹴り込むシーンが多くなる。
というのも両チームともに、ターゲットとしてボールを収められる役割を担えるFWが配置されており、それを後ろから1.5~2列目のアタッカーがスピード感をもって追い越し攻め入る形を絵として持っていた。
それが柏にとってはターゲットが細谷で、追い越し役がサヴィオ,小屋松の2シャドーであり、
鹿島にとってはターゲットが優磨で、追い越し役が仲間,土居,安西の3人の2列目。
意図された選手配置によって描かれた、ロングボールを活用した陣地獲得を狙って、両チームが積極的に最前線に蹴り込んだいく立ち上がりとなった。
そんななか序盤にペースを掴んだのは柏。
互いにFW目掛けてのロングボールが続くなか、柏は構造上浮くWBを宛先にした中距離のパスを使って、大幅に陣地を獲得し前進することに成功する。
この日はSH安西という選択によって普段よりも緩和はできていたものの、相変わらず今の鹿島の4-1-3-2守備はどうしても
「vs3バックビルドアップの時の相手WB」
を上手く捕まえる事ができない。
配置で安定したボールの送り先を用意できていた柏が押し込み、立ち上がりから2つのCKを獲得。試合の入りのペースを掴んだ。
(試合の流れとはズレるが、前半8分の柏の2本目のCK。相手は直接ゴールに向かうボールを蹴り、結果枠内へと飛ぶ素晴らしいキックとなったが、スンテはこれをパンチングで処理。
鳥栖戦での試合終了間際の、失意の4失点目の形を踏まえ再現を狙ってきたキックだったが、痛恨の失点を経てしっかりとポジショニングを修正し対処したスンテは見事だった)
ただもう一つこの序盤の柏の優勢について抑えておきたい要素があり、それは柏のフォーメーション。
これまで柏は椎橋をアンカーに置く3-1-4-2を採用していたようだが、この日の柏は大きなメンバー変更なく3-4-2-1をキックオフからとってきた。
鹿島としてはそこに対する戸惑いや対応するために要した修正が影響したことでこの序盤の形勢に至った可能性がある。
こればっかりは鹿島が柏のスタメン発表からどのくらい読めてたかによるので、どのくらい作用していたかわからないが、前日練習までの対策の場では3-1-4-2が想定されていただろうから、少なからず影響していたのは間違いないだろう。
そうして入りのペースを握られた鹿島だったが、CBキムミンテから高い精度のロングパスが最前線に送られ、それが収まって徐々に流れを取り戻す。
(9:20,11:40 いずれも土居,仲間の動き出しを目視したうえでの、足元に着く素晴らしいロングフィード)
そして13:00。
おそらくこの日の鹿島が思い描いていたであろう絵に、非常に近いシーンが生まれる。
最後方でボールを繋ぎ、スイッチが入ったのはまたもキムミンテの精度の高いロングフィード。
これが最前線の鈴木優磨の元にキッチリ届き、その落としを安西が回収しアタッキングサードでボールを持って前を向く。最後は後ろ側CHの健斗がミドルシュートで締める。
このように優磨が持ち前の高さと懐の深さで相手守備ブロックを押し下げ、それにより空いたバイタルエリア、相手ブロックの溝に仲間土居安西のスピードあるスモールラインナップが駆け込んで攻め入る。
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そうして鹿島も負けじと押し返すものの、やはり着実に、安定して押すのはWBでズレを生み出せる柏。
前半4分,7分のWBを使った2つのCK獲得に続き、18分にもCB→WBのミドルパスから前線でのセットプレー獲得。
大外を使ってぐんぐん前進してくる。
鹿島もロングボール以外にも配置で地上戦に活路を見出したいところだったが、この日は上手くいかない。
それには、土居のポジショニングを含めた役割がボヤけてしまった事が要因の一つとしてあげられるだろう。
この日の鹿島は綺世が居なくなった事により、これまで優磨と綺世がやっていた前線での2ターゲット制の収めが不可能な状態。
そうなれば、以前綺世不在時のルヴァンカップG大阪戦でアラーノがFWに入った時に取っていた、4-1-4-1可変によるズレの創出を狙うために土居が降りるのかとばかり思っていた。
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しかしこの日の土居は降りず、最前線に居る事を常に優先させていた。
ではその代わりに、誰が中盤の三角形創出に参加していたかというと、それはSHの安西と仲間。
この2人が相手ブロックの間に立って中央で受け、4-1-4-1のいわばIH役を担っていた。
3:30もそう。9:00も11:45も20:20もそう。
中盤で選手同士が上手く旋回しつつ、IH役に入るのは仲間と安西という、サイドプレイヤー。
逆に、本来中央で相手ブロックの間に浮きながらズレを作り、場所と時間を生み出す動きが得意な土居が、最前線でロングボールの対象になろうと彷徨う。
ただ、決してFWとして最前線に張ることを悪としている訳では無い。
むしろヴァイラー体制のFW像として、奥へ奥へアクション起こすことはかなり重要視されているわけで、土居としてはなかなか出場機会を掴めてないなかで監督の要求に応える事を優先させようという意思が強く働いたのかもしれない。
はたまた、ヴァイラーから直接そういう指示が出てたのかもしれない。
実際のところはどうだったのかはわからない。
ただ、いずれにせよこの状況には強い違和感を感じる。
安西が中央で密集のなかボールを受け捌こうとし、土居が裏への飛び出しから相手を背負ってタメを作ろうとするこの状況は。
さらに、この日の土居は厳密にいうとキッチリ最前線に張り続けて奥を狙い深さを作ってるわけでもない。
ちょっとだけ降りてる。
だからロングボールが一番前に収まった時も、ちょっとだけ降りてるぶん、1拍出遅れる。
最もわかりやすく表れたのは、11:45~のシーンだろう。
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左CBのキムミンテの足元にボールが入って縦のパスコースが空き、健斗がそのスペースを指差すも、土居は一番前に居ることを優先してるためそこ(赤丸で示したゾーン)には居ない。
土居はそれを見てから降りる動きをするも、ミンテはすぐさま最前線の仲間を見てミドルパスを選択し、これが見事に足元の収まる。
これによりバイタルエリアが大きく空き、突けるスペースが生まれるものの、降りる動きをしているためここ(赤丸で示したゾーン)にも土居の姿がない。
急いでそこに走り込むも、それを仲間が待っている間に相手の帰陣も間に合ってしまう。
土居や荒木が昨年までボールを頻繁に触り攻撃の起点となっていたにも関わらず、ヴァイラー体制になってから攻撃の中心としてのタスクを果たせなくなった理由は、まさにここに表れてるだろう。
ボールを持てばとりあえず遠藤や土居や荒木の受けの動きを待っていた従来の方式とは異なり、ヴァイラーの求めるスピード感ではそれでは待ってる時間は存在しない。
相手を置き去りにするこの早いプレーテンポが、従来の方式が色濃く習慣として残る味方選手をも置いていってしまうのだ。
このプレーテンポに順応できなければ、ヴァイラー体制で定位置を掴むのは難しいだろう。
とはいえ、あえてここで強調しておきたいのは、これを土居だけの問題だとは思わない、という事だ。
最近はエヴェの復帰もありベンチ外が続いてるため、コンディションに問題があるのかも知れないが、FWに降りることなく深さ創出とゴール前での得点力を要求するのであれば、特徴的により適正のある染野を起用すべきだ。、そしてもしそこをあえてファジーにしてるのであれば、「安西ではなく土居が中央で受ける形にした方が」とピッチの外から修正を加えることだってできる。
役割の設定と、選手の特徴を噛み合わせなければ、こういうミスマッチは起きる。
そう考えるとコーチングスタッフ陣からの改善の余地はあったと考える、
そうして鹿島が地上戦に活路見出せず、ロングボール一本に前進方法が絞られ苦しい展開が続くなか、22:45に最初の決定機を迎えたのは柏。
3バックでのビルドアップで、やはり再現性を持ってズラされる鹿島の守備ブロック。
ひたすら前進され続ける大外のWBにボールが入るのを嫌い、守備ブロック全体の意識が外に向いた瞬間に、健斗がマーカーである椎橋を離してしまう。
それにより空いた椎橋はパスを受け前を向き、その瞬間最前線の細谷が動き出して決定的なラストパスが通る。
これを関川がファール覚悟でペナルティエリア寸前でなんとかストップ。
結果的にVARが介入しOFRを行ったうえで、DOGSOではなくSPAが適用されイエローカードとなったものの、おそらくその根拠となったキムミンテの位置は抜け出した細谷に間違いなく追いつける場所だったとは言えず、かなり微妙な判定だった。
レフェリーによっては、DOGSO適用で関川へレッドカードというジャッジを下していてもなんらおかしくなかった。
鹿島としてはこの判定にはかなり救われた。
その後飲水タイムを挟み、再び決定機を迎えたのは柏。
鹿島陣地でのなんでもないスローインからキムミンテがハッキリとクリアできず中途半端な処理になった所から高い位置でボールを奪い、最後はラストパスに小屋松が触れさえすれば1点という状況に。
柏が決定機を作り、鹿島はそれを耐えながらロングボールを最前線に送り続ける。
それが優磨に収まる、もしくはその跳ね返りを回収しすぐさま左にボールを送って広瀬の足元にボールが入る、のいずれかの形で鹿島も押し込んでチャンスを作る。
ただやっぱり総合的に押してるのは位置的優位を持つ柏…
そうした展開が続くなか、前半終了間際、耐え続けた鹿島に絶好のチャンスが訪れる。
アディショナルタイムに突入した45分、これまで何度も繰り返されてきた優磨へのロングボールをキムミンテが蹴り込み、周りの選手はそれに備えて動き出す。
競り合いを経たその跳ね返りを鹿島が回収し、これまた何度もやってきたようにチャンスメーカーの広瀬のいる左サイドへボールを送る。
そこから再びキムミンテの足元にボールが入り、またも優磨宛のロングボールが蹴り込まれる。また周りの選手はそれに備えて動き出す。
ただ今度はこれを優磨がフリーの土居に完璧に落とし、結果GKと1vs1という決定機を生み出す。
しかし土居、これを決めきれない。
こればっかりは仕方のない事だが、土居が優磨の相方として、降りてのチャンスメイクではなく最前線での仕事を担う事を選んでいた以上、ここは決めて欲しかった。
でなければ、裏にも抜けられて背負えて点も決められる染野で良いのでは?とやはりなってしまうわけで。
ゴール前でのスコアリング、もしくは降りてのチャンスメイク。
今後の土居FW起用の際はいずれかの役割で機能することを期待したい。
(繰り返し言うがこれは土居単体だけの問題ではなく、選手の個性を活かした役割設定の話でもあるため、もちろんコーチングスタッフへ向けた話でもある)
しかしこの決定機によって生まれたこの日1本目のコーナーキックを、キムミンテが頭で叩き込み先制。
セットプレーって素晴らしい。
いや、訂正しよう。
良いキッカーが居るって素晴らしい。
完璧なボールに、完璧な飛び込み。完璧なヘディング。
10回見ても見飽きない完璧なCKで気づけば先制。前半終了。
これだからサッカーは難しい。
疲れた。
ハーフタイムを踏まえて鹿島は、カイキ,和泉,ピトゥといったような選手を続々投入。
これまでのヴァイラー体制では、選手交代によりクオリティが落ち、後半の終盤にかけて出力が尻すぼみになってしまう傾向が頻繁に見られた。
しかしこの日は、安西らをスタートに起用してまずは試合を作り、後半から高い質を持つ選手を投入することで出力の維持、さらにはギアを上げる事に成功していた。
この成功体験も、このチームをまた一歩前進させるだろう。
これができるようになれば、主力のプレータイムマネジメント、そして半主力の有効活用と底上げが可能になる。
そのためにもこの試合を勝ちきる事、この主力温存方式を失敗体験ではなく成功体験に昇華させた事の価値は非常に大きかった。
1失点で乗り切った守備陣。
ギアアップに貢献した途中交代組。そのなかでもPKをしっかり決め切ったエヴェラウド。
そして、チームを勝たせた優磨。
全員良かった。
でも個人的には今日のMVPはキムミンテにあげたい。
なかなか上手くいかない時期も続いたが、腐らず熱く取り組み続けてパフォーマンスを上げていき、CHとCBの2つのポジションでチームに必要な存在である事を証明していった。
そんな最中の先制ゴール。
コーナーキックでのヘディングももちろん見事だったが、先制ゴールに繋がる決定機創出も、その前の試合の流れの奪い合いでもミンテの高い質のロングフィードはかなり効いていた。
その後の本業の守備でも、集中して対応を続けたことがこの日を1失点に留めることに成功した大きな要因となっていた。
最高。
絶対次も勝つ。
以上