田舎には夜がない
「昼と夜、どっちが好き?」なんて、聞かれたら迷わず答える
「夜です!」と。
迷うわけがない、考える時間なんて必要ない。秒で答えてみせる。
「夜が好き」。
移住卒業生の私の偏見「都会にあって田舎にないもの」の上位にランクインするのが『夜』なのである。
想像して欲しい…
沈みゆく陽を追いかけ、オレンジ色の空が覆うと街は微熱めいてくる。
あちらこちらから聞こえる楽しそうな話し声、笑い声。グラスを交わす音が実に清々しい。
「真っ直ぐ帰るわけにはいかねえぜ」
仕事帰りに一杯。そう、これ、これなのだ。
田舎にはこれが、ないのである。
青天の霹靂。驚愕の事実だった。冷静に考えるとわかる。だって、田舎の移動手段は車なんだから。
しかし、目の当たりにすると淋しくて、切なくて、悲しくなった。
こうして、飲みに行くということが一大イベントになった。事前準備は抜かりなく。夫と喧嘩しないように細心の注意を払う。なぜなら送迎を頼まなくてはならないからだ。
ちょっと喜ぶような言葉も混ぜ込みつつ、当日まで波風立てず穏やかに過ごさなくてはならない。
そして壮絶なまでに準備を重ねた一大イベントが終わると、空虚感を覚えた。なんなんだ、これは。
時にはドラマを一気見するのもいい、読書もいいだろう。突然思い立ってキッチンで創作するのもよし。ゆっくりお風呂に入って、ぐっすり眠るのも大事なことだ。
でも、時には飲みたいこともある。くだらない話で笑ったり、泣いたり。昼間とはまた違った時間なのだ、夜は。
私は夜が好きだ。でも田舎には夜がない。あるのは漆黒の闇だけだった。
by Degu
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