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いわきFC 走りの革命

今でも頭の中にいわきのサポーターのチャントが心地よく鳴り響いています。

今年からJリーグに参戦したいわきFCにスプリントコーチとして就任しました。昨日で全34節を終えてJ3リーグ優勝、J2昇格を達成しました。

大倉智社長から昨年スプリントコーチとしての打診をいただきました。スプリントコーチ10年目にして初めてJリーグのクラブが単発ではなく年間通して関わって欲しいというお願いは初めてでした。どの世界もそうだとは思いますが、続けてこそ、積み重ねてこそ、変化や成長の確率は高まります。スプリントコーチがJリーグクラブに求められる時がきたんだと自分にとっては大きな大きな一歩でした。僕自身が地元福島県であること、僕の故郷福島県「大熊町」がいわきFCのホームタウンであること。決断は一瞬でした。

いわきFC就任時のコメント
チーム始動日最初のツイートそれ相当の覚悟でこのチームにきました。


【いわきFC走りの革命の振り返り】

いわきFCのスプリントトレーニングを振り返りたいと思います。


1.「知らないを知る」

選手たちに行なったアプローチはまずは走ることへの知識を深めることです。

そもそもどうやったら速く走ることができるか?その速く走ることとサッカーをどう接続させるか。最高速度、スプリント回数、走行距離、方向転換、初速、止まり方、怪我をしない走り方、様々な角度から選手にはプレゼンをし、オンライン形式で座学も受講してもらいました。

陸上選手が当たり前に思っていることも、スポーツの垣根を越えると初耳ですということが数多くあります。それをいかにシンプルに分かりやすく分解して選手たちに伝えるか。知らなくて当然。知らないことを知ることが成長の一歩なんですという気持ちで寄り添いました。


2.「自分を知る」

僕のコーチングになくてはならないものがipadです。これはスプリントコーチとして10年間僕がコーチングする場面には必ず肌身離さず持っています。

サッカー選手は自分のシュートフォームやパス、ヘディングといったサッカーに特化したフォームの分析や形は十分に理解している選手がほとんどです。一方でそれが走りになると自分がどういったフォームで走っているかを分析したことはほとんどありません。

走ることへの知識が身に付く。では自分の走り方はどうなんだろう?を実際に選手の走りを撮影し、一緒に確認していきます。

あれ?思った通りに身体が動いていないな。正しいフォームと違った走りをしているな。そういった気づきを与えてくれるのです。いくら僕がこうなっているからこう直してほしいと言っても、本人は正しいと思って走っていたとしたらそこでギャップが生まれてしまいます。ありのままのその現象を見ることでより納得し、理解が更に深まっていきます。


3.「ストレングストレーニングとの接続」

フィジカルスタンダードを変える。いわきFCといえばクラブヴィジョンにもある通り、サッカー界に大きなインパクト与えているのがフィジカル面の強化です。僕も初めてストレングスのトレーニングを見た時は圧倒されました。ここまでやるんだなと。ただ重さを挙げるだけではなく、遺伝子検査から遺伝子別にグルーピングされ回数やセット数もカスタマイズされ、サッカーに接続するトレーニングでした。

ストレングスを担当する穂苅さんからもこれまでの取り組みや課題も聞いており、この鍛えた肉体を走りにどう接続させるかを考えました。

最初に走りに必要とされている筋肉の強化を選手にやってもらったところ、驚くほどできませんでした。この想像以上に「弱い」が僕にとってはチャンスだと思いました。僕が選手に伝えていること、コーチングしていることは主には「技術」領域にあたると思っています。コーチングされた通りに身体を操作すること。結果それがいい走りに繋がってきます。しかしながら、これには条件があり、基礎的な筋力や体力がないと再現できないと思っています。

例えば、少年サッカーチームにCロナウドが来ました。ロナウドの素晴らしいフリーキックを蹴るために、軸足はこうおいて、蹴るときの足首の角度はこうで、、といった技術的なアプローチを子供たちが教わり、シュートフォームがCロナウドとそっくりになったとしても、同じ威力のボールを蹴ることは不可能です。結局はその技術を支える土台がなければいけません。

いわきFCの選手たちには圧倒的な土台がありました。ただ、速く走るために必要な土台はありませんでした。ここを徹底的に強化する、そして、それをストレングスから走りとの接続を意識する。このストレングスチームとの連携は非常に大きかったと感じています。


4.「陸上トレーニングの導入」


ただ走る。シンプルなことではあるものの、ありと凡ゆる方法を用いて選手の走り、動作の改善に取り組みました。

ミニハードル、ハードル、バウンディング、牽引走、トーイング走。

挙げるとキリがありません。選手にとってもどのトレーニングが1番効果を実感したかもそれぞれでしょう。大切なのはとにかくいろいろチャレンジしてみて、そこで出た課題を改善していく作業です。このトレーニング成功した、失敗したではなく、チャレンジした結果どうよりよくしていくかを考えることが大切です。無駄なトレーニングなんて一つもありません。全てに意味があります。

陸上界では当たり前に用いられているものをそのままやってみるではなく、あくまで狙いをもって、サッカーの走りにどういい影響を及ぼすか。その結果、様々な方法でこの陸上トレーニングを実施した結果、陸上は陸上、サッカーはサッカー、というトレーニング方法の壁はないなと感じました。


5.「一緒に走る」

僕の中でこの一緒に走るということがかなり動作改善に効果があったのではと感じています。

サッカー選手の多くは全力疾走をすると全てにおいて力を振り絞り走る傾向にあります。歯を食いしばり、拳を握り締め、全身に力を入れて頑張る。もちろん気持ちは分かりますが、このサッカー選手に多い特徴が逆に足を遅くさせます。

例えば、強いシュートを打とうとしたときに、歯を食いしばり、拳を握り締め、全身に力を入れて打つでしょうか?この質問を選手にした時に誰もYESとは答えませんでした。リラックスをして、足がボールに当たったその瞬間に一瞬で力を発揮させにいくはずです。

走りも実は全く同じで、地面に足が着地したその瞬間しか地面に大きい力加える瞬間が当たり前ですがありません。その連続運動が走りです。100mを9秒台で走る選手は最高速度が出ている時に地面に着地している時間はなんと0.1秒を切ってきます。一瞬で大きい力を出す。つまりは強いシュートを打つ時と力発揮に大きな差はありません。

では、そのリズムを感じるにはどうすればいいのか?一緒に走ることでそのリズムを選手は体感していきます。一緒に走った選手の多くは、こんなにゆったりでもスピード出るんですね、今まで頑張りすぎてました、走っていて疲れない、と言った感想がほとんどでした。シンプルに速度出てないんじゃないの?と感じますが、選手のトレーニング中につけているGPSのデータではそれが自分の最高速度でしたというケースも数多くありました。

当然サッカーでは全力疾走だけではありません。最高速度だけ出ればいいかというと違います。いかに楽に何本も走れるようになるか。速度がゆっくりのトレーニングであれば、走りながら修正したりもします。数多く本数を重ねていくと意識しているつもりでも知らず知らずにフォームは崩れていきます。そこをすぐに修正する。

ジョギング、サッカーでの走り、トレッドミルの走り、水を取りに行く動作、ちょっとした動作も見逃さずに観察し続けました。その意識の積み重ねが今のいわきFCの90分止まらない倒れないを証明したのではないでしょうか。


【走りの革命は起きたのか?】

今シーズン、アナリストの村上さんとも試合のデータやトレーニング中のデータを共有していく中でも多くの発見がありました。

昨シーズンの平均と比較してもスピードが出ているチームの平均距離数も大幅に向上、最大で140%以上が向上し、全試合平均でも昨年の数値を超える結果になりました。今年最高速度の測定を実施しましたが、全員が最高速度を更新しました。ほとんどが5月の測定会でのデータです。選手にはこのぐらいの数値は絶対に出ると宣言し、選手も見事に達成してきました。ベストなコンディションで臨めば更なる更新は可能だと見ています。

現在集計している選手の今シーズン全試合の自分の最高速度から75%以上の回数にはまだまだ課題を感じています。もっともっとスプリントトレーニングでこの辺りの向上は十分に可能だと考えています。

昨年に比べて、走りにおいての筋肉系の怪我も大幅に減ったそうです。実際に選手数名からも、足が攣らなくなった、足にダメージが残らなくなったなどの声も数多くもらいました。ただ、全試合攣らなかったかというそうではありません。この辺り、まだまだ責任を感じますし、もっともっと改善できたと思います。

これまで受けてきた取材の中で1番多かったのは今のいわきFC の選手の走りの完成度は秋本さんの中で何%ですか?という質問です。今シーズンで100%まで持っていくとスプリントトレーニングを施してきましたが、今の正直な感想は70%ぐらいです。まだまだやり残したこと、もっとこうすれば良かったと心残りが多いです。チーム全体に向けてのアプローチの難しさの方が心に残っています。

過去のツイート

いわきFCをJリーグで1番「速く」Jリーグで1番「走れる」チームにする。

そう宣言してきました。

過去のツイート

チーム始動2日目で絶対速くなる、強くなると確信しました。

ただ、僕の中では完成しませんでした。僕の中では革命は起こせませんでした。もっとです。もっと自分自身が勉強して、追求して、チャレンジしないとJ2では戦えないと思います。もう全員がその先の世界を見ています。もっともっとこのチームに貢献したい。今はそう思っています。


最後になりました。
改めてお礼を言いたいです。感謝の気持ちを伝えたいです。

優勝したときJ2昇格した時、本当に嬉しくて、本当に現実になったんだと思うと、溢れ出る涙が止まりませんでした。覚悟を決めて、これまでの10年をかけて僕はこのチームに来ました。だからこそ、初めての気持ちになれたんだと思います。

僕をこの素晴らしいチームの一員にしてくれた大倉社長。本当に感謝しています。本当に本当にありがとうございました。

この人言ってること本当かな?足速くなるのかな?
初めてで戸惑いもあった中、革命の一歩を一緒に歩んでくれたいわきFCの選手のみなさん、本当にありがとうございました。

村主さんはじめ、全く業界の違う僕を温かく優しく迎えてくれたスタッフのみなさん、本当にありがとうございました。

そして、これまでいわきFCを支えてくれたサポーターのみなさん、初めてピッチで声出し応援ができない中で聞いたあの応援の衝撃。涙が出ました。初めてホームで声出しの応援を聞いた時涙が出ました。こんなにすごいんだ。こんなに暖かいんだと。昨日、選手のコールが終わった後に僕の名前がコールされた時、本当に嬉しかったです。背を向けていたのはあの魂の息吹く応援を背中で全身で感じていたかったからです。本当に選手の支えになりました。みんなの支えになりました。本当にありがとうございました。

こんな経験をさせてもらい僕は本当に幸せ者です。
一生忘れることのないスプリントコーチとしてのチャレンジでした。

僕の夢はどのJリーグチームにもどのプロ野球チームにもどのスポーツチームにも「スプリントコーチ」がいてくれるスポーツ界にすることです。

40歳で現場は離れよう。そうスプリントコーチになった30歳の時に思っていました。自分の思い通りにはなりません。まだまだもっともっと走ることを追求したい。今はそう思っています。僕の走りの革命への旅はまだ続きます。

写真提供:いわきFC
写真提供:北原基行


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