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29. ALC

ひとり居酒屋デビューから今月の給料日で半年が経った。以前からは考えられない程、よく外に出るようになり、今では友人にお勧めの店を聞かれるような立場になった。


その日は急に「今日をひとり居酒屋デビューの日にしよう」と思い立った。デビューのお店はずっと決めていた。店への連絡を済ませ、夜が来るまでの間に買い物をしようとバス停へ向かう。次の発車を待つ間に、訃報が届いた。


泣きながらバスに揺られ、狼狽えながらお通夜に必要なものを買い、無気力なまま買い物を終えて帰宅した。
再度外に出るか迷いつつも、ひとりで過ごす夜に耐えきれず、お店へ向かった。扉を開き、店主さんの笑顔に救われた。


ひとりでソワソワしながら、アルコール優しめに作ってもらったお酒をゆっくり飲んでいると、次々にお客さんが来た。


ラジオを聴いて店を知り、初めて来たという人。今日は給料日だから!とご馳走してくださった人。前に友人と行ったお店の人。仕事前に空腹を満たしに来た人。


いつの間にか店内は賑やかになり、そのあたたかい輪の中にいることが幸福だった。外の世界ってこんなに楽しかったのか。この歳でここまでの新境地へ辿り着くことができるなんて、思ってもみなかった。


さよならとはじめましてを、一気に経験した日だった。もう会えない、新たに思い出をつくることが出来ない淋しさと、今後新たに思い出を重ねていくかもしれない期待と。

人と人との間でわたしは今確実に、生きていると思えた日だった。ここからきっと、何かが始まる。そう思えた日でもあった。


全てが繊細な確率で繋がり合い、わたしはこの夜に、出会うべくして出会ったのだと思っている。

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