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さかな さかな さかな🐟!

 我が家の食卓には毎日と言っていいほど何らかの形で魚がのぼる。

魚が大好きな家庭であるので必然的に近所のスーパーの魚売り場かもしくは近所の魚屋に行くことになる。

我が家の買い物当番はほとんどが母。

だけど週2ぐらいは私が買い出しに出かけていた。

その日もご多聞にもれず、近所のスーパーの魚売り場に行った。

当時流行っていたのかなんだかわからないけど

なぜかいつも「さかな さかな さかな〜〜さかなをたべーると〜〜♬」と歌う歌が

魚売り場のコーナーのバックミュージックよろしくかかっていた。

私も「まるで新興宗教の洗脳作戦じゃん!」と思いつつ思わず口ずさんでしまう…というていたらくだった。

まあ、お魚ミュージックは良しとして、この歌にまみれながらも今晩のさかなを吟味するのに余念の無かった私の耳に

「お疲れ様です!」

…って声が右の耳に入ってきた。

魚コーナーに目を凝らしていた私は身を起こして右側をみた。

 …そこに立っていたのは月に1、2度通って気に入っている居酒屋でバイトしている若いお兄ちゃんだった。

 「あ〜、今晩のお店の買い出し?」と訊ねると照れたように「そうです。」と。

で、そのあといきなり「あの〜、あの、僕と付き合ってくれませんか?」と言われた。

………………………………………………………………………?

「ごめんなさい…」

気づけばそれだけ答えていた。

「だめですか?僕が若いからですか?バイトだからですか?だめですか?…」

私は「ごめんなさい」…それしか返さなかったと思う。

正確に言うと…というか、あとあとじっくり考えるに、何も返答しようがなかったというのが正しいかもしれない。

兎に角、一瞬のことで突然すぎてキツネにつままれていたようで

頭の周りを「?」が大量に飛び交うほか仕方なかったのだ。

…お兄ちゃんは脱兎のごとく消えた。

彼は私がぼーっと放心したように佇んでいる間にいなくなった。

私はひとり残って「さかな さかな さかな〜〜」と歌う「おさかな天国」の歌にまみれながら、今、目の前に突然現れた現象に戸惑っていた。…

魚を吟味する余裕などなかった………「これはいったいなんなんだ〜!」

 それからしばらくして友人に誘われてその若いお兄ちゃんのいる居酒屋に行ってみた。

私はどんな顔をしていけばいいのだろうか…と案じながら。そしてあのお兄ちゃんはどんな態度をとるのだろうか…と思いながら。そして、あの日の告白は白昼夢などではなく本当だったのだろうか…と思いながら。

 …だけど、もうあのお兄ちゃんは居なくなっていた。

バイトを辞めたそうである。

いつ辞められたのか聞いたら、あの魚売り場であったすぐ後だった。

…もう永遠にあの告白が私の白昼夢であったかなかったのか証明のしようがない。

なぜあの日、偶然に居合わせたスーパーで彼は私に告白してきたのだろうか…?

また、なぜ会話さえろくすっぽしてやしない私にそんな告白をしたのか…。

私が多分彼よりも相当な年上と知っていたのか知らなかったか…。

それになぜ私は考えもせず速攻で「ごめんなさい」と言ったのか…。

すべては永遠に謎である。

 ひとつ想像してみるに、私と友人の2人だけでその居酒屋に行った時はいつもカウンターに陣取っていた。

そして、私たちはいつもよく喋り、よく笑っていた。

ときどきは厨房の中へ話しかけたりもしていた。

いつも天国の住人よろしくその空間全部、時間全部を楽しんでいた。

…彼はそんな私たちの会話や時間を見ていたのではなかっただろうか?

すべては永遠に謎である。

そして謎であることが私の人生をより深く味わい深いものにしてくれていることに少しずつ気がついてきた。

「永遠の謎」こそが私の生きてくエナジーかもしれないと…

一瞬が永遠だと…






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