『JUNK HEAD』
話題になっているストップモーションアニメーション映画の『JUNK HEAD』を見て来ました。アップリンク渋谷で鑑賞。初めて行く小劇場でしたが平日にもかかわらずかなり席が埋まっていて驚きました。
作りこまれた世界観がたまらない
世界観については冒頭に字幕で説明されるのですが、作りこまれたディストピア的な世界観がそそります。人間が労働力として生み出した生命体「マリガン」と戦争をした後の世界という、設定はそれほど珍しいものではありませんが、パンフレットを見ると劇中でわかること以外の空白の時間の歴史も考えられていることがわかりました。今作は基本的にはマリガンたちの住む地下の世界が舞台となります。マリガンの世界は技術的に発展しているとは言いにくく、地下通路には配管や配線が走っています。近未来設定と荒廃した世界が同居するというサイバーパンク的な側面も持っているのが絶妙です。作中で人間の生活もわかるのですが、死すら克服しているのに代わりに不便なことや無駄なことをしなければいけなくなっていて、便利とは何なのか考えさせられます。
非常にリアルな世界観をストップモーションアニメで表現するというアンバランスさがカルト的な人気を呼んでいるのかなと思います。
カット数、カメラアングルがすごい
カメラアングルが普通の実写映画並みに変わっていくのが印象的で、かなりの手間とコストを感じました。クライマックスのアクションシーンではカメラアングルだけでなくキャラクターの激しい動きも滑らかに表現されていて、どのようにシミュレーションして撮影しているのか疑問に思いました。カットが変わればいちいち人形をセットしなければなりませんし、そもそも人形をセッティングするためにかなり動きにも制約があるはずです。
パンフレットの解説を見ると、まずカメラアングルまで指定した詳細な絵コンテを書き、映像で撮影できるところは演技をしながら撮影し、それをトレースするように人形を動かすとのことでした。監督の想像力には驚きですし、これだけでも普通の映画より手間がかかっていそうです。
グロかわなキャラクター
人型のキャラクターたちはみなかわいらしく、ストップモーションということもあってコミカルな動きをしています。人型以外の生物はグロテスクでありながらどこか可愛らしくも見える、絶妙なデザインです。キャラクターの種類が豊富なのも驚きで、ストップモーションだとイラストやCGと違って実際に人形を作る必要があるのでそれだけでも手間を感じます。体の動きはもちろんですが指先なども非常に細かく動いていて、動きはかなりなめらかで生き生きしていました。
映画館のロビーには実物の人形が展示してあったんですが、思ったよりもサイズは小さく感じました。映画の中で生き生きと動いていたキャラクターたちがそのまま目の前にいるというのは不思議な感じでした。
キャラクターたちは存在しない言語を喋っていて字幕が当てられていたのですが、エンドロールのキャラクターボイスにはほぼ堀監督の名前が占めていたのには笑いました。
人間は肉体を持たないでも半永久的に生きられる存在になっており、マリガンは地下で生まれ育った、目を持たない生き物です。そんな今の人間とはかけ離れた存在が感情をあらわにしたり、表情豊かに描かれているのがとてもおもしろいです。
パンフレットの内容が濃い
パンフレットはページ数が多いうえに内容が濃密で、劇中で語られなかった詳細な設定の他にも撮影技法や人形、セットの組み方などについても書いてありました。パンフレットも手作り感があっていい。ここまでの規模のストップモーションアニメーションも前例がないとのことなのでパンフレットというよりも貴重な資料と言えるかもしれませんね。
まとめ
パンフレットには映画を構成する要素である「世界観」「キャラクター」「ストーリー」について書かれていました。近年のSFではシリーズを通して世界観に矛盾が起きていたり、キャラクターの行動に共感できないがためにストーリーにイマイチ没入できないことも多いです。監督の交代や制作陣が入れ替わったり、方向性が変わるなど原因は様々だと思いますが、そういった作品を見るたびに撮影規模が大きくなればいいというものではないと感じます。『JUNK HEAD』の場合、少ない制作陣だからこそ、しっかりと意思疎通ができて監督の頭にある深みのある世界観をそのまま表現できたんだと思います。
ストップモーションアニメーションは製作費は抑えられるとのことですが、パンフレットを読めば読むほど手間とコストのかかる撮影技法だということがわかりました。そうでなくとも鑑賞直後は「とにかくすごい作品を見た」という感覚があります。
これに続く作品が出るのかはわかりませんが他にも長編のストップモーションアニメを見たいと思いました。
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