『サイレント・トーキョー』渋谷スクランブルの再現度”は”すごかった!
劇場公開中の『サイレント・トーキョー』を観てきました。大掛かりなクライムサスペンスで、渋谷スクランブル交差点のセットを組んで撮影したということと、豪華キャストに魅かれて観に行ってきました。
記事中には映画のネタバレを含みますのでご了承ください。
事件前のわくわく感
監督は波多野貴文さん。予告編を見た時からどこか「踊る」シリーズやそのスピンオフの『交渉人 真下正義』の雰囲気があるなと思ったらそれらに関わっていた方でした。
実際、空撮で夜景を撮影する手法や、事件現場に向かうパトカーの助手席から撮影したりといった事件発生時の演出が印象的でした。
冒頭のクリスマスの華やかな街の演出も『交渉人 真下正義』っぽく、これから起こる事件についてワクワクさせました。事件までのテンポも早く、日常が非日常に変わる瞬間の演出が上手いなと思いました。
本物としか思えない渋谷スクランブル
予告映像でも印象的な渋谷のスクランブルは、実際に渋谷でロケを行ったのではなく栃木の足利競馬場跡地に組まれた大掛かりなセットだというので驚きです。総工費3億円、エキストラ1万人強ということで、いかにこのシーンに力を入れていたかがわかります。
実際に映像で見ると本物かと思うほどリアルに再現されていました。CG技術に驚くばかり。
群衆の中で撮影された映像の臨場感はすごかったです。このあたりは『踊る』シリーズや『交渉人 真下正義』などでもたくさんのエキストラを使っていたのでこの監督の得意とするところなのでしょう。
しかし皮肉にも違和感を感じてしまう
予告映像の中に「これは戦争だ」という文句があります。劇中でも「戦争」というキーワードが何度も使われていました。「もしクリスマス・イヴに東京都心で爆弾テロが起こったら」というシミュレーションといった意図があったと思います。そのためにリアルを追求してスクランブルのセットを組んでまで渋谷を再現したのだと思います。
しかしコロナ禍にある現在からしてみるとどうにも違和感があります。
渋谷のシーンでは、犯行声明によって渋谷ハチ公前に爆弾があるということがわかって警察が爆弾を捜索し、同時に若者やYouTuberたちが押し寄せます。
しかしその中でマスクをしている人はほぼおらずソーシャルディスタンスなどはなく、警察の呼びかけが無駄になるほどの人が大挙しています。
撮影されたのはコロナ禍以前なので仕方ないとはいえ、今現在の渋谷に見えたかというとそうではありませんでした。
また、これだけならまだいいのですが集まった若者たちが過度に頭悪そうに演出されているのが引っかかりました。現代風「記号的バカな若者」ということでしょうが、さすがにここまで頭悪くないのでは...と。(実際に起用されたYouTuberも可哀そうだと思いました笑)
「記号的なバカな若者」は昭和や平成初期の特撮でよく目にしました。渋谷のスクランブルということもあって今にもガメラが出てきて焼き尽くしそうでしたね。
かなりリアルで臨場感のあるシーンではあったのですが、現在の日本の情勢とズレてしまっただけでなく演出のせいもあって令和というより平成初期の映画のように見えてしまったのが残念です。
現実味がないということで言えば、鶴見慎吾さん演じる総理大臣も露骨すぎて違和感がありました。「日本を戦争のできる強い国にする」などと強い言葉を使っていましたが、言葉のチョイスにはもう少し気を使った方がリアルだったかもしれません。(トランプ元大統領の「日米安保不公平発言」や安倍政権の強引な憲法改正を考えるとあながちフィクションとも言い切れませんが)
残念ながら「犯人の動機付けのために無理やり言わされているんだろうな...」というように見えました。
テンポは良いけど
東京で起こるテロ事件を中心とする群像劇として描かれていたのですが、テンポよく物語が進むあまりそれぞれの人物のパートが短く、群像劇というよりは物語の説明役を交代していくような感じでした。
また、事件直前の渋谷のシーンでは現場を取り締まる警察と若者の映像が多く使われていて豪華な俳優陣の存在感が薄れていたように感じました。
それまであまりキャラクターとして深堀されていないせいで「事件を追う刑事バディ」「事件に巻き込まれるOL」どちらにどう感情移入していいかもわからず、「バカな群衆」に自分を投影することも難しいなと困惑していたら爆発が起こってしまいました。
リアルな事件のシミュレーションで感じるべき「自分がこの中にいたらどうなるか」というリアルな想像までは至りませんでした。
総合的に見てどんな作品だったか?
題材はすごくいいと思いましたが、それぞれのシーンで困惑している間に映画が終わってしまった、という感じでした。
台本の段階から、100分以内の作品に仕上げようと決めていました。一気に見られることが重要と思ったんです。(秦建日子さんの)原作はスピード感があったので、それを大事にしたいと思いました。原作では数日間の話ですが、1日にまとめて、登場人物の背景にも色を加えました。肩肘張って、さて映画を見ようという感じではなく、最初は、『渋谷が爆発するんだって』という興味本位、気楽な気持ちで見ていただき、見終わった後に『何が原因だったのか?』って話してもらえれば。初号の後では、みんながざわついている感じがあったのですが、映画を見た皆さんも、そんな感じだとうれしいですね
このように監督は語っているのですが、スピード感が仇となったように感じざるを得ませんでした。
決して軽く扱っていいテーマではないと思いますし、東京オリンピックを控えている現在だからこそ、肩肘張って見れる作品でもあってほしかったですね。違う意味でざわついて劇場を後にしてしまいました。
さらに監督はこのように言っています。
この作品はクライム・サスペンスであり、家族の愛の物語でもあり、なぜ、この爆破事件が起こってしまったのかという謎解きもあります。大人たちが責任を取る話でもあるし、若者たちが時代を乗り越えていく物語でもある。いろんな顔を持った作品だと思っています
「家族の愛」についての描写は少なすぎてよくわかりませんでした。「大人たちが責任を取る」というのは、テロを起こした責任を取って車で海に飛び込むことなんでしょうか?乗り越えるべき「時代」も提示されていなかったように思えます。
スーパーご都合主義的な強引な展開や、劇中で描かれることのない事件の詳細についてはもはや突っ込まないことにします。
ただ、どんどん三國連太郎に似ていく佐藤浩一を見れましたし実際に登場シーンは少ないのに抜群の存在感を発揮しているのが見れたのはよかったです。
また渋谷スクランブルシーンの完成度はかなり高く驚いたので、今後の映画に生かされることを期待したいです。
残念ながら一足早いクリスマスプレゼントにはなりませんでしたね...
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