気持ちがイイのは名機だからなの?昭和の名エンジン列伝
いったいエンジンのどんな性格をもって、名機と称するのか?
最高出力?加速レスポンス?熱効率の高さ?販売実績?燃費?さらには目に見えない指標のもう一つに排気ガスのクリーンさ、二酸化炭素排出量なんて項目も評価基準に・・・・・
でも、実感できるエンジン性能といえば高回転まで回るスムーズさとそこで発揮されるパワー、アクセルを踏み込んだ際に感じるレスポンスの良し悪し。昭和の半ばすぎ、まだ大半のエンジンのバルブがOHV駆動だった時代に名機の名をほしいままにしていたのが日産の大衆車に多く積まれていた4気筒1000/1200ccエンジン、10A,12Aの系列でしょう。そのレスポンスの良さはとにかく定評があり、軽快に吸け上がって定員乗車のスカイラインGTも置いてきぼりにできたほど背中に強烈な加速Gを感じさせました。
サニー1000のデビューと同時開発された10Aが1200に増量され、ツインキャブで80馬力/83馬力に増強されたころ、カタログではライバルのカローラを5%ほど上回っていたものでした。サニークーペGXに搭載された後、5速目が直結のクロースレシオ・ミッションと併せてGX-5も発売され、ツーリングカーレースの必勝兵器となります。
このエンジンはサニーより小ぶりな日産で最初の量産前輪駆動セダン、チェリーにも横置き配置の上ミッションの真上に置かれて前輪を駆動しました。これは一昔前の英国ミニと同じ方式で、そのままでは前輪が逆回転してしまうところから、アイドラーギアを一段挟んで回転方向を直していました。チェリークーペが近づいてくると、このギアのうなり音(バックする時みたいな)ウォームギアの甲高い音がまるで電気モーターのように聞こえたのが新鮮な印象でした。チェリーの最強版として、やはり12Aが搭載され、ツーリングカー・レースでは雨の日に格別の強みを発揮したことから雨の「〇〇〇」という愛称で呼ばれるドライバーも誕生。FRのサニーとは違った個性を発揮していました。
サニーが1200/1400のまま大柄なボディのB210系にモデルチェンジした後も旧型となった110サニーの人気は絶大で、これは後にレースのホモロゲーションが特例で延長されたことが物語っています。では宿敵カローラはどうしたのか?カムシャフトをクランク軸近くに置いたOHVのままでは歯が立たないと考えたか、ヤマハの技術を生かしたトヨタ2000GT同様、大衆車向けのT,2T(OHV)エンジンをツインカム=DOHC化したセリカ、カリーナ用の1600エンジンをコンパクトなカローラのボディに押し込んだカローラ・レビン/スプリンター・トレノという最終兵器で対抗します。
これが今も中古市場で人気の高いTE27型レビン、トレノで排気量クラス分けではサニーと違うものの、人気の奪回という面では大成功を収めたモデルです。大量生産されたツインカム2T-Gはやがてコロナやセリカ・リフトバックにと採用車種を増やし、トヨタ・ツインカム王国の構築に寄与します。
レスポンスと高回転では、おそらくこの時代に実用化されたロータリーエンジンの右に出るものはないでしょう。それが大衆車のファミリアに10Aエンジンとして搭載され業界を驚かせました。カローラとほぼ変わらぬサイズのボディに最高出力が100馬力もあるロータリーを積んで70万円。カローラSLもサニーGXもギリギリ60万円を割る価格で買えた当時ですからこれでも割高感はありましたが、今思えば立派な価格破壊です。出力もライバルより2割以上高く、最高時速もカタログ上で20kmも上回る180kmを謳いあげるなど、この価格で太刀打ちできるライバルは皆無でした。
ホンダの初期のツインカムエンジンも800ccで70馬力、コスパでは上々でも491cc×ローターが2つあるREには敵いません。ホンダ渾身の5ナンバーセダン=ホンダ1300は1300ccという排気量から95/110馬力を絞り出すという高性能ぶりをアピールしましたが、商業的には成功したとは言えませんでした。
さて、日産にはもう一機、S20という伝説の名機が存在するのは有名、ですが実際にその味わいを楽しめたオーナーは当時日本国内に1,000人もいたかどうか?そもそもレース用エンジンとして少量生産されたもので、スカイラインやフェアレディZの最高峰に位置するエンジンとして今も語り草となっています。価格も当初から3ケタと高価だった当時よりさらに一桁余計に出さないと手に入らないレアものです。
直列6気筒エンジンではトヨタのM系列、日産のL20が国内市場では圧倒的多数を占めましたが(ほかに2リッター直列6気筒はS20以外に無かった)海外にはBMWのスモール・ブロックと呼ばれるC系列の6気筒があり、シルキー6との別称を貰ってそのスムーズさ、静かさはメルセデスをも羨ましがらせたほどだったそうな。小型ボディの320に6気筒を積んだビーエムやその4気筒版318の販売は日本市場でも大躍進を見せ、六本木カローラと揶揄されるまでにポピュラーな存在となりライバルたちの見本ともなりました。
さて、名機A12エンジンはA14(1400)まで拡大されたものの、前輪駆動用に新開発されたE系列のエンジンに道を譲り、大人気だったサニー・クーペも表舞台からは消えゆく運命にありました。代わりに人気を博したのがライバル=レビン・トレノの系譜で人気の2T-Gを受け継ぐべく1600ツインカムの4バルブ新型エンジン4A-Gがレビン、トレノの新しい心臓となります。やがてホンダもツインカム戦線に名乗りを上げ、シビックSiやインテグラといった人気車種を輩出します。
高性能の代名詞だったツインカムや4バルブ、インジェクションなどもすでに当たり前の装備となり、やがてエンジンそのものがモーターにとってかわられようとしています。
モータージャーナリストたちが頻繁に使った「モーターのようなスムースさ」は、もう慣用句としては使えなくなります。クルマの心臓が全部モーターに置き換わったら、モーターごとの個性や特徴はどう言い表されるのでしょうか?ガソリンエンジンのようなビートを感じられる・・・・とか?
新しいEV時代の評価軸の変化にも注目してみたいものです・・・・・