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ボカロ嫌いな人にこそ届けたい2024年おすすめ曲10選
2024年に投稿された膨大なボカロ曲の中から、普段ボカロを聴かない人やボカロに苦手意識がある人にもおすすめできそうな10作品を厳選させていただいた。なお、ここでの「ボカロ曲」にはVOCALOID以外の歌声合成ソフトが歌唱する楽曲も含めている。
このシリーズを始めて5回目になるが、今年はこれまで以上に"どれだけ人間のようにリアルな歌声か"を最も重視した。AI技術を取り入れた歌声合成ソフトが次々と登場し、リアルな合成音声が当たり前になっているからこそ、その中でもソフトウェアとクリエイターそれぞれが持つ力の相乗効果が素晴らしいと感じた作品を厳選している。そしてこれまでと同じく、1作者につき1作品のみ、様々な音楽ジャンル・歌唱ソフトから選定することなどを条件に、10作品を1つのアルバムのように楽しめることも意識した。
毎年言ってますが、私の独断と偏見で決めたこの10選に、せめて世界中の誰か一人でも共感してくれたら嬉しいです。
プレイリストはこちら👇
※曲順はニコニコ動画での投稿日時順
1. Intergalactic Bound / 雄之助 & CircusP feat.初音ミク
Let's dance!
With a rhythm from New York to Japan
Know you'll never be alone
★おすすめポイント★
海外ファンからも高評価の調声力
初音ミクたちのワールドツアーシリーズ『MIKU EXPO』10周年記念テーマソングとして、日米2人のクリエイターによるコラボで誕生した全編英語曲。4月、米国最大級の音楽フェス『コーチェラ』に初音ミクが出演した際にも演奏された。
北米出身の音楽クリエイター・CircusPさんはボカロを英語で歌わせる高い調声技術で人気を博しており、本作でもクールなEDMポップに乗せたミクのエネルギッシュな歌声に心が躍る。英語ネイティブの人にこの歌声がどう聞こえているのかは分からないが、YouTubeのコメント欄を見る限り海外ファンからの評価も上々のようだ。
2. 水平線のような僕らへ / Vivid Lila feat.AiSuu
交わることのない願いが 僕らを染め上げてゆく
たった一つのこの想いだけは
届きますように
★おすすめポイント★
一音一声の細部まで爽やかすぎる
様々なジャンルで楽曲制作を手掛ける鈴谷皆人さんが、同人サークル「Vivid Lila」名義で投稿した作品。この曲自体は2022年にシンガーのhanaさん歌唱でリリースされたものだが、こちらはAI歌唱ソフト「VoiSona」のボイスライブラリ「AiSuu(あいす)」が歌唱するリメイク版で、『ボカコレ2024冬』参加作品として投稿された。
清涼感溢れるサウンドの完成度はさることながら、歌声の爽やかさ&人間らしさも尋常じゃない。あどけなさの残るパワフルな声質、抑揚や息づかい、さらにはリップノイズまで、耳を凝らしても歌声合成っぽさをほとんど感じない。コメント欄にも「何度も聴いてるけどずっと人間だと思ってた」「AIなのが信じられない」といった驚きの感想が寄せられている。
3. サメのワルツ / spika feat.GUMI
サメ サメ サメ サメ
じょうずにおよげたら
くしゃくしゃわらってあそびましょ
ふかい海でダンス おどろう
★おすすめポイント★
みんなのうたで流れても違和感ないクオリティー
こちらも『ボカコレ2024冬』よりspikaさんの参加作品。歌唱するGUMIことメグッポイドはボカロとしては古参のキャラクターだが、本作で使用されているのは2023年12月に新発売された「Synthesizer V AI Megpoid」。
雄大なワルツ調のサウンド、「シャーク」「ジョーズ」などサメにまつわる語呂を交えた歌詞、ひたすらサメ愛を感じるユニークで教養にもなるMV、どこを取ってもクオリティーがすごい。突然「みんなのうた」で流れてきても全く違和感がないし、SV版GUMIの歌声もすごく"みんなのうたっぽい"ように聞こえてくる。
4. 餞に愛を / sabio feat.重音テト
言葉はいつしか意味を帯びて
僕らは互いを恐れていた
痛みさえも消えて行くように
それでも僕らは愛を探す
★おすすめポイント★
この歌声に魂がないとは思えない
バンド「Hi Cheers!」のメンバーとして活動していた高村風太さんがソロ活動名義「sabio」で投稿した作品。歌唱するのは現代ボカロシーンの覇者といっても過言ではない(?)「Synthesizer V AI 重音テト」。
少し懐かしい平成J-POPを彷彿とさせるメロディーやサウンドの雰囲気に、現代ボカロシーンの潮流を取り入れたアレンジ、そして切なくも力強い真っすぐな歌声で大切な人への愛を歌い上げている。人間とAI、どちらが善とか優秀とかじゃない。クリエイターの手腕とソフトウェアの歌唱力・表現力が重なりあえば、機械の歌声にも"魂"は宿る。
5. カドリール / KALONE feat.Mai
Moreishな Lavishな ハイデガーの言う「存在」も
キスと鎖で繋ぎ カドリール 日ならずして狡獪なLying
Noirishな Lavishな 舞い踊る華麗な人形
Halo 掴み所ないヒロイン ふらり どっかいなくなり 度し難い嗤い
★おすすめポイント★
驚異的にリアルなウィスパーボイス
ボカロPとしての活動10周年を迎えたKALONEさんの作品。歌唱するのは数ある数あるAI歌唱ソフトの中でもトップクラスのリアリティーを誇る(と個人的には思っている)「Synthesizer V AI Mai」。
これ本当にウソじゃなんですけど、初めて聴いたときは普通に人間歌唱だと勘違いしてスルーしかけた。ダークな雰囲気を演出するウィスパーボイスの息遣いはとても合成音声とは思えない。歌詞が難解で少し聞き取りずらい部分もあるが、声質のリアリティーに対する衝撃が圧倒的に勝ったので10選入りを即決した。
6. 残照 / 藤井策 feat.Ayame
放たれた光になって
向こう側へ届いたら
もう二度と戻らないって
心からそう思っているんだ
★おすすめポイント★
王道ロックがソフトウェアの魅力を昇華させる
音楽ユニット「水底のクロエ」で活動する藤井策さんのソロ投稿作品。歌唱するのは2023年12月に発売された「Synthesizer V AI Ayame」。
Ayameはその伸びやかで艶のある声質ゆえかゆったり壮大な曲で使われるイメージが強い(あくまで個人的に)。だからこの曲のような疾走感のあるロック曲を歌った時のギャップでさらなる魅力に気付かされた。Ayameというソフトウェアにキャラクタービジュアルは設定されていないが、ステージで熱唱する姿が目に浮かぶ。
7. いえない / 千石ナタデコ子 feat.花隈千冬
こわいことがあるなんていえない
逃げてしまいたいなんていえない
君に伝えられない言葉が
なにより胸をしめつけていて
★おすすめポイント★
クールな調声がレトロポップスと相性抜群
ジャンルにとらわれない多彩なポップスを得意とする千石ナタデコ子さんの作品。歌唱するのは「Synthesizer V AI 花隈千冬」。
花隈千冬の特徴として、吐息混じりの落ち着いた歌声が90年代風のシティポップとマッチすることを他の楽曲で重々承知していた。しかしこの曲は別格と言っていい。洒落たサウンドと恋い焦がれる切ない歌詞に、大人の雰囲気漂う魅惑の調声技術が溶け込んでポップスとしての完成度を何段階も高めている。
8. 離岸 / 烏鷺 feat.知声
思い出せない向こう岸を
★おすすめポイント★
吸い込まれそうなほど神秘的な歌声
作詞作曲は烏鷺さん、調声はセブヶ崎詠人さんが手がけた作品。AI歌唱ソフト「VoiSona」のデフォルトボイスライブラリ「知声」が歌唱する。
セブヶ崎詠人さん(旧名義:ハチナナ)が調声した知声曲を10選に入れるのはこれで3年連続。できるだけ幅広く選出したいところなんですがこれはしょうがないです。だって美しすぎるんだもん、、、寄せては返す波のようなリフレインと暖かく儚い歌声のハーモニーが、どこか遠い世界へと意識を遠のかせる。
9. 丸を書いている / 秋は渋色 feat.宮舞モカ
どうやって愛を乞うていいのか
知らないその窮地で
見えない銃を鳴らした
少年が書いた丸
★おすすめポイント★
世界観を際立たせる圧巻の歌唱力
幅広い作風で注目を集めている秋は渋色さんの作品。歌唱するのは2024年9月に発売されたばかりの最新AIシンガー「Synthesizer V AI 宮舞モカ」。
宮舞モカはそのクールかつパワフルなエグ歌唱力で人気急上昇中のソフトウェアだが、中でもこの曲は特にすごいと思った。単なる力強さとは違う、緊張感のあるヒステリックな歌声が楽曲の世界観をさらに強調させている。ちなみにタイトルや歌詞の"丸"が何なのかはMV内にヒントらしき描写あり。
10. ノスタエフェリア / はりねずむ feat.永夜Minus
君の声が 聞こえるまで
暗く長い深い 道だとしても
いつかとなりをまた歩けるように
★おすすめポイント★
溶けゆくように美しい珠玉のバラード
はりねずむさんの個人としては4作目の投稿作品。歌唱する中国語ライブラリの「Synthesizer V AI 永夜Minus(えいやマイナス)」は日本国内に流通ルートが無いため購入ハードルの高いソフトウェアだが、徐々に使い手が増え始めて知名度・人気も上昇しつつある。
そんな永夜Minusの歌声は冬の夜空のように美しく澄んでいて、また触ると溶けてしまう雪の結晶のように儚い。淡々としたピアノ主体の伴奏から始まり、中盤からストリングスが加わって壮大さを増してゆく、さながら映画のエンディングを思わせる展開に心を打たれた。
「ボカロ曲」と言いながら今年はついに10曲中9曲がVOCALOID以外のソフトウェアになってしまったが、特にSynthVが圧倒的な強さを誇るのは現在の勢力的に仕方ない。しかし来年は本家VOCALOIDから「VOCALOID6 初音ミク AI」の発売も控えている。フラッグシップとしての逆襲に期待したい。
最後に、2024年も沢山の素敵な作品を生んでくれた全てのクリエイターに最大級の敬意と感謝を申し上げる。
P.S.
人間らしさとかそういう選定条件を一切除外した、私個人の2024年ボカロ曲1選は圧倒的にこの曲です。