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誰かを想う酒。
二十数年生きてると、この人のことが大好きで大好きでたまらないという人の一人や二人出てくるものだ。
わたしの場合、その出会いは大学生の時だった。
滑り止めの大学に嫌々通い続け、価値観レベルで合わなそうな同期に作り笑顔を向ける毎日。
追いかけてた夢はいつの間にか見失っていた。
…いま思えば二十歳そこそこの小娘が何を言っているのだ、と笑い飛ばすこともできるがその時はかなり気持ちがやさぐれていた。
そんな時に彼に出会った。
一筋縄ではいかない変わったメロディラインと歌声、平易な言葉なようで感傷的な歌詞。
いつしか「彼の作る音楽はわたしの細胞を構成しているのだ」と信じるくらいには夢中になっていた。
当時はまだ主流になっていなかったブログで彼は日常を綴っていた。
時には睡眠時間を削り、時には救急車で運ばれるくらい、音楽にひたむきになっていた彼の姿はわたしの憧れだった。
「彼のようになりたい」
いつしかわたしはそう思うようになった。
…
…
…
突然の訃報を聞いたのはクリスマスイブの夜だった。
みんなが多かれ少なかれ幸せについて考えたり、その幸せを噛みしめるようなそんな日に、彼は突然この世からいなくなってしまった。
心にぽっかり穴が空くというのはこういうことだ、と小娘は思った。
メロディや歌詞やそれを創り出す彼の生き方までをも愛していたのに、まだまだこれからだと言われるような若さで彼は突然いなくなってしまった。
「死とは永遠の不在である」と誰かが言ってた。
大好きで大好きでたまらない彼はもうこの世にはいないけれど、それでも彼が創り出した音楽は今でもこの世にある。
大切なのは死を受け止めつつも、自分がその分強くしっかり生きてやろうという気概なのだ。
…
…
…
今年の秋には、わたしは彼の歳に追いついてしまう。
わたしは今でも恥ずかしいことに通勤電車が嫌だとか、会社員生活が嫌だとか、そんなしょうもない言い訳をしながら生きてきてしまった。
だけど、もうすぐ29になる。
20代最後の歳、彼はどんな想いをしながら生きていたのだろう。
それを思うと自分の人生に言い訳をするのはもうやめにしよう、そう思ったのだった。
たとえその人が自分の側にいなくても、特別なツマミがなくても、高いお酒でなくても、大切な人を想いながら飲む酒は人生を確実に前向きに進めてくれるのだ。
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