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「手動式加圧ポンプ」で、窓ガラスを掃除した午後。

 築50年以上はたっている木造住宅に住んで、20年以上になる。

 あちこち傷んできているものの、最初に建ててくれた大工さんの腕がよかったせいもあるし、最近は、ご近所の人にあちこち治してもらって、なんとか暮らしているけれど、そのパーツを見ると、それ自体が歴史的な気配のするものであることに気がつく。

 窓ガラスも、微妙な模様が入った半透明のもので、その凹凸がある分だけ汚れが溜まりやすいが、例えば台所の窓ガラスは、木の窓枠で、外にある網戸は釘で止めてあるために、外側から拭くことも難しく、だから、ホコリや汚れが固まって小さな黒い物体になって、たくさん張り付いていて、ガラスから入ってくる光を妨げていた。

 そのことに、妻の指摘で、改めて気づいた。

手動式加圧ポンプ

 私は、掃除や片付けの能力は完全に欠けているので、何かを積極的にやることもできなくて、その分、妻は悩んでいたらしいが、十分に気がつくこともできず、申し訳なかったのだけど、妻は、友人に頼んで、「手動式加圧ポンプ」を借りてきてくれた。

 それは、大きくて丸くて黄色い物体だったけれど、これに水を入れて、圧力をかけて、とイメージをすると、まずは手間がかかりそうだった。

 それに加えて、こういうマシーンで知っているのは、テレビの通販などで見た、とんでもなく強力なもので、もしかしたら、ガラスが割れてしまうのではないか、という根拠のない不安だった。

 ただ、それから不思議と雨の日が多く、なかなか掃除をできる機会もないまま、何週間が過ぎて、その度に、妻は友人の方に、借りることの延長を相談し、相手の方は、気にしないでいいのに、と言ってくれていたようだけど、私も密かに気にしていた。

 うちに、黄色い「手動式加圧ポンプ」があり続けた。

掃除の日

 やっと晴れた。明日も晴れるらしい。

 午後、昼食を食べて、妻が昼寝をして起きてから、ガラスの掃除をすることを提案しただけで、嬉しそうにしてくれた。ここまで予定が伸びて申し訳なかった。

 午後2時半頃。妻がその「手動式加圧ポンプ」と、説明書を用意してくれて、作業を始めることになる。

 初めてのマシーンだから、どこか怖さもあるものの、きちんとネジを締めたり、無理に圧力を加えることがなければ大丈夫そうだった。

 フタを開けて、本体に水を入れる。中には、どれだけの水が入るのだろう。5リットル?いや、10リットルは軽く入るのではないだろうか、と思いつつ、「満水になると、加圧が十分にできません」といった文字を見かけたのは記憶していたので、半分くらい入れてから、再びフタをねじって締める。

 それから、本体の上についているレバーを上下させて、空気を入れ始める。本当にいつも自転車のタイヤに空気を入れている作業と同じなのだけど、だんだん、その抵抗が強くなってくる。あんまり無理すると壊れるのではないか、といった心配そうな視線を妻から向けられたが、もう少し、と思いながら、さらに何回か押した。少し腕と胸の筋トレにはなるかもしれない。

 そして、レバーを止めて、本体を持って、家の裏側へ向かう。
 やっぱり、それなりに重い。

窓ガラスへの噴射

 裏口へ歩きながら、廊下の窓はどうするのか、を妻に聞いたら、洗ってほしい、という答えだったので、やはり外側から網戸が釘で止めてある木枠の窓ガラスにむけて、持っている噴射口のレバーを解除する。

 いろいろな水流を選べるのだけど、ストレートにして、噴射する。

 網戸を通り抜け、窓ガラスに水が当たっている。壊れるほどの強さはなく、水道の蛇口にホースをつないで、強めに出して、ホースの口を細くした程度の勢いだけど、それでも、窓ガラスの外側についた汚れは落ちていったようだ。

 最初に油断をしていたのだけど、噴射した水がガラス窓に当たって、「返り水」がかなり多くて、頭髪や顔や着ていたグレーのTシャツは結構濡れる。

 だから、こうした「手動式加圧ポンプ」を使うときは、カッパを着たほうがいい、という注意事項を、この頃に知るが、もう遅いし、今日は気温も高めなので、このまま続けることにする。

 それでも、廊下の窓ガラスの外側はキレイになったようで、妻は喜んでくれた。私は網戸を通して、ぼんやりとしか見えなかったが、黒い小さい物体が流れ落ちてくるのは分かり、自分の行為で、そういう変化があるのは、ちょっとした射的のようで、そういう面白さもあったし、本当に暑い日だったら水遊びの要素もあると思った。

台所の窓ガラス

 家の裏側の台所の窓ガラスのある位置に来た。 

 いろいろ狭いが、噴射の勢いが明らかに減退していたので、また加圧するために、レバーを上下させる。
 途中からは、それなりに力もいるので、今日は妻と一緒に作業ができて、よかったような気がする。

 台所の窓ガラスは、2面あり、それぞれ横長に三つに分かれている。
 水を噴射する。

 さっきの廊下の窓ガラスよりも高い位置だったから、不安もあるけれど、明らかに汚れの元になっているような黒い物体が流れ落ちてくるのが分かり、ちょっと面白くなる。

 ただ、掃除は「上から下へ」という原則が明らかに分かるように、最初に届きやすい一番下に噴射し、そこから黒い小さな物質が流れ落ちたものの、その後に上部のガラスに噴射すると、黒いものが流れ落ちてきて、下部のガラスに止まったりする。

「上から下へ」を繰り返すと、途中で「プシュー」という音になり、空気が強めに漏れる音になる。水が無くなった合図だった。

 また、家の表に戻って、水道で水を入れ、加圧をして、裏に再び来て、ガラス窓に噴射する。

 木枠の部分に、黒い物質が溜まっていたりして、水をあてることで、また汚れが表面化したりするので、さらに水を噴射する。

 そのうちに水の勢いがなくなり、加圧し、「プシュー」と水がなくなり、また水を入れて加圧し噴射し、水がなくなるを3度か4度繰り返した頃、家の中の台所から見てくれた妻は、きれいになった、ありがとう、と明るい声で言ってくれた。

 ホッとした。

仕上げ

 台所に行って、内側からガラス窓を見る。

 湯沸かし器に水がかからないように、タオルでカバーしてくれていたのに初めて気づいて、細やかに気を遣ってもらって、ありがたかったが、内側から見ると、ガラス窓の上部に、まだ黒い小さい汚れた物質があるのが気になる。

 そのことを妻に伝えると、「もう大丈夫。すごく明るくなったから」と言われたものの、勝手なものだけど、やっぱり気になるし、こういうチャンスは次がいつになるか分からないので、と言って、もう一度、水の噴射をすることを、許可してもらった。

 もう一度、しまいかけた「手動式圧力ポンプ」に水を入れ加圧して裏に回って台所のガラス窓の上部に向かって噴射する。それをしばらくしていると、また思いがけないところから汚れが出てきて、またガラス窓についたりが繰り返され、妻が中から見てくれているので、その変化もわかり、右とか左とか言い合って、なんとかキレイになった。

 再び、台所の内部から見ると、勝手なものだけど欲が出たせいか、もう少しきれいになるのでは、といった気持ちにもなるが、これ以上は、それこそガラス窓が、もしかしたら割れるかもしれない、といったレベルの圧力が必要になり、それは、やっぱりどれだけ頑張っても無理なのだと思った。

 それで、諦めて、作業も終わった。

 妻に御礼を言われたけれど、ここまで何もしていなくて、やっぱり申し訳なかったと思うが、その後、二人でおやつを食べて、録画していたテレビ番組をみた。

 気になっていたことが終わって、やっぱりホッとした。
 妻が、台所が明るくなったと喜んでくれて、よかった。






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おちまこと
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