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『水道管が振動して、元栓を止めたら水漏れが始まり、困り、ご近所の人に直してもらうまでの17時間』

 夜中の11時頃に、1階の台所に行ったら、ブーンという低い音がしていた。
 これまでになかったことだった。
 外にはエアコンの室外機があるので、それが響いているのかと思って、2階に上がって、スイッチを切った。

 でも、音は、やまない。

 ブーンという音だけでなく、ガラス窓がガタガタいうような音まで混じってきた。
 何かが振動しているのは分かった。どうやら水道の蛇口が振動している。蛇口から、おそらくは、その先の水道管まで細かく振動しているような気配がある。

 さっきよりも音も、振動も大きくなっていて、ブーンとガタガタの音が両方していて、少し怖くなる。

 蛇口のハンドルを回して、水を出したら、その振動や音が止まる。

 あ、止まった。と思って、また水を止めたら、まだ振動音がして、実際に蛇口が振動を続けている。

 なぜ、こんな振動をしているのだろう。

 夜中の12時過ぎになっていたけれど、その原因を知らないと、眠れそうもない。

外を回る

 どうして、こんなことに。
 そんなことを思うと、ふと、どこかで読んだ「犯罪」のことを思い出す。

 水道が急に出なくなる。変だと思って、どこかに問い合わせる。すると、部屋の外の水道の元栓が閉まっていることがわかる。ただ、その時に注意されたのが、夜中に、女性が住んでいる家を狙って、水道の元栓を止めて、それを解除するために家の外を出たときに襲われるから、朝になってから、開けてください、と注意された。それで、「犯罪」だと知る。

 そんな話だった。

 考えたら、この話にも、あちこち怪しいことはあるものの、そういう「犯罪」はあってもおかしくないし、この「振動」も、そんな風だったら嫌だなと思う。

 お風呂に入った後も、音は続いていたので、暑いし、腰にタオルを巻いたくらいで、外の様子を見に行こうと思っていたのは、やめて、もう少し服を着てから、微妙に警戒心を高めつつも、外へ出る。

 道路に、手ぶらで短パンの中年男性が歩いているのを見て、自分もほぼ一緒なのに、勝手に少し驚く。

 夜中の静かな街を、あちこち見ながら、歩く。
 どこかで水道工事をしているのではないか、と疑いつつ、移動する。
 ただ、どこにもそんな様子はないし、かなり静かなままで、道を歩いて、近くの交差点を左へ曲がり、さらに路地を左に入り、また左へ2回曲がる。

 四角く移動して、自宅周りを見て回ることになる。時々、音がする、と思うと、エアコンの室外機で、確かにブーンという音だけど、そんなに大きいわけではない。

 そこに近づいて、ああ違うんだ、という確認を何度か繰り返して、家に戻ってくる。

元栓を閉める

 帰ってきて、もしかしたら、と思っていたけれど、相変わらず、ブーンという低い音で振動が続き、ガラス窓がガタガタしている。

 あんまり続くと、ご近所迷惑ではなないか、と焦ってきて、このままで収まる感じもしなくて、何かできることないだろうか、と思って、また裏庭に出て、外側から触っても、壁が振動しているのがわかる。

 思ったよりも強い揺れで、どうしよう…と迷い、元栓を止めようと思う。

 夏だから草が茂っていて、よく見えなかったけれど、懐中電灯も用意してきたから、それで、何とか見つけて、メーターの隣にあるハンドルを横に倒す。

 裏口から、台所に戻る。

 振動は止まっていた。

 どうしてなのか分からないのだけど、やっぱり嬉しくもなって、でも、このままだと朝、妻が起きても水が出ないと困るだろうと思って、また外へ出て、元栓を開けた。

 すぐに、台所の外側の壁から、ぽたぽた、という音が聞こえてきた。
耳を近づける。あ、完全に水漏れしている。

 これまで水道工事などの人に聞いていた「壁の中」という言葉を思い出し、そして、大金がかかる、というイメージで怖くなる。

 そして、一度は部屋に戻るけれど、ずっと水漏れしていると、水道料金もかかるし、もしかしたら、壁も腐るかもなどと思って、怖くなり、そして、また庭に出て、元栓を閉める。

妻への手紙

 だけど、このままだと水が出なくて、困るはずだから、とヤカンや鍋などに、冷蔵庫のペットボトルに入っていた水や、ポットに入っていたお湯などを入れて、準備をする。

 部屋に戻り、いろいろと検索をしたけれど、水道管が振動する、というのはなくて、もっと瞬間的な音に関する記事はあったけれど、似たような例が見当たらず、そして、水道工事も調べたけれど、「壁の中の水漏れ」に関しては、結構な金額だったから、なんだか緊張もする。

 妻に手紙を書いて、水が止まっていること。ヤカンや鍋に水が入っていることなどを伝え、それでも足りない場合は、いったん元栓を開けて、また閉めても大丈夫、みたいなことも書いて、気がついたら、午前2時をすぎていた。

 何年か前に、下水が壊れて、修理をお願いした工務店が、町会名簿に載っているのを確認した。

 もう、寝よう。

お風呂の水

 朝早く、妻がトイレに行くときに起きてしまい、水を流した後に、水道は止まっているので、お風呂の残り湯をくんで、トイレのタンクに入れる。

 また少し寝たけれど、よく眠れず、起きてしまい、その間に、妻はトイレを使って、お風呂の水を、同じようにくんで、入れたらしい。

 それは、やっぱり、大変だと思った。あとは、料理用の水などは、以前、親戚からもらっていた2リットルの水を、妻が出してくれて、それが、何本かあって、なんだかありがたかった。

 それでも足りなかったので、一度、庭に出て、元栓を開けて、妻と一緒に状況を見たら、夜中には、ポタポタと音がするくらいだったのだけど、今、開けたら、壁の下に、水がボタボタと垂れてきて、もう、これは、どうしようもない、という話をして、妻と相談をする。

 最初から、工務店に頼もうかという話もしたけれど、外側のトタンの板が、かなりサビが進んでいて、もし、頼んだら、間違いなく、壊すようにはがされてしまうと思った。そうなると、その後に、新しいトタンを購入する必要が出てくる、と反射的に思ってしまい、ちょっと悲しくなってしまい、最初に、この前、蛇口のこともお願いした、ご近所の人に、相談することにした。

相談

 妻が呼びに行ってくれたら、しばらくたったら、ご近所の人が、現れる。
 どんな感じかを聞かれたので、まず、水道の元栓を開ける。

 壁の下から、水が垂れてくる。もうぽたぽたよりも、かなり多く、さっきよりも量が増えているかもしれない。

あー、こりゃ、完全に漏れているね」。

 それで、また元栓を閉める。

 そのご近所の方と相談する。

 水道の業者に頼むにしても、どちらにしても、このトタンをはがさないといけない。はがさないと、今の状況が分からない。もしかしたら、直せるかもしれないから、いったん、まずは開けてみたほうがいいと思うけど…。

 そんな話をしてくれて、考えたら、またかなりの手間をかけさせてしまうから申し訳ないと思いながらも、やっぱりお願いすることにする。

作業

 ご近所の人は、いったん家に戻り、手には道具を持ち、そのまま、裏庭に来てくれる。

 まずは台所の外の壁。古くて、塗料がはげている波型のトタンをはがすことにしてもらう。クギを何本も抜いていく。クギ抜きと、あとは、トタンの波型のやまのところがつぶれないように、と木材の棒を使って、クギ抜きをかませて、抜いていく。

 とても丁寧な作業。こんなに半分、朽ちてしまっているようなトタンの板を、壊さないように、釘を抜いていってくれる。

 クギも、半分溶けて、化石みたいになっている。

 水道工事業者に頼んだら、たぶん、半分壊されるように、はがされると覚悟していたけれど、丁寧に何本も抜いてくれて、トタンの板をめくるまで作業は進む。

 中の構造はシンプルだった。(見出しの写真)

水道管

 すぐそばに水道管がある。
 そして、その奥に壁を支える木枠のようなものがある。
 
 水道の元栓を開ける。
 水が強く漏れる。

 すぐ止める。

「わかった。これ、直せると思う。
 ただ、接着剤を友達にあげちゃったから、それがあれば、すぐにできると思う。なかったら、買うことになるから、また時間かかるけど」。

 ここの作業まで、1時間かからなかったと思うけれど、それでも、やってもらえそうなので、お言葉に甘えて、お願いすることにしたら、再び、ご近所の方は、家に戻っていく。

作業再開

 どのくらい待つのか、場合によっては、何時間もかかるかも、と思っていたら、10分くらいで、ご近所の人が、戻ってきた。

「ちょうど友達と会って、接着剤もあった。これ、少ししか使わないから、買うのも、もったいないし、それに、保管しておくと、わりとすぐ硬くなっちゃうから」。

 そんなことを言いながらも、レンチのようなものや、細いノコギリや、あれこれの道具を持ってきてくれて、作業を再開してくれる。

 パイプを切る。大変そうだけど、思ったよりも、時間がかからずに、パイプは切れて、そして、持ってきた新しいパイプをつないでくれて、そして、特殊な接着剤を使ってくれて、再び、つながる。

「この接着剤は、プラスチックを溶かしてくれるから」。

「…溶接みたいな感じですか?」。

「そう。それに、少なめにつけると、そこから漏れるから、たっぷりとつけて」。
 
 ここまでの作業で、1時間くらい。

 元栓を開けたら、見事に直っていた。

 ただ、少しだけ、つなぎ目の部分に、にじむように、本当にわずかに水が漏れてくる。

 ご近所の人は、そのことに納得できないらしく、また元栓をしめて、作業に戻る。

 接続部分を磨いたり、パッキンがいるかも、ということだったが、パッキンは、そこにないので、カバーの余りを使って、穴を開けて試してみたが、元栓を開けたら、爆発的に漏れる。

 うわ。っという声。すぐに元栓を止める。

 そのにじんでくるつなぎ目のところを、何重にもビニールテープで巻いてくれて、それで、いったんは作業を終える。

 トタン板を何本かのクギをゆるめに「仮止め」して、ご近所の方は、帰っていく。

「パッキンを、できたら、買っておいてくれるといいんだけど」。

 それが伝言だった。

 それでも、水道は使える。ご近所の方の「見立て」によれば、「この漏れ方だと、1日で、コップ一杯くらいだと思う」と言われたので、安心して、使った。

パッキン

 昼前に、ここまでの作業が終わって、昼食を妻と食べた。
 水道は使えるから、いつもと同じになった。

 そのあと、雨が降ってきた。
 今日は、昼くらいから降るという予報だったから、その通りだ。

 午後2時を過ぎたあたりから、パッキンを買ってこなくちゃ、と思うと、憂うつになった。近くのスーパーはいろいろと売っているけれど、この前も蛇口本体がなかったから、さらに遠くのホームセンターに最初から行ったほうがいいのだろうか、などとグズグズ考えていたのは、雨が降っていたから、止むまで待とう、みたいな気持ちがあったからだ。

 少し雨が止んできた。
 午後3時過ぎ。そろそろ、パッキンを買いに行こうと思っていたら、玄関のチャイムが鳴った。

 さっきまで作業をしてくれていた、ご近所の人だった。

「パッキン手に入ったよ」と笑顔だった。

水道管が直る

 作業を再開してくれた。
 雨は止んでいる。

 元栓を止める。そのパッキンを、つなぎ目を緩めて、外して、そこに入れて、また閉める。そうした作業は少し手伝えるし、妻も、ずっと水や汚れをふき取るための布や、道具などを準備して、その人に渡してくれていたが、ずっと二人で、見すぎていて、ご近所の人は、作業がやりにくくないだろうか、と妻は思っていたようだ。

 さっきよりも柔らかい回し心地なのは、押さえる役割でもわかった。

 閉まった。

 元栓を開けた。水はにじんでもこない。

「これで終わり」。その人は笑顔だった。

 ものすごくありがたかった。

作業の終わり

 そのご近所の人の家にも、パッキンはなかった。だから、ゴムの板を使って作ろうとして、穴を開ける作業を、家の前でしていた。その時に、その人の友人が通りかかり、なにやってるの?という話になったら、うちにあるよ、と言ってくれて、パッキンを、もらったらしい。

 色々なことがありがたかった。

 それから、再び、トタン板をクギで打ちつける。
 今度のクギは用意してくれていた新しいものだ。
 スムーズに作業は進み、やはり、こういう「達人」は、クギを唇で何本もはさんで、カナヅチを使い続ける。

 できた。と思ったら、トタン板の合わせの部分が、逆らしかった。それは、下に潜り込ませる部分を、逆に、上にしてしまっていた。だから、確かに、そこだけ、色が違っていた。

 それでも、こちらは構わなかったのだけど、ご近所の人が、「これ、誰がやったんだ、って言われちゃうから」と再びクギを抜き、トタン板の合わせ方を替えて、またクギを打つ、という作業をスムーズに進めてくれた。

 そして、終わった

 午後4時過ぎ。

 昨日の夜中の11時くらいに、振動に気がついたから、あれから、17時間くらい。
 こんなに早く解決すると思わなかった。

御礼

 ご近所の方の、道具などの一部は私も持って、一緒に、その人の家まで行く。
 そこには、穴があいたゴム板があって、これが、パッキンを作ろうとしていた痕跡だった。なんだかすごいと思う。

 お礼を言って、帰ってきた。
 それから、妻と相談して、御礼を支払うことにする。

 準備をして、妻に持っていってもらった。受け取ってくれたらしい。もし、中を見て多かったら、うちは古くて、あちこちが傷んでいて、それは、今日も作業中に「ここはこうしたほうがいい」と言ってくれていたので、その部分の修理をしてくれる、という話になったらしい。

 とても、ありがたいのだけど、その時は、また別にお礼をしないと、と思っていた。

 そう思うほど、その作業は、完璧だった。

「水を自由に使えるって、ありがたいね」。

 妻は、笑顔だった。

 本当にありがたかった。




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おちまこと
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