秋葉原がオタクの街になった、というニュース映像
最近は寝る前に、昔にテレビで放送されたニュース映像・ドキュメンタリー映像を見るのにハマっている。その中で、秋葉原がオタクの街になった、というニュース映像を見た。
その映像では、何人かのオタク青年への密着をしていた。その中の1人は司法試験に向けて勉強している大学生で、横浜に住んでいた。勉強の息抜きで秋葉原に訪れメイド喫茶にハマったのだが、それはそこで働く女性店員の1人に恋をしたからだった。横浜からは電車を乗り継いで一時間かかるが、彼女が出勤する週4回、彼は必ずそのお店に行く。そして彼女に覚えてもらいたくて、そのお店の「ジャンボかき氷」を他のどんな客よりも食べた。15分以内に食べると指名した店員と写真が撮れるという特典も彼の原動力だった。彼は彼女と一緒に撮った写真を大事に家で保管していた。しかし彼女は他のお客さんからも人気で、いつも引っ張りだこだった。自分ではない他の人と写真を撮る彼女の姿を寂しく眺めていた。
彼女の好きなところを聞かれると「いつも元気ですごい明るくて、人一倍輝いているように見えるんだけど、時々弱々しいところもあって、守ってあげたいと思う」と答えた。そして何より、彼女が愛読する少女漫画のヒロインの恋人の名前が自分と同じことに運命を感じていたのだった。彼はヒロインの恋人のようにかっこよくなりたくて、家での筋トレを日課としていた。
ある日、彼は勇気を出して彼女を誘い、初めてお店の外で会う約束をした。彼女の私服を見るのは初めてだった。井の頭公園でデートをして、その日に一世一代の告白をする計画を立てていた。前述の少女漫画のシーンを再現したもので、駅のホームのベンチにふたりで腰掛け、セリフの名前と方言を修正してほぼそのままの形で伝える。「前からずっと気になっていた。付き合ってほしい」と。そして計画通りに告白をした。「じゃあ、、、最初は友達から」と、付き合うことは叶わなかったが、彼はは「友達」になれたことが嬉しい様子だった。「そろそろ帰ろっか」と彼女がいい、「そうだね」と答え2人で立ち上がろうとした時、彼は彼女の手を握った。彼女は驚いた様子だったが、そのまま一緒に電車に乗り込んだ。電車に乗り込み2人の姿は見えなくなったが、2人につけられたままのピンマイクは「友達だからまだ手は繋いじゃだめだよ」「ごめんなさい」という会話を拾っていた。
その日以降も彼はメイド喫茶に週4回通い続けたが、彼女はあまり相手にしてくれなかった。ちゃんと会話をすることができるのは、500円を払うと一緒にできる3分間の「ゲーム」の時間だけだった。砂時計で測られるその3分、彼女が自分だけのものになるその時間を彼は純粋に楽しんでいた。
彼女に友達からの進展はあるのか、とインタビューをすると「私は漫画の読み過ぎで紙に恋してるんで、、、紙と実物が違いすぎるんですよね、やっぱり、、、」と答えた。彼女もまた、オタクの街・秋葉原の住人だったのだ。
映像はスタジオに戻り、苦笑いをする出演者の顔を映した。「なんなんだろうねぇ、、、あんまり気持ち良くないねぇ、、、」とコメンテーターが言い、「これから日本はどうなってしまうんでしょうねぇ笑」と続けると、アナウンサーも「そうですねぇ笑」と、明らかにオタク青年らを馬鹿にするような態度をとった。「○○さんはどう思いますか?」とアナウンサーが専門家に聞くと、「アニメや漫画の市場規模は〜で」といった専門家らしいことを語り「私も秋葉原が好きなのでねぇ」というと、「○○さんもこういったものがお好きなんですか?」と聞かれた。「いえ私は全く私は興味がないんですがね、パソコンとかが好きですし、ビジネスタウンとして大変面白いので」とすぐに弁明をしたのだった。
「オタク」であることを恥ずかしいと思う人がいた時代である。