
【スイクラ】日之世・古橋√ 感想考察
密原・久瀬、日之世、古橋・真相 と分けるか迷ったのですが、真相は真相だけで一つにしようと思います。
スイートクラウン、少し珍しいほどライターさんの違いが顕著で面白かったです。まずは日之世くんから。
⚠️ネタバレを含みます。
【毒を纏いし眼帯者】
❆ 日之世武尊 ❆

♡ルートテーマ:人魚姫、日本神話
♡スイーツ:ラムレーズンアイス(以毒制毒)
【毒を纏いし眼帯者】
彼のルート、人魚姫と豊玉姫の比較や彼岸と常世の国の対比など、エンディングが凝られていてとても幻想的でした。絵本をモチーフにした作品ならではの凝った作りになっていて面白かったです。
スイートクラウンという作品における生きることについて、鍵となるルートだったのではないでしょうか。海の向こうにある永遠の夜の城と、埋葬して朝を迎えた日々。青い人魚と真赤な彼岸花の二つの情景のコントラストも美しいエンディングでした。
他√との違いというと、柘榴ちゃんが若干前向きだったように感じました。人によってどの√のヒロインが好みか分かれそうなので、そんなところも考察しがいがある作品ですね。
墓
妹によって殺されかけ、妹によって救われた日之世くん。彼の妹がまだ生きている彼を埋めようとしたのは、皮肉なことに彼が「大切なもの」だからでした。
一度褒められたことで成功体験として根付いてしまい、間違った方向に進んでしまうという子どもの過ちは、切なくて、仕方のないことのように思えます。ただ、褒めて欲しかっただけなのに。日之世くんと八尋ちゃんのせいで家庭が崩壊したというのは、寧ろそれまでしっかり愛情を注ぎ、平等に褒めてあげることをしなかった両親の責任でもあるので、そこに押し付けられないところも彼らしく、物悲しい気持ちになりました。
深愛エンドではお墓を作り、埋葬することで明日を迎えます。それが悲劇の原因となった訳ですが、八尋ちゃんも悪意からではなく愛情から、お墓を作ってあげようとしていたことが印象的でした。逆に歪愛エンドでは人魚になり、常世の国で永遠の夜を過ごします。彼岸花の赤と海の青が幻想的な対比となっていて美しく、また夜の青には一年に一度だけ人間に戻れる天空の七夕を想起させることで空の青も重ねているところがすごく好みでした。
死を乗り越え、お墓を作って動き出すことで朝を迎える生者の世界と、不老不死となり永遠に夜と海を彷徨う死者の世界。生きているものは埋めてはいけないという表現は埴輪を巡る殉死の禁止を思わせ、生者の側と死者の側に明確に線引きするとともに、死者と悪意を弔い、祈ることで区切りを付けるものとして描かれました。また、どちらも一緒にお墓に入ろうという愛情の形で締めくくられていて、ロマンチックでした。
悪意と自己犠牲への向き合い方
マリスという悪意を身に纏い、従えることのできるようになった日之世くん。このルートでは、悪意に対する向き合い方も埋葬で暗示されています。向き合い、祈る。現実から逃避し、思考の放棄と見てみぬふりで停滞を選び続けていた共通ルート序盤の柘榴ちゃんとの対比です。
「そんな “どうせ自分なんで”と考える人間を見ると虫唾が走るんです。悲劇のヒロインを気取って愉しいですか?」
日之世くんは徹頭徹尾、柘榴ちゃんに正論を突きつけます。精神的に追い詰められてる彼女は「一見前向きのような “生きろ”という言葉が、実際は苦痛でしかない時もあると私は知っている。」と一蹴してしまいますが、「往往にして自己犠牲の精神保持者は自分が消えた後の世界を想像出来ないから傲慢で身勝手で本当にどうしようもない」と考える日之世くんからすればそれは反吐が出るほど嫌いな考え。
「貴方が誰にも心を開かなかったら、誰も貴方の中に入って行けませんよ」と助言されたことで日之世くんを専属オフレンダに指名する柘榴ちゃんですが、ここも含めて彼はずっと何だか教師のような印象を受けました。ずっと正しい人であり、柘榴ちゃんの道標なのです。
彼のルートでは自己犠牲との向き合い方も描かれました。向き合い方というか、日之世武尊の考え方。日之世くんは救いのない物語に安心を覚えます。それは、自己犠牲でハッピーエンドを迎えることに納得できないから。個人的には自己犠牲の情緒は好きなのですが、実際に身内を亡くしている日之世くんが拒絶するのも無理はありません。自己犠牲を認めることは、即ち妹の死を美談にしてしまうことなのですから。
同じように双子のきょうだいを亡くし、生き残った側でありながら、真逆の考えを持つ二人。双方サバイバーズ・ギルトに苛まれているようでいて、日之世くんは過去に縛られない。進んでいくことのできる強さと、正しさを持った人なのです。だからこそ、妹の八尋ちゃんや柘榴ちゃんのような支えが必要な人間は惹かれてしまう。
人魚姫
このルートにおける「人魚姫」は、柘榴ちゃんではなく日之世くんでした。柘榴ちゃんは願いを叶えるスイートクラウンであり、人魚姫の魔女なのです。同じく願いを叶える者である道化師との対話の中で、「泡にして消したいから……人間の足を与えたんじゃないんだ.....」と吐露される心情は、世界は悪意で満ちていると言いつつ、魔女は悪意の固まりの悪者ではなかったと示しているようで、胸が締め付けられました。
久瀬くんが無償の愛を捧げ、自己犠牲し続けるのに対し、キリスト教的なモチーフを持つ人魚姫でありながら、自己犠牲に対しては徹底的にNOを貫いた日之世くん。ネーミングから構成まで考察しがいがあり、何度も楽しめるエンディングでした。
【過去に囚われ続け 自分を見失った青年】
♛ 古橋旺一郎 ♛

♡ルートテーマ:赤ずきん、パンドラの匣、聖書
♡スイーツ:ガトーショコラ(零丁孤苦)
【過去に囚われ続け 自分を見失った青年】
日之世・古橋(奇劇編)√はどちらも異類婚姻譚がモチーフでしたね。全体として貴種流離譚だったので、よく練られたシナリオだなぁと改めて圧倒されました。
古橋さんはメインヒーローだけあって真相に最も近付くルート。食べるということは、どういうことなのか。スイートクラウンの能力についても少しずつ明かされ、非常に興味深いルートでした。
嫉妬の罪
「僕は兄さんが妬ましかった。……誰かを哀れに思う気持ちって、余裕があるからこそ生まれるものなんだね」
彼のルートではスイートクラウンの正体が明かされます。スイートクラウンとは、かつて古橋さんが開けてしまった「匣」から解き放たれた悪意(マリス)であり、彼の双子の弟・ロッサだったのです。そもそも古橋さんはグラナダ(スペイン語で柘榴)という名の、一国の王子でした。ロッサ(薔薇)とグラナダ(柘榴)の対比が面白いネーミングで、薔薇柘榴石という宝石を想起させます。
なんでも器用にこなせる弟と、不必要な兄。それが匣によって逆転してしまったことで、それまで必要とされてきた弟は歪んでしまう。これは生存本能的に仕方のないことであり、哀しいことです。彼らはどちらも地位や権力を求めていたわけではないという点も、胸に迫るものがあります。
グラナダとロッサの瞳は、どちらも揃いの綺麗な緑。緑の瞳はgreen eyed monster、嫉妬を表します。一つしかない王座を巡り、周囲に振り回されてしまう双子の兄弟。彼らがもとは親しかった、というのも切ないお話です。
赤ずきん
彼のルートのモチーフは「赤ずきん」。『赤い服の女王様』の物語は、共通ルート(柘榴ちゃん)ではアリスの女王を表していましたが、古橋さんを主人公に据えると赤ずきんへと変化するダブルミーニングとなっており非常に面白かったです。
赤ずきんは持ち物のパン、ミルクや狼からキリスト教的な解釈も行われているようです。そちらについても解釈できそうですね。
古橋さんは狼のように見えて、羊のような慎重さと、柘榴ちゃんとも通ずる内向的な性質を持つ人です。柘榴ちゃんと自身を重ねた「プライドだけは一人前だから、一人でどうにかしようとして悪循環に陥る」という語りや、ケイファさんの「自分を追い詰める性質の人間は頑固だ。だから余ほどのことがない限り誰の言葉も届かないだろう」という評価からも伺えます。これは、柘榴ちゃんのことだけでなく、かつてのグラナダから見た考えなのですね。
そんな似た者同士の二人。死んだように日々を過ごしていた柘榴ちゃんと、自殺志願者と評される古橋さん。過去に囚われ続ける二人です。だからこそ、未来へ進むため、互いに支え合う姿に惹かれました。
嗜血症を患ってしまった古橋さん。歪愛エンドでは、彼のために自分と同じ顔の菓子人形を生み出し、食べさせようとする柘榴ちゃんと、全て覚えていて耐え続ける古橋さんが印象的です。彼ららしい、優しくて、切ない愛し方。汚れ役を買って出てくれていたガートさんにもグッときました。責任感が強く、自責して、自己犠牲の道へ走ってしまう二人。そんな彼らのエンディングは、やはり美しいものでした。
悪魔・スイートクラウン
スイートクラウンの仕組みについて。
彼は今くスイートクラウン>が菓子にしてしまった子供達の魂を、彼らの生まれ故郷に戻して回っている。
く彼>は子供達を菓子にする前に魂を抜く。
そしてその魂を自分が作った菓子人形に込めて、新たな存在として生命を吹き込む。
その魂が詰まったガラスのキャンディポットが無数にあると、ケイフアさんが教えてくれたのだ。
スイートクラウンは願いを叶えた子どもの魂を抜き、別の菓子人形に入れて新たな命とするということが明らかになりました。これはつまり、願いを叶えられた時点で「お菓子になった」(そのま食べられた)わけではないということです。創世記を思わせますね。魂をそのまま食べているわけではない、という点が、真相ルートで示されるスイートクラウンという物語の根幹となるように感じます。