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幼馴染彼女との初飲酒で暴走は"さけ"られない?

「すごい量だね」

そう呟く麗奈は興味深そうに積まれたダンボールを眺めている。

「ひぃふぅみぃよぉ……」

呑気に声を上げながら数える麗奈を尻目に僕は伝票を確認する。

送り主と品名の欄を見て納得していると、数え終わったであろう麗奈も伝票を見てやっぱりと漏らす。

試しに手前のダンボールを開けてみれば、中は案の定びっしりとお酒で埋まっていた。

「麗奈のお父さん相当酒好きだったもんね…」

ホームパーティーでガブガブと酒を飲み進める様が昔の記憶な筈なのに、ありありと頭に浮かんだ。

添えられていた手紙を読み終えた麗奈が首をあげる。

「お父さん今度、三人で飲みたいんだってさ〜」

先日、僕は麗奈に追いつく形で誕生日を迎えた。

二人とも二十歳を超えたことで嬉々としてお酒を送って来たらしい。

「麗奈はお酒強い?」

「んーわかんない。なんせここまで飲むの"さけ"て来たんだから」

指を立てる麗奈をスルーして、玄関からダンボールを運んでいく。

只管に玄関とリビングを往復している間も麗奈は立ちっぱなしで何か考えている。

僕が最後の一つに手をかけた時意を決したように、麗奈は口を開く。

「ビル街でビールかい?」

どうだと言いたげな表情がおかしくて笑ってしまう。

そんな僕を見て満足げな麗奈。

「全然面白くないね」

笑いながら言って僕は最後の一つをリビングに運んだ。



少なめな夕食を終えて、冷やしていたビールを二缶食卓ではなくローテーブルの上に置く。

ガヤガヤとしたテレビではまさしくビールのCMが流れている。

「なんか緊張するね」

麗奈は両手で覆うように缶を握っている。

せーのでプルタブを引けば、プシュっと炭酸の抜ける音がする。

おーなんて感嘆の声を上げる麗奈と缶をぶつけ合って乾杯をする。

苦味に耐えながら一口飲んで、麗奈の顔を見たら目を細めて眉を顰めている。

見えてないけどきっと僕も同じような顔をしている。

変な顔と僕を指差して嬉々として言う麗奈。

「苦いね」

「お子ちゃまなんだから〜」

調子よくそう言う麗奈も二口目に躊躇している様子。

大人になりきれない僕たちの夜はまだまだ長い。



「ねぇ〜なんで飲んでないの〜」

いつもより数段ふにゃふにゃとした麗奈は支えを求めて僕の肩に寄りかかっている。

「麗奈……飲み過ぎだから…」

やってみたかったと言ってワインの栓を開けさせたのが運の尽き。

見てない間にワインのほとんどを飲んでしまってこの状況。

瞳に涙を溜めて、上気した頬で僕を真っ直ぐに見つめる姿は扇情的で、何やらいけない気を起こしそうになる。

すっかり酔いの醒めた頭で相手は酔っ払いだと自分を封じ込める。

「ねぇ〜飲もうよぉ〜」

そう言いながらワインの残り全てを入れて、僕にグラスを押し付けてくる。

「いや……」

「私のお酒が飲めないの〜?」

「それ多すぎるから」

押し問答に不満そうな表情を見せる麗奈はこうなったらと何やら一人呟いている。

僕の静止の声を無視して強引に口元にコップを当てようとして、水平を失ったグラスの中身が溢れる。

ワインレッドはあっという間に白いシャツを染めていく。

「えっ…ごめんね!ちょっとどうすれば…」

さっきまでのふにゃふにゃとした様子が嘘みたいにアワアワと対応し始める麗奈。

ソファに染みてないことを確認して、少し溢れていた床にティッシュを撒いて、僕の部屋からバタバタと替えのtシャツを持って来た。

シュンとした様子でおずおずと差し出すそれを受け取る。

着替えながら、何やら感じていた違和感の正体に辿り着く。

「麗奈さ、本当は酔ってなかったでしょ?」

「……酔ってた!酔ってた!!溢した瞬間に冷静になったの!!」

いつもより大きな声は麗奈の必死さを伝えている。

「でもさ、麗奈のお母さんも酒豪じゃん」

すっかり忘れていたけれど、麗奈のお父さんと同じペースで飲みながら最終的に介抱していたのは麗奈のお母さんだった。

そんな二人の血を引く麗奈があの程度であんなにお酒が回るわけがない。

「………」

麗奈は何やら気まずそうに口を一の字に結んでいる。

手元のシャツは洗っても無駄だろうとゴミ箱に捨てて戻ってくると、麗奈はソファの上で正座していた。

「……ごめんね?」

機嫌を伺うような態度に一つため息をついて、麗奈にデコピンする。

「酔ったふりなんてしなくても甘えていいから」

そう言うと麗奈は瞳をキラキラと輝かせる。

「言質とったからね?男に二言はなしだよ?」

さっきまでと打って変わって得意げに言ってくるのがおかしくて笑った。



「まだまだ飲むぞー!!」

「ちょっ……もう無理だって……」

「私の酒が飲めないのかー!!」

僕は大事なことをもう一つ忘れていた。

いつも僕の両親はホームパーティで潰されていいたということだ。

「ほら飲んで?まだまだ夜はこれからだよ!」

そのセリフはもっと違うところで聞きたかったなぁ。。。

fin.

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