見出し画像

魔王になってしまった男の子の話

気がつくと、男の子は魔王になっていた。
もちろん初めから魔王だったわけではない。

正義感が強く、優しく、友達もいた。
ちょっと人より体が大きかったり、嫌なことは嫌だとはっきり言えたりする以外は、普通の男の子だった。

でも、格段わがままというわけではないのに、男の子の要求はみんなに聞いてもらえた。
体が大きいからか、ハッキリしたものいいからか、周りのみんなは男の子に優しくしてくれた。
男の子はそれが当たり前なんだと思った。

でもある時から、急に周りの皆が男の子を露骨に避け始めた。
一番仲良かった友達も、一緒に遊んでくれなくなった。

それどころか束になって、男の子を攻撃したりした。

でも男の子は力が強いので、全然平気だった。
そういう遊びなんだと思って、かかってくる子たちをやっつけた。

でも、この遊びをいくら繰り返しても、かつての友達は、もう男の子に優しくしてくれることはなかった。

味方してくれる友達は減り、男の子は学校に行かなくなった。


たまに学校に行ってみても、近所の公園に行っても、みんな遊びの中でやられたことをちゃんと覚えていて、男の子は遊びの仲間に入れてもらえず、むしろ一人みんなの敵役ばかりをやらされたり、結果的にそんな流れになり、結局いつもどおりみんなを蹴散らして帰ってくるという日が続いた。

そんな日々が繰り返され、気がつけば、家の外はみんな敵だらけとなった。
男の子はますます外には出られなくなった。
でもその原因が男の子にはよくわからなかった。

家は男の子の城になり、男の子は魔王になった。
まるで悪気はなかったのに。
それでも魔王討伐の勇者は度々やってくるので、その度に返り討ちにした。

周りはますます一致団結して魔王を倒そうとして、男の子はその度、危機感からひどい仕打ちをした。

男の子はそういう遊びだと思おうとした。
一人はやっぱり寂しかったので、そんな遊びをみんなとしていると思いたかった。

中には男の子に加勢してくれる子もいた。
でもそんな子も一緒に遊ぶと、つい傷つけてしまった。
男の子はそういう遊びだと思っていた。

強いものが弱いものを虐げる。強いものが好きなことをする。
自分の思い通りにする。
みんないつもしているように。

そうやって男の子は少しづつ魔王になった。
周りのものは彼を恐れ、近づかなくなった。
彼もいつも槍を構えて、近づく人がいると威嚇した。
友達は居なくなり、どうやって友達を作ったら良いかわからなくなった。

しかし月日は流れ、そんな魔王も成長して、仲間ができ、大人になった。
目標や夢もできて、充実した生活を送っているそうだ。

魔王というのはトンネルの名前のようなものかもしれない。



(お話のモデルになっている人の年齢や性別や設定は個人情報に配慮してあえて創作を加え、実際の情報とは変えてあります。)