九官鳥
昔、うちに九官鳥がいた。
名前を始終呼んでいると、その声かけを覚えて、「キューちゃん!キューちゃん!」と自分の名前をひたすら連呼するようになった。
マンションのベランダで買うには大きすぎる鳥で、鳥籠の中でほとんど身動きも取れず、こちらの声掛けを文字通りおうむ返ししていた。
そのうちカメラのシャッター音や電子レンジのチーンとなる音、僕や兄の名前など他の言葉も喋るようになった。
僕はキューちゃんが可愛くて、よくベランダに出て話しかけていた。
キューちゃんは近所にもよく聞こえるほどはっきりした声で、僕の声かけをコピーした。
自分だけでなく家族の声もコピーしたり、テレビの音を覚えたり、本当に賢い鳥だった。
九官鳥を飼ったことのある人なら知っていると思うが、大きさはカラスほどもあり、うちのベランダの鳥籠は45cm3ほどもあったが、その中でほとんど方向転換することもできなかった。
部屋の中で飼うこともできたかも知れないが、こんな大きな鳥が部屋の中を飛び回れるほど、うちの家は大きくなかった。
結局かわいそうにだったり、手に余るようになり当時通っていた保育園に寄付することにした。
そして保育園に行って直ぐに、夜間に園庭に忍び込んだ猫に襲われて死んでしまった。
こんなことなら、早めに逃してあげたら良かった。
オレンジ色の嘴が立派で、黒い羽はツヤツヤしていた。
鳥籠に入れていたのは、もちろん鳥を守るためだ。
鳥籠から出て、迷子になってしまっても、生きていけないと思うからだ。
ずっと鳥籠の中で育って、自分で餌を取ることもできなかっただろう。
餌をやり、水を換え、鳥籠の中を掃除してあげた。
自分でそんなことはできないからだ。
長い期間、鳥籠の中で過ごしていたので、まだ本当に飛べたかどうか分からない。
知恵のあるカラスたちのように、餌を探す事ができないかもしれない。
そうやって先回りして、心配して、配慮して、結局、鳥籠の中からは出さないという決断をした。
それは鳥が大事だったからだし、鳥のことを思っていたからだ。
そんな優しさの裏返しの鳥籠が、最後は逃げ道を塞いでしまった。
鳥のいなくなった鳥籠は、人知れず処分された。
鳥は鳥籠がなくても存在できるが、鳥籠は鳥がいないと存在できないからだ。