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2024年障害者週間(4日目): 障害者の就労は、障害者の貧困を解消できるのか?
国の障害者週間、4日目にあたる今日は、障害者の就労が障害者の貧困を解消するのかどうかについて述べてみます。
いまさらですが、障害者週間の趣旨
内閣府サイトに示されている障害者週間の趣旨は、下記のとおりです(太字は筆者)。
「障害者週間」は、平成16年6月の障害者基本法の改正により、国民の間に広く障害者の福祉についての関心と理解を深めるとともに、障害者が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に積極的に参加する意欲を高めることを目的として、従来の「障害者の日」(12月9日)に代わるものとして設定されました。
この引用を行ったところで、私のコメカミはヒクヒクしています。「国民の間に広く障害者の福祉についての関心と理解を深める」とは、「障害者は幸福であってもよい」と思う方向に向かわせるということであり、「障害者は健常者と同様に幸福であるべきではない」と考えられている現状があるということ? 障害者の「参加する意欲を高める」って、なにそれ? まさか、「障害者が社会・経済・文化その他の活動に参加しないのは、障害者の参加意欲が低いからである」と言いたいわけではないでしょうね? でも、そう言っているのも同然です。ここでは、まとめて「社会参加」とします。
障害者はもともと社会参加しているが、「社会参加」にはお金がかかる
生きている障害者は、社会のどこかにいるはずです。このことをもって、「すでに社会参加している」ということはできると思います。
ただし、その「社会のどこか」が精神科病院の閉鎖病棟の中(32年目)や人里離れた施設の中(17年目)である場合、「その障害者の社会参加のありかたが著しく制約されている」という事実はあります。そもそも、住みたい地域と生活スタイルを選択できていないわけですから、人権侵害が行われているのは確かです。
また資本主義社会では、何をするにもお金が必要です。映画の鑑賞や美術展の鑑賞には障害者割引が用意されている場合もありますが、少なくとも交通費は必要。時間帯や所要時間によっては、外食費も必要です。
「障害者の社会参加」という用語で思い浮かべられるタイプの社会参加を、カッコつきの「社会参加」と表現することにすると、そのカッコの分だけ費用が必要になるわけです。3日間、昼も夜も着続けているスウェットで行くわけにはいきませんよね。それなりのカッコはつけることになります。すると、外に出ていけるような衣服の費用もかかるというわけです。ましてや「推し活」となると、相当の財力がないと継続できません。
障害者は、お金で「社会参加」を買ってはならない?
ここで問題になるのは、障害者の「可処分〇〇」が少ないことです。可処分時間・可処分所得・可処分エネルギーのうち1つ・2つ、場合によっては全部を欠いているのが、一般的な障害者です。私もそうですよ?
時間とエネルギーは、本人に代わって他人が提供することの難しいものです。しかしながら、お金があれば「家事の外注」「血縁者間のトラブルを弁護士さんにお任せ」という形で解消できるかもできません。「障害者との共生」「障害者の包摂」といった表現を好む方々は、お金の側面を無視し、「私たちが障害者に〇〇させてあげる」という図式を作って障害者の可処分エネルギーを減少させたがるものです。障害者に十分なお金があったら、その方々の居場所や出番が奪われる可能性に気づいているから、敢えてそうしているのかもしれませんね。
障害者の年間収入の中央値は100万円以下
障害者作業所の全国組織「きょうされん」は、障害者の生活実態調査レポートを毎年公表しています。
2023年販レポートによると、障害者の年収の中央値は50~100万円の区間にあり、80%近くが相対的貧困状態にあります。
実際の可処分所得は、生活状況によって異なります。同じように障害基礎年金(2級・年間約70万円)を受給していても、「生活基盤を親など他の家族に依存しているため、障害年金をすべお小遣いとして使うことができる」という障害者もいれば、「障害年金はあるけど就労収入が非課税ラインを少しだけ越えてしまうため、社会保険料・税・各種自費負担でヒーヒー」というケースもあります。さらに2020年以後は、新型コロナ感染症の影響による介助者不足の深刻化という問題もありますから、「ケアが確保できないため可処分所得が減った」「ヘルパーがトンデモな人ばかりになったのでストレスで健康を害した」というケースもあり得ます(実際にあります)。
いずれにしても、「社会参加」のために十分にお金が使える状況ではありません。また、使えるお金があれば「自分の時給が上がらないことに不満を持つヘルパーが八つ当たりをしてくる(そんなヒマがあれば労働問題として解決を図ればいいのに)」といった問題が起こり得るので、「同等の可処分所得のある健常者と同じように」とはいきません。
「就労収入なら『推し活』も許される」というわけではない
障害者が稼ぎづらく消費も委縮させられがちである問題に対しては、「生活保護や障害年金なので許されない。働いて得たお金であれば許される」という意見もあります。この意見は、健常者にも障害者にも人気があり、障害者にとっては、「充分な就労収入があれば、いつか自分が白眼視されなくなる日が来るかもしれない」という希望の源になっている側面もあります。でも、希望をぶち壊して申し訳ないのですが、どれほどの財力があっても、「障害者のくせに」という視線から解放される日は来ません。十分な財力があれば、羨望や嫉妬をぶつけられるだけです。「できない」「しようとしても脚をひっぱられる」という状況が、「できるし、しているけれど、全くお門違いな非難をされ妨害される」に変わるだけです。
その障害者は何か非難されるべきことをしているわけではなく、非難する側が誤っているわけですから、まず非難に対する制止がなされるべきです。場合によっては、ペナルティも必要かもしれません。内閣府さん、期待してますよ?
「障害者の所得を増やして生活保護を不要に」という路線が不発になっているワケ
きょうされんの2023年度調査結果には、生活保護の利用実態もあります。同年度、調査に応じた障害者らの生活保護の利用率は11.5%、一般世帯の7倍に達していました。
「障害者の就労促進によって生活保護を不要にする」という方向性は、1990年代から政策に存在し、実行に移されてきました。しかしながら、はかばかしい成果はありません。障害者の貧困状態は少しずつ改善しているように見えますが、収入の金額を見る限り、「社会全体の貧困が悪化している中で、障害者の貧困は若干は改善傾向に見える」以上の内容を読み取ることは危険だと思います。そもそも、生活保護基準も貧困線も下がってきていますから、「要保護状態ではない」「準要保護状態ではない」「相対的貧困とはいえない」と判断されるラインがズリ下がってきています。インフレは継続していますから、貧困の内容はさらに深刻化しているということです。
結果から見ると、「生活保護や給付を不要にするために、障害者に働かせて稼がせる」という方向性自体が誤っていたというべきでしょう。
ツッコミどころが多すぎるので、まずは冷静に考える基盤を
では、何をすれば、障害者は貧困でも不幸でもなくなるのでしょうか? 「こうすればよい」という答えは、私も持ち合わせていませんが、「ここがツッコミどころ」というポイントは挙げられます。
ぱっと思いつくのは、以下の5点です。
1.「 福祉ニーズを減らすために、福祉ニーズを持つ本人たちを変える」という考え方が、そもそも非実在障害者を前提としているので無理
2. 福祉ニーズを減らす手段としての「ワークフェア(働かざるもの食うべからず)」が、非実在状況を前提としているのでダメ
3. 障害者の収入の増えない原因を、雇用主の姿勢・作業所の努力不足・本人の努力不足・一般ピープルの理解不足など政策とその実施に責任を持つ人々以外のところに求めているのが誤りなので、機能する政策にならない
4. だけど、政策立案のために必要なデータや事実を収集し、分析するのは、政策とその実施に責任を持つ人々。お手盛りにしかならない
5. 以上の状況につき、国連障害者権利委員会をはじめとする国際社会から政府への叱られが発生し続けているのに、「強制力はない」という閣議決定でスルーし続けている
このように深刻で本質的で根深い問題は、すぐに変えられるものではありません。でも、変える機会が来たら変えられるように、学んで備えておくことはできます。
Amazon Kindle のバーゲン(本日12月6日まで)から、適切そうな本をピックアップしておきます。
安くなってるわけじゃないですけど、政策とエビデンスを考えるなら必読。
安くなってるわけじゃないですけど、障害者と経済・障害者と財政を考えるなら必読。著者は障害児の親である研究者。
安くなってるわけじゃないですけど、いい本ですよ(それにしても研究者が政治に関わるって(以下略))。
自著ですみません。本記事で述べたことは、がっつり52ページ使って議論してます。間違いなくお役に立ちます。本日12/6まで、値引き幅3500円(キリッ
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